41 / 93
第2章
食糧調達のリベンジをする
しおりを挟む
道中、練習も兼ねてモンスターを倒しながら迷幽の森にたどり着いた。
斬り獲った肉をロープで縛って進んでいる状態で、余程のことがない限り帰らないつもりだ。
それにしても魔王城の近くとは思えないほど空気が澄んでおり、前に来たときよりも新鮮な気がする。
キングベアなんて危険そうなモンスターが本当にいるのだろうか。
「確か奥の方にいるんですよね?」
「おうよ~」
いつの間にかデュークさんは大剣を背負っていた。どこかのタイミングで喚びだしたのだろう。
「前に来たときも思ったんですけど、空気が澄んでますね」
「ここはマーさんの手、入ってないからなー」
「魔王さんの手が入ってない?」
思わず同じ言葉を繰り返す。返す言葉も思いつかずまばたきを繰り返していると、
デュークさんが両手を頭の後ろで組んで話を続ける。
「そ。城周辺の荒れ地とかはマーさんが手を入れて、
モンスターが冒険者どもを見ると襲いかかるように暗示を
かけてんのー。ちょっと賢いのもそのせい」
「あっ」
思い当たることがあった。城周辺にいた突撃バッファロー。
狩る練習をしていたときに飛び上がって攻撃を仕掛けようとしたのだが、
相手は棒立ちにはならず角を突き出してきたのだった。
(賢いとは思っていたけど理由があったのか)
ホッとしたがこれからも対峙するときは注意しておかないといけない。
突然、ガサリと前方から音がして草むらが揺れる。
(まさか冒険者⁉)
つい敵対しているみたいなムードを出すが、俺の存在を知られたくないだけだ。
後ろの草むらに隠れようとも思ったが、隣のデュークさんを見ると頭の後ろで両手を組んでいたのを
解いて、音がしている方を注視している。
(いや、もし冒険者なら前みたいに隠れろって言うはずだ)
警戒しながら待つ。草むらから飛び出してきたのは俺の倍はある体長のモンスター。
俺たちに気づくと両腕を振り上げてきた。
(コイツがキングベアか!)
事前情報はないものの直感でそうだと思った。薄い黄色の
体毛を逆立たせて威嚇のポーズをとっている。
攻撃してくるかに見えたキングベアはそのまま固まった。
心なしかビックリしているように見える。
「ん?」
「俺たちが逃げないからビックリしてるんだと思うぜ~。
コイツは森の中で1、2を争う強さだからな」
「あ」
大きいのは確かなのだがエインシェントオークよりは
小さい。それに建築物以上あるリーダーのエインシャントオークを
見てしまったので、逃げたいとは思わない。
「グ、グオォ‼」
我に返ったキングベアは鋭い爪を振り下ろしてきた。
「危ねッ⁉」
急いで避ける。俺たちがいた場所は衝撃で土がめくれ上がっていた。パワーは言うまでもないが見かけによらず素早い。
じゅうぶん避けれるがこのままでは攻撃する隙がない。
(クソッ、少しの間気をそらすことができれば斬れるのに)
キングベアは俺とデュークさんを交互に狙ってきている。
冒険者パーティにも会ってきているはずなのでそこで得た知識だろう。
避けながら気をそらせる物がないか探していると
デュークさんから声がかかった。
「モトユウちゃん~、ちょっとこっち来な~」
「え、はい」
デュークさんに近づいた瞬間、胸ぐらを掴まれた。
と同時にこれから起こることについて悟る。
(あ、この流れは⁉)
「ヒハハハ!必殺、モトユウちゃん砲!」
「やっぱりーーーー‼」
いつも通りすごい勢いで投げ飛ばされた。必殺と言っていたが、
ただ俺が一方的に投げられるだけだし、必ず相手を倒せるわけでもない。
ところが、すぐにいつも通りではなかったことに気づく。
(ちょっと待て⁉スピードが速い⁉
って、避けることに集中して抜刀するの忘れてた!)
そう思っている間にもぐんぐんキングベアが大きく見えてくる。
相手も体勢が整っていないようで言葉は通じないのに焦っているのが伝わってきた。
(このまま突っ込むしかねぇ!)
