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すずちゃんのJK生活
第15話 夏がくる
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テスト最終日。午前中で解放された私たちは、文芸部の部室に自然と集まっていた。
「終わったぁああああああああああああああ!!」
叫んだのは、もちろん乃斗楓ちゃんだった。両手をバンザイしながらソファに突っ伏すその姿に、みんなが苦笑する。
「ねぇねぇ、みんな、夏休みってどうするの? 勉強とかもういやだよぉ~!遊びたいっ!泳ぎたいっ!アイス食べたいっ!」
「G組の発言とは思えないんだけど……」
真顔で呟いたのは鳥夜都斗くん。彼は相変わらず冷静で、片手には試験結果の資料らしき紙がある。テストが終わったとはいえ、その目はどこかまだ“戦闘態勢”を崩していなかった。
「小鈴ちゃんは、なにか予定あるの?」
優凜先輩が柔らかく微笑みながら、私に問いかけてくれる。
「え、私は……あんまり、まだ考えてなくて。せっかくだから家族と過ごせたらいいな、ってくらいで……」
「偉いなあ。俺なんて、勉強した直後に“記憶を消去したい”って毎回思ってたもん」
そう言って肩を竦める紅葉先輩。やっぱり彼は誰よりも優秀なはずなのに、こういうときは同じ目線に立ってくれるような言葉をくれる。
……ちょっと、ズルい。
「え~、ほんとつまんな~い……みんな“良い子”すぎるぅ~。もうG組なんてやめたい!もっとバカな子たちと遊びたい~!」
楓ちゃんがごろごろと床に転がって喚く。誰も止めない。というか、もはや“いつも通り”の風景だ。
「まあ、楓には刺激が足りなかったかもな」
紅葉先輩がふっと笑いながら呟き、ついでのように言葉を継ぐ。
「……夏は、もう少し面白いことがあると思うよ」
「え、何かあるんですか?」
思わず私が食いつくと、優凜先輩がちらりと視線を横に流す。
「黒酒くんは寮で一人暮らしだったよね。夏休みって、実家帰るの?」
「ええ、一応……いくつか用事もあるので」
「それ私も気になってた! 黒酒くんの家って、どんな感じなの?」
楓ちゃんがぴょんっと身を乗り出す。
その瞬間、私は反射的に口を挟んでしまった。
「え……知らないの? 黒酒家って、裏社会に強い影響力を持ってる、いわゆる“正義のヤクザ”みたいな……あの黒酒グループ、だよね?」
教室の空気が、ぴたりと止まる。
「……え、え? マジで?」
紅葉先輩の声が、すっと低くなる。
「……あの、各国要人の警護を独自に請け負ってたり、資源系企業とも繋がってるっていう、“表に出ない巨大組織”の……?」
「しかも医療、教育、食料、軍需まで、あらゆる分野に手を広げてる。総合企業というより、“国家の代行機関”みたいな存在……」
ぽつりぽつりと私が語るたびに、空気がどんどん重たくなっていく。
気づけば、みんなの視線が一郎くんに集中していた。
「いや……外部生って言ってたじゃん。普通の家庭だと思ってたよ」
都斗くんがぼそりと呟く。珍しく、驚きを隠しきれていない様子だ。
「……ごめん、特に言う必要もないかなと思って。あまり話したくない家のことだし、俺自身も深く関わってないから」
一郎くんは、いつも通りの無表情で静かに応える。
その言い方があまりにも自然で、それが逆に“重み”を感じさせる。
「っていうか、そもそもどうやってこの学園に入ったの? 推薦とかじゃないよね? だって黒酒家って……」
「うん、俺は外部生として受験したよ。というか……中学までは、ほとんど家から出てなかったし」
「……え?」
「家庭教師が十人くらいいて、毎日スケジュール組まれてたから、通学の必要がなくて。実地の学校生活っていうのは、グリフィンチが初めてなんだ」
「十人……!?」
あまりにも現実離れしたその環境に、誰もが絶句する。
私も思わず口を開くが、声が出なかった。
(そんな育ち方、世界が違いすぎる……)
「だから“外部生”って言ったのも、間違いじゃないんだ。自分で受験して、自分でこの場所を選んだから」
静かに語るその言葉には、迷いのない意志が宿っていた。
けれど。
その背景にあるものが、私たちの“普通”とはあまりにもかけ離れている。
(私なんかが、同じ教室にいていいのかな……)
ふと、そんな思いが胸をかすめる。
でも――
