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# 58ー記憶ー
しおりを挟む「確か……昨日、望のことを抱きたいって言った時に、望は『風邪が治ったらな』って言っておったしな。
そして、今日は今日で『早く出て来いよ』に『昨日の約束、守ってやる』って言っておったしな……。
それを合わせると、そういうことになるって訳や!」
雄介はようやく、望の意味ありげな言葉の真意に気づいたようだった。
その瞬間、顔がぱっと明るくなり、耳まで赤く染まっていく。
望の方からそう言ってくれた――そのことが、雄介には何より嬉しかった。
まるで少年のような笑みを浮かべながら、彼は念入りに体を洗い始める。
泡立つ石けんの香りが浴室いっぱいに広がり、鼻歌が心なしか弾んでいる。
「♪~~~♪」
それも当然だ。望からのお誘いなのだから、こんな幸せなことはない。
胸の鼓動が高鳴るのを感じながら、雄介はお湯を流して立ち上がった。
だが、そこでふと動きを止める。
「……明日、望の奴、大丈夫なんやろか?
仕事に差し支えるようなら、流石に今日はやめておいた方がええかもしれんな……。
ま、ええか。後は望次第っていうことで!」
小さく息をつきながらタオルで体を拭く。
風呂上がりの熱がまだ残る体から湯気が立ち上り、雄介は軽く髪を整えてからリビングへと向かった。
リビングでは、望がソファに腰を下ろし、テレビをぼんやりと眺めていた。
その背中を見た瞬間、雄介の心にあたたかいものがこみ上げてくる。
気づけば自然と、彼は望の後ろからそっと腕を回し、抱きしめていた。
「なぁ、明日は仕事、大丈夫なん?」
雄介の声に、望は少し驚いたように振り返る。
「ん? あ……出てきたのか?
ああ、明日は久しぶりに休みをとったんだ。だから休み。
だけど、お前は仕事あんだろ?」
「んー……俺やってもう一日くらい、ええやろな?」
その言葉に、望は思わずクスリと笑った。
いつものように強がるようでいて、どこか甘い雄介の言葉。
それがたまらなく愛おしかった。
「あー! ほなら、明日はデートしよっか!?」
「え? ん……あー……まぁ……ああ……まぁ、いいけどよ……」
照れ隠しのような望の反応に、雄介は満面の笑みを浮かべる。
そんな会話から、二人にとって初めてのデートが決まったのだった。
まだ行く場所は決めていない。
けれど今は――ただ、互いの存在を確かめるように。
リビングの明かりを落とし、静かに望の部屋へと向かうのだった。
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