痛いのを覚悟して体をまっすぐ伸ばす。すぐに頭部に鈍痛。
キングベアの腹に頭突きをくらわせた。
「オオォォ⁉」
悲鳴をあげながらキングベアが仰向けに倒れた。受け身をとって地面に着地し、
倒れているキングベアを見ると腹部が大きくヘコんでいる。
(え、そんなに強い衝撃だったのか?)
このぐらいの衝撃だったら俺の頭も骨が折れているのでは
ないのだろうか。しかし今のところズキズキとした痛みだけで他に異常はない。
「ヨッ、ナイス頭突き!」
「ワザとスピード速くーーデッ⁉」
大声を出したせいで頭がズキリと痛む。戻ったらテナシテさんに診てもらわないといけない。
「おいおい、大丈夫か~?」
「頭突きさせるからですよ……」
頭を抑えながら横目でキングベアを見るとピクリとも動かない。どうやら今ので気絶したようだ。
起きないうちにトドメをさすと急いで肉の剥ぎ取りを始める。
しかし、また違和感を覚えた。地面に着いたらモヤになって消えるので、
剥ぎ取る部分だけでも持ち上げて作業しているのだが、頭や脚がモヤになる気配がない。
「地面に着いてるのに消えない?」
「それもマーさんの手が入ってないから。マーさんの暗示のデメリットー」
「じゃあエインシェントオークとか突撃バッファローが地面に着くとモヤになって消えるのは」
「マーさんの暗示」
デュークさんは近くの木の幹に寄りかかってくつろいでいた。余裕感が半端ない。
「なら、最初からここで肉獲ればよかったんじゃ……」
「それでもよかったんだけどなー。実際対峙して
どうだったよ?相手の動き、速くなかったか?」
「速かったです」
「だろー?最初に城周辺で練習したのは速さに慣れさせる意味があった。
ここのモンスターも城周辺のヤツら並みに強いからな。
それに城周辺のモンスターならすぐに消えるから、
血の臭いにつられて別のモンスターが出てくるなんてことないしー」
(そんなことまで考えてたのか……)
肉を剥ぎ取り終えてロープで縛っていると、甘い匂いが
漂っていることに気づいた。立ち上がって匂いをかいでいると
俺の変化に気づいたデュークさんが立ち上がる。
「どうしたよ~、モトユウちゃん?」
「なんか甘い香りがするなって」
デュークさんも俺と同じように匂いをかぐと、閃いたように手を叩いた。
「あー、これはモリミツの香りだなー」
「モリミツ?」
「そ。ここに生息するフォレストワスプが集めてる物で
キングベアの大好物。俺たちに会う直前まで食ってたんだろうなー」
(っていうかデュークさん、モンスターのエキスパート⁉)
行動力がスゴいからだろう。モンスターの生態に詳しい。
俺が知らないということもあるが、それをナシにしても
モンスター学者顔負けではないだろうか。
(モリミツか。できれば持って帰りたいな。
フォレストワスプの巣を見つけたらいいのか)
「取りに行くなら付き合うぜ~?」
「ありがとうございます!巣ってどのあたりにあるんですか?」
「わかんな~い。歩き回るしかないな~」
「り、了解です」
「次の目標も決まったし、移動しようぜモトユウちゃん!
血の臭いにつられて他のヤツが来る」
(それは困る!)
