【R18】一目惚れされた俺!恋人は俺だけに甘いスパダリだった!

望月 キララ

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# 92ー記憶ー

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「それはな……お前とここの病院でコンビを組んで働いていたからなんだよ。
 俺が看護師で、お前が医者ってことさ」

「そうだったのか。んー、ちょ、悪い……今日は疲れてるから、話はまた今度にしてくれないか?」

「ああ、じゃあ分かった。
 また、何かあったら俺のこと呼んでくれよ! すぐに飛んで来てやるからなっ!」

 そう言うと和也は望に向かって笑顔を向け、病室を後にした。

 どんなに悲しい状況でも、男は誰にも涙を見せてはならない。
 かっこよく言えばそうなのかもしれないが、現実に友達があんな状況になったとき、涙を我慢できる人間がどれほどいるだろうか。

 今は夢ではない。現実だ。

 もしこれが夢なら、少なくとも涙を流さずに済むのかもしれない。
 だが現実は、確かにそこに存在している。

 今日の和也は、望の前でとりあえず笑顔でいられた。
 しかし、雄介から望が記憶喪失になったことを聞いたときは、正直、嘘ではないかと疑った。
 だが実際に望と話をしてみて、雄介の言う通り、望は完全に記憶を失っていると確信せざるを得なかった。

 ドラマや小説で見た記憶喪失の話――
 しかし、身近な人がそれに陥った現実は、まるで死んでしまったかのような感覚を伴う。

 そこにいるのは望であって、望ではない人物。

 記憶を失うということは、過去の思い出も、自分自身のことさえも完全に覚えていないということだ。
 本当に、それが一番辛い現実だ。

 普段は泣かない自分であっても、現実を突きつけられると涙は勝手に溢れてくる。
 和也は必死に歯を食いしばり、深呼吸を繰り返して自分を落ち着かせた。

 確かに記憶を失くしている望。
 だが、医師は言っていた――
 「日常生活の中で、自然と記憶が戻ることもあります」

 記憶を失っただけで、望自身はまだ生きているのだ。
 まだ普通の望に戻る可能性はある。

 ならば、今まで通り望に接していくべきだろう。

 この涙も、望が記憶を取り戻したときのためにとっておこう。

 そう決意した和也は、静かに病室を後にした。

 一方、病院を後にした雄介は、雨の夜道を一人歩きながら、自宅へと向かっていた。
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