GPTであそぼ

鹿又杏奈\( ᐛ )/

文字の大きさ
11 / 55
すずちゃんのJK生活

第9話 黄昏と眼鏡

しおりを挟む
「──静か、だなあ……」

カーテン越しに夕陽が差し込む部屋で、小鈴はそっと布の端をつまみ、窓の外を覗いた。
わずかに開かれた隙間から見えるのは、日が傾きかけた住宅街の景色。
屋根の連なりの向こうで、オレンジと藍がゆっくりと溶け合い、夏の終わりを告げるような空が広がっていた。

帰宅ラッシュにはまだ早く、街の音もどこか遠く。
車の通る音が時折、地面を這うように響いては、またすぐに静寂に吸い込まれていく。

──この静けさは、何だか懐かしい。

胸の奥に、淡く滲むような不安と安堵の混ざった気持ちを抱えたまま、そっとカーテンを閉じた。

通い慣れていた中学校とは何もかもが違う。
広くて、眩しくて、どこか夢のような場所──グリフィンチ学園。
名門であり、選ばれた者の集う場所だと聞かされていたその学園の中でも、さらに“特別”なクラス、1-G組。

入学したばかりの春の日の記憶も、すでに遠くに思える。
その日からの出来事は、まるで別の物語のようだった。

異能。
裏文芸部。
帳面──そして、《貪食》という力。

信じられないような言葉が、自分の中に静かに沈んでいく。

「私、本当に、“異能者”になったんだろうか……」

制服のまま、ベッドにごろんと寝転がる。
天井の模様を見つめながら、誰に聞かせるでもない声で、ぽつりと呟いた。

──こんなこと、本当にあるんだろうか。
漫画や小説の中にしかないと思ってたのに。
でも、あの日から、世界は少しずつ、確かに変わり始めていた。

自分の中に確かに“力”がある。
けれど、その重さや意味を、まだ掴みきれずにいる。

まばたきのリズムが緩んでいく。
瞼が重くなり始め、意識がゆるやかに眠気に引き寄せられようとした、そのとき──

「……え?」

耳元で、泡が弾けるような音がした。
小さく、でも確かに、空間を震わせるような──コポォン、という音。

驚いて目を開けた瞬間、天井の一角から、それは現れた。

ふわふわと漂う黒縁メガネ。
重力を無視するように空間を泳ぎながら、小鈴の方へとじわじわ近づいてくる。

「……また、来た……!?」

反射的に身体を起こし、ベッドの端に座り直した瞬間、
黒縁メガネは空中で軽く回転しながら──ぴたり、と小鈴の目の前に“座った”。

「やっほ~小鈴ちゃ~ん☆ 会いたかった? ねぇ、会いたかったでしょ? え、うそ? 嘘って言ったら泣いちゃうよ~?」

「……別に。っていうか、本当に何なんですか……!」

思わず語気が強くなる。

それも当然だった。
異能を手にしたその日から、幾度となく現れては好き勝手なことを言って消えていく、この“バンブー”と名乗る異形の存在。
そのふざけた口調とは裏腹に、語られる言葉はどこか現実をねじまげてくるようで──怖かった。

「ま~まぁまぁ、そんなに怒らないでさ。今日はちょっと真面目なお話をしに来たんだから。小鈴ちゃんに、“自覚”してもらいたくてね」

「……自覚、って?」

「うん。キミはもう、ただの人間じゃない。《貪食》という異能を持つ者として、世界にとってちょっと特別な存在になっちゃったわけ。だから、そろそろ自分の立場を、ちゃんと理解しておいてほしいな~って」

胸の奥が、ひやりと冷えた気がした。

「……誰に、備えろっていうの?」

その問いに、バンブーの声色が一瞬だけ変わる。

「“敵”さ。人間かもしれないし、異形かもしれない。あるいは……“異能そのもの”かもしれない。
でもね、小鈴ちゃん。《貪食》って能力は、特に“厄介”で“危険”なんだ。だからこそ、狙われやすい。これはね、警告なんだよ」

言葉が喉に詰まり、息を飲む。

──どうして、私がそんな目に。

そんな疑問が渦を巻く中、バンブーはくるくると空中で踊るように回転しながら、次の話題を持ち出した。

「それから、もうひとつ重要なこと。黒酒一郎くんについて」

「……黒酒くん?」

思わず名前を繰り返す。

「彼の家はね、代々異能を記録・管理してきた一族なんだ。表向きは名家、だけど裏では“図書館”であり“監獄”として機能してきた。
彼が持ってる“帳面”──あれは、異能者にとっては“攻略本”みたいなものだよ」

「……そんな……」

「もちろん、黒酒くんが悪いわけじゃない。だけど帳面は、感情も容赦も持たない。観測された異能は、すべて記録され、対象になる。キミの《貪食》もね」

その言葉が落ちた瞬間、小鈴の心に冷たい水が注ぎ込まれる。

──私のこと、記録されてる?

信頼していた黒酒くんが?
でも、それは彼自身の意志じゃない……。

思考がぐるぐると回り始めたところで、バンブーの声が、少しだけ優しくなる。

「だからこそ、“選んで”ほしいんだ。
これからどうやって《貪食》と向き合っていくか。
何を欲し、何を取り込むか。
そのすべては、キミの“選択”にかかっている。
この力は、キミ次第で“救い”にも“破滅”にもなるんだよ」

その言葉を最後に、バンブーはふわりと浮かび、光の粒となって消えていった。

──静けさが戻ってくる。

聞こえるのは、時計の針が進む音だけ。

「……選び続ける……か」

自分の手を見下ろせば、震えていた。気づかないうちに、ぎゅっと指が強く握られていた。

ベッドを離れ、階段を降りる。
ドアの向こうから、テレビの音と、家族の話し声が聞こえる。

「小鈴、おかえり。温かいスープあるわよ」
「パパの野菜炒め、今日のは自信作だぞ!」

──何気ない、でもかけがえのない、日常。

「……ありがとう。いただきます」

この時間を守りたい。
この“普通”を、選び続けたい。

その夜。
眠れないまま、天井を見上げていた小鈴は、再び静かに手を握った。

壊すためじゃない。
奪うためでもない。
守るために、力を使いたい。

それが、今の私の“選択”。

──そして、私は私を、選び続ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...