慌てて移動を開始する。
巣を探しながらデュークさんの食事について尋ねてみることにした。
「そういえば、デュークさんは普段何食べてるんですか?」
「肉」
(即答かよ……)
答えはわかりきっていたがあまりの早さに閉口する。
「俺の食事気になるのー?」
「みんなです。俺、ここに来てからまだ肉しか食べてないし、
他に食べてる物があったら参考にしようかなって」
「ふ~ん。確かに俺は肉ばっかりだけど、モンスターが
食ってる物によって成分とか味が変わってくるからなー。
例えば、さっき獲ったキングベア。雑食ではあるが、ミツばっかり食ってるから、
この辺のモンスターじゃダントツに甘い」
「そうなんですか⁉」
「そうなんですよ~。肉もそこまで固くないからニガテな
ヤツでも食えると思うぜ~」
「ほえー……ハッ⁉」
感心しきって変な声が出てしまった。しかしデュークさんは
口元を覆う俺を見ても笑いもせず、むしろ自信満々に自分を指さす。
「どうよ、ホレなおしたー?」
「いえっ!そもそもホレてないです!」
「そーお?残念ー」
背伸びして届く木の枝の先に巣があった。大きさは俺の頭ぐらいで盾のように角張っている。
フォレストワスプも巣も両方は見たことはないが、目の前の巣で間違いなさそうだ。
「デュークさん、アレが巣ですか?」
「そう。届く位置にあってよかったなー」
するとデュークさんはおもむろに懐から革袋を取り出した。
今、俺が持っているロープも出してもらったものだが、用意周到だ。
「ほい、これに集めな~」
「あ、ありがとうございます。デュークさん、こうなるの
わかってたんですか?」
「いや?俺は外に出るときはロープと革袋を何個か持ってってんの。
食材集めれるようになー」
揺すって巣にモンスターがいないことを確認してから側を斬った。
断面からジンワリとミツが溢れ出してきたため、革袋を受け口にする。
しばらくしてミツが止まったので中を確認してみると、袋の半分より少し下の位置まで溜まっていた。
(これぐらいあれば充分だな)
地面に落ちていた蔓で袋の口を縛って立ち上がるとデュークさんから声がかかる。
「これからどうするよ~モトユウちゃん。まだ狩る?帰る?」
「帰ります」
「リョーカイ!」
また冒険者パーティに会ってしまうのではないかと不安でたまらなかったのだが、
身の危険を感じずに森を出ることができた。
(ここまで来たならあとは大丈夫か)
しかし魔王城が見えたところで、土煙がこちらに向かってきているのが目に入る。
(竜巻⁉にしては規模が小さい……)
よく目を凝らしてみると先頭に何かいる。
立派な角にガッシリとした4本足。
「突撃バッファロー⁉」
「だな~。しかも群れだし。なんでか知らないけどコーフンしてる~」
(肉とモリミツを持ってるから落としてムダにしたくない)
そうなると別のルートから城に戻るしかないだろう。考えている間にも土煙はどんどん迫ってきているため、
急いでデュークさんに提案することにした。
「デュークさん、別のルートから――」
「いや、このままでいい。
モトユウちゃんはそこから動くなよ?」
「え?」
デュークさんはそう言って数歩前に進むと大剣を地面に突き刺して腕を組んだ。
次の瞬間、デュークさんの周辺に赤い稲妻がはしり、空気がピリピリとしたものに変わる。
「失せろ」
「モ゛⁉」
突撃バッファローたちは慌ててブレーキをかけて止まると、デュークさんの前を右に方向転換していった。他のバッファローも同じように続く。
俺に向けられた殺気ではないのに鳥肌が立った。
(待って、なんだよこれ!)
俺が魔王の配下に成り下がる前に同じことをされていたら恐怖で動けなかっただろう。
魔王たちにはまだまだ奥の手があるようだ。
何事もなかったかのように大剣を背負って戻ってきた
デュークさんを平然を装って迎える。
「さ~てジャマモノはいなくなったし、
帰ろうぜー、モトユウちゃん」
「はい……。今のって殺気ですよね?」
「そう。別のルート行ってもよかったんだけどさー、
かと言ってあの数相手するのもめんどくさいから追い払った。
体力消耗するし、あんまり使わないようにはしてるんだけど」
(だからってなんであのタイミングなんだ⁉)
大きく息をついたデュークさんを見てそう思う。だったら
エインシェントオークの群れのときにも使えばよかったのではないか。
体力は消耗するがデュークさんのスタミナなら使用後も2時間は剣をふりまわせるだろう。
(熟練の冒険者だと気でモンスターを追い払うって聞いたことはあるから、
魔族特有ではないと思うけど)
謎が多い。
城門をくぐって大きく息をついた。
特に大きなケガなく戻ってこれたのはいいことだと思う。
「そういえば、ほとんど剣使わなかったですね」