「ま、まあまあまあ! 一郎くんが何者でもいいじゃん! 今ここにいるのは、1-Gの仲間なんだから!」
楓ちゃんの陽気な声が、その空気を一気に溶かした。
「うちなんてさ! スポーツ用品の会社の跡継ぎってだけで、体育会系の親戚に合宿呼ばれまくるんだからね!? 夏休みなんて地獄よ!?」
その一言に、思わず笑いがこみ上げた。
「……お盆あたりに、一度会いましょう。黒酒家に伝えておきます」
「えええ!?」
「別荘くらいは用意できますし、他の人間は入れません。多少羽目を外しても大丈夫です」
「お、温泉……とかありますか?」
「もちろん。あとプールと射撃場と……小型ドックなら」
「どこの映画の悪役組織だよ!?」
都斗くんのツッコミが、今日一番冴えていた。
──
こうして、少し歪なままだけれど、私たちの夏休みの幕が上がろうとしていた。
テストが終わって、肩の力が抜けて、みんなの“素顔”が少しずつ見え始めた。
この夏が、きっと特別なものになる。
そんな予感だけが、胸の奥で静かに光っていた。
……私はまだ、彼らの“すべて”を知っているわけじゃない。
でも、知ってしまったぶんだけ。
ちゃんと向き合いたいと思った。
そう、ちゃんと。
私がこの場所にいる意味を、探し続けるために。
「終わったぁああああああああああああああ!!」
叫んだのは、もちろん乃斗楓ちゃんだった。両手をバンザイしながらソファに突っ伏すその姿に、みんなが苦笑する。
「ねぇねぇ、みんな、夏休みってどうするの? 勉強とかもういやだよぉ~!遊びたいっ!泳ぎたいっ!アイス食べたいっ!」
「G組の発言とは思えないんだけど……」
真顔で呟いたのは鳥夜都斗くん。彼は相変わらず冷静で、片手には試験結果の資料らしき紙がある。テストが終わったとはいえ、その目はどこかまだ“戦闘態勢”を崩していなかった。
「小鈴ちゃんは、なにか予定あるの?」
優凜先輩が柔らかく微笑みながら、私に問いかけてくれる。
「え、私は……あんまり、まだ考えてなくて。せっかくだから家族と過ごせたらいいな、ってくらいで……」
「偉いなあ。俺なんて、勉強した直後に“記憶を消去したい”って毎回思ってたもん」
そう言って肩を竦める紅葉先輩。やっぱり彼は誰よりも優秀なはずなのに、こういうときは同じ目線に立ってくれるような言葉をくれる。
……ちょっと、ズルい。
「え~、ほんとつまんな~い……みんな“良い子”すぎるぅ~。もうG組なんてやめたい!もっとバカな子たちと遊びたい~!」
楓ちゃんがごろごろと床に転がって喚く。誰も止めない。というか、もはや“いつも通り”の風景だ。
「まあ、楓には刺激が足りなかったかもな」
紅葉先輩がふっと笑いながら呟き、ついでのように言葉を継ぐ。
「……夏は、もう少し面白いことがあると思うよ」
「え、何かあるんですか?」
思わず私が食いつくと、優凜先輩がちらりと視線を横に流す。
「黒酒くんは寮で一人暮らしだったよね。夏休みって、実家帰るの?」
「ええ、一応……いくつか用事もあるので」
「それ私も気になってた! 黒酒くんの家って、どんな感じなの?」
楓ちゃんがぴょんっと身を乗り出す。
その瞬間、私は反射的に口を挟んでしまった。
「え……知らないの? 黒酒家って、裏社会に強い影響力を持ってる、いわゆる“正義のヤクザ”みたいな……あの黒酒グループ、だよね?」
教室の空気が、ぴたりと止まる。
「……え、え? マジで?」
紅葉先輩の声が、すっと低くなる。
「……あの、各国要人の警護を独自に請け負ってたり、資源系企業とも繋がってるっていう、“表に出ない巨大組織”の……?」
「しかも医療、教育、食料、軍需まで、あらゆる分野に手を広げてる。総合企業というより、“国家の代行機関”みたいな存在……」
ぽつりぽつりと私が語るたびに、空気がどんどん重たくなっていく。
気づけば、みんなの視線が一郎くんに集中していた。
「いや……外部生って言ってたじゃん。普通の家庭だと思ってたよ」
都斗くんがぼそりと呟く。珍しく、驚きを隠しきれていない様子だ。
「……ごめん、特に言う必要もないかなと思って。あまり話したくない家のことだし、俺自身も深く関わってないから」
一郎くんは、いつも通りの無表情で静かに応える。
その言い方があまりにも自然で、それが逆に“重み”を感じさせる。
「っていうか、そもそもどうやってこの学園に入ったの? 推薦とかじゃないよね? だって黒酒家って……」
「うん、俺は外部生として受験したよ。というか……中学までは、ほとんど家