「まぁ保険で出しただけだからなー。モトユウちゃん砲したあともピンチになるようだったら
斬りかかるつもりではいたが」
俺は裏の意味も感じ取った。以前のように冒険者パーティに会ってしまったとき、
すぐに戦闘に入れるようにもあっただろう。今回は遭遇しなくてよかったと心から思う。
つい、いろいろ考えているとデュークさんが大きく伸びをしながら俺にグッと顔を近づけてきた。
「じゃあモトユウちゃん、行きますかー」
「ど、どこに?」
「俺とモトユウちゃんがよく行く場所っ!」
デュークさんは満面の笑みで言うと
俺の腕を掴んで引っ張って行った。
斬り獲った肉をロープで縛って進んでいる状態で、余程のことがない限り帰らないつもりだ。
それにしても魔王城の近くとは思えないほど空気が澄んでおり、前に来たときよりも新鮮な気がする。
キングベアなんて危険そうなモンスターが本当にいるのだろうか。
「確か奥の方にいるんですよね?」
「おうよ~」
いつの間にかデュークさんは大剣を背負っていた。どこかのタイミングで喚びだしたのだろう。
「前に来たときも思ったんですけど、空気が澄んでますね」
「ここはマーさんの手、入ってないからなー」
「魔王さんの手が入ってない?」
思わず同じ言葉を繰り返す。返す言葉も思いつかずまばたきを繰り返していると、
デュークさんが両手を頭の後ろで組んで話を続ける。
「そ。城周辺の荒れ地とかはマーさんが手を入れて、
モンスターが冒険者どもを見ると襲いかかるように暗示を
かけてんのー。ちょっと賢いのもそのせい」
「あっ」
思い当たることがあった。城周辺にいた突撃バッファロー。
狩る練習をしていたときに飛び上がって攻撃を仕掛けようとしたのだが、
相手は棒立ちにはならず角を突き出してきたのだった。
(賢いとは思っていたけど理由があったのか)
ホッとしたがこれからも対峙するときは注意しておかないといけない。
突然、ガサリと前方から音がして草むらが揺れる。
(まさか冒険者⁉)
つい敵対しているみたいなムードを出すが、俺の存在を知られたくないだけだ。
後ろの草むらに隠れようとも思ったが、隣のデュークさんを見ると頭の後ろで両手を組んでいたのを
解いて、音がしている方を注視している。
(いや、もし冒険者なら前みたいに隠れろって言うはずだ)
警戒しながら待つ。草むらから飛び出してきたのは俺の倍はある体長のモンスター。
俺たちに気づくと両腕を振り上げてきた。
(コイツがキングベアか!)
事前情報はないものの直感でそうだと思った。薄い黄色の
体毛を逆立たせて威嚇のポーズをとっている。
攻撃してくるかに見えたキングベアはそのまま固まった。
心なしかビックリしているように見える。
「ん?」
「俺たちが逃げないからビックリしてるんだと思うぜ~。
コイツは森の中で1、2を争う強さだからな」
「あ」
大きいのは確かなのだがエインシェントオークよりは
小さい。それに建築物以上あるリーダーのエインシャントオークを
見てしまったので、逃げたいとは思わない。
「グ、グオォ‼」
我に返ったキングベアは鋭い爪を振り下ろしてきた。
「危ねッ⁉」
急いで避ける。俺たちがいた場所は衝撃で土がめくれ上がっていた。パワーは言うまでもないが見かけによらず素早い。
じゅうぶん避けれるがこのままでは攻撃する隙がない。
(クソッ、少しの間気をそらすことができれば斬れるのに)
キングベアは俺とデュークさんを交互に狙ってきている。
冒険者パーティにも会ってきているはずなのでそこで得た知識だろう。
避けながら気をそらせる物がないか探していると
デュークさんから声がかかった。
「モトユウちゃん~、ちょっとこっち来な~」
「え、はい」
デュークさんに近づいた瞬間、胸ぐらを掴まれた。
と同時にこれから起こることについて悟る。
(あ、この流れは⁉)
「ヒハハハ!必殺、モトユウちゃん砲!」
「やっぱりーーーー‼」
いつも通りすごい勢いで投げ飛ばされた。必殺と言っていたが、
ただ俺が一方的に投げられるだけだし、必ず相手を倒せるわけでもない。
ところが、すぐにいつも通りではなかったことに気づく。
(ちょっと待て⁉スピードが速い⁉
って、避けることに集中して抜刀するの忘れてた!)
そう思っている間にもぐんぐんキングベアが大きく見えてくる。
相手も体勢が整っていないようで言葉は通じないのに焦っているのが伝わってきた。
(このまま突っ込むしかねぇ!)
痛いのを覚悟して体をまっすぐ伸ばす。すぐに頭部に鈍痛。
キングベアの腹に頭突きをくらわせた。
「オオォォ⁉」
悲鳴をあげながらキングベアが仰向けに倒れた。受け身をとって地面に着地し、
倒れているキングベアを見ると腹部が大きくヘコんでいる。
(え、そんなに強い衝撃だったのか?)
このぐらいの衝撃だったら俺の頭も骨が折れているのでは
ないのだろうか。しかし今のところズキズキとした痛みだけで他に異常はない。
「ヨッ、ナイス頭突き!」
「ワザとスピード速くーーデッ⁉」
大声を出したせいで頭がズキリと痛む。戻ったらテナシテさんに診てもらわないといけない。
「おいおい、大丈夫か~?」
「頭突きさせるからですよ……」
頭を抑えながら横目でキングベアを見るとピクリとも動かない。どうやら今ので気絶したようだ。
起きないうちにトドメをさすと急いで肉の剥ぎ取りを始める。
しかし、また違和感を覚えた。地面に着いたらモヤになって消えるので、
剥ぎ取る部分だけでも持ち上げて作業しているのだが、頭や脚がモヤになる気配がない。
「地面に着いてるのに消えない?」
「それもマーさんの手が入ってないから。マーさんの暗示のデメリットー」
「じゃあエインシェントオークとか突撃バッファローが地面に着くとモヤになって消えるのは」
「マーさんの暗示」
デュークさんは近くの木の幹に寄りかかってくつろいでいた。余裕感が半端ない。
「なら、最初からここで肉獲ればよかったんじゃ……」
「それでもよかったんだけどなー。実際対峙して
どうだったよ?相手の動き、速くなかったか?」
「速かったです」
「だろー?最初に城周辺で練習したのは速さに慣れさせる意味があった。
ここのモンスターも城周辺のヤツら並みに強いからな。
それに城周辺のモンスターならすぐに消えるから、
血の臭いにつられて別のモンスターが出てくるなんてことないしー」
(そんなことまで考えてたのか……)
肉を剥ぎ取り終えてロープで縛っていると、甘い匂いが
漂っていることに気づいた。立ち上がって匂いをかいでいると
俺の変化に気づいたデュークさんが立ち上がる。
「どうしたよ~、モトユウちゃん?」
「なんか甘い香りがするなって」
デュークさんも俺と同じように匂いをかぐと、閃いたように手を叩いた。
「あー、これはモリミツの香りだなー」
「モリミツ?」
「そ。ここに生息するフォレストワスプが集めてる物で
キングベアの大好物。俺たちに会う直前まで食ってたんだろうなー」
(っていうかデュークさん、モンスターのエキスパート⁉)
行動力がスゴいからだろう。モンスターの生態に詳しい。
俺が知らないということもあるが、それをナシにしても
モンスター学者顔負けではないだろうか。
(モリミツか。できれば持って帰りたいな。
フォレストワスプの巣を見つけたらいいのか)
「取りに行くなら付き合うぜ~?」
「ありがとうございます!巣ってどのあたりにあるんですか?」
「わかんな~い。歩き回るしかないな~」
「り、了解です」
「次の目標も決まったし、移動しようぜモトユウちゃん!
血の臭いにつられて他のヤツが来る」
(それは困る!)
慌てて移動を開始する。
巣を探しながらデュークさんの食事について尋ねてみることにした。
「そういえば、デュークさんは普段何食べてるんですか?」
「肉」
(即答かよ……)
答えはわかりきっていたがあまりの早さに閉口する。
「俺の食事気になるのー?」
「みんなです。俺、ここに来てからまだ肉しか食べてないし、
他に食べてる物があったら参考にしようかなって」
「ふ~ん。確かに俺は肉ばっかりだけど、モンスターが
食ってる物によって成分とか味が変わってくるからなー。
例えば、さっき獲ったキングベア。雑食ではあるが、ミツばっかり食ってるから、
この辺のモンスターじゃダントツに甘い」
「そうなんですか⁉」
「そうなんですよ~。肉もそこまで固くないからニガテな
ヤツでも食えると思うぜ~」
「ほえー……ハッ⁉」
感心しきって変な声が出てしまった。しかしデュークさんは
口元を覆う俺を見ても笑いもせず、むしろ自信満々に自分を指さす。
「どうよ、ホレなおしたー?」
「いえっ!そもそもホレてないです!」
「そーお?残念ー」
背伸びして届く木の枝の先に巣があった。大きさは俺の頭ぐらいで盾のように角張っている。
フォレストワスプも巣も両方は見たことはないが、目の前の巣で間違いなさそうだ。
「デュークさん、アレが巣ですか?」
「そう。届く位置にあってよかったなー」
するとデュークさんはおもむろに懐から革袋を取り出した。
今、俺が持っているロープも出してもらったものだが、用意周到だ。
「ほい、これに集めな~」
「あ、ありがとうございます。デュークさん、こうなるの
わかってたんですか?」
「いや?俺は外に出るときはロープと革袋を何個か持ってってんの。
食材集めれるようになー」
揺すって巣にモンスターがいないことを確認してから側を斬った。
断面からジンワリとミツが溢れ出してきたため、革袋を受け口にする。
しばらくしてミツが止まったので中を確認してみると、袋の半分より少し下の位置まで溜まっていた。
(これぐらいあれば充分だな)
地面に落ちていた蔓で袋の口を縛って立ち上がるとデュークさんから声がかかる。
「これからどうするよ~モトユウちゃん。まだ狩る?帰る?」
「帰ります」
「リョーカイ!」
また冒険者パーティに会ってしまうのではないかと不安でたまらなかったのだが、
身の危険を感じずに森を出ることができた。
(ここまで来たならあとは大丈夫か)
しかし魔王城が見えたところで、土煙がこちらに向かってきているのが目に入る。
(竜巻⁉にしては規模が小さい……)
よく目を凝らしてみると先頭に何かいる。
立派な角にガッシリとした4本足。
「突撃バッファロー⁉」
「だな~。しかも群れだし。なんでか知らないけどコーフンしてる~」
(肉とモリミツを持ってるから落としてムダにしたくない)
そうなると別のルートから城に戻るしかないだろう。考えている間にも土煙はどんどん迫ってきているため、
急いでデュークさんに提案することにした。
「デュークさん、別のルートから――」
「いや、このままでいい。
モトユウちゃんはそこから動くなよ?」
「え?」
デュークさんはそう言って数歩前に進むと大剣を地面に突き刺して腕を組んだ。
次の瞬間、デュークさんの周辺に赤い稲妻がはしり、空気がピリピリとしたものに変わる。
「失せろ」
「モ゛⁉」
突撃バッファローたちは慌ててブレーキをかけて止まると、デュークさんの前を右に方向転換していった。他のバッファローも同じように続く。
俺に向けられた殺気ではないのに鳥肌が立った。
(待って、なんだよこれ!)
俺が魔王の配下に成り下がる前に同じことをされていたら恐怖で動けなかっただろう。
魔王たちにはまだまだ奥の手があるようだ。
何事もなかったかのように大剣を背負って戻ってきた
デュークさんを平然を装って迎える。
「さ~てジャマモノはいなくなったし、
帰ろうぜー、モトユウちゃん」
「はい……。今のって殺気ですよね?」
「そう。別のルート行ってもよかったんだけどさー、
かと言ってあの数相手するのもめんどくさいから追い払った。
体力消耗するし、あんまり使わないようにはしてるんだけど」
(だからってなんであのタイミングなんだ⁉)
大きく息をついたデュークさんを見てそう思う。だったら
エインシェントオークの群れのときにも使えばよかったのではないか。
体力は消耗するがデュークさんのスタミナなら使用後も2時間は剣をふりまわせるだろう。
(熟練の冒険者だと気でモンスターを追い払うって聞いたことはあるから、
魔族特有ではないと思うけど)
謎が多い。
城門をくぐって大きく息をついた。
特に大きなケガなく戻ってこれたのはいいことだと思う。
「そういえば、ほとんど剣使わなかったですね」
「まぁ保険で出しただけだからなー。モトユウちゃん砲したあともピンチになるようだったら
斬りかかるつもりではいたが」
俺は裏の意味も感じ取った。以前のように冒険者パーティに会ってしまったとき、
すぐに戦闘に入れるようにもあっただろう。今回は遭遇しなくてよかったと心から思う。
つい、いろいろ考えているとデュークさんが大きく伸びをしながら俺にグッと顔を近づけてきた。
「じゃあモトユウちゃん、行きますかー」
「ど、どこに?」
「俺とモトユウちゃんがよく行く場所っ!」
デュークさんは満面の笑みで言うと
俺の腕を掴んで引っ張って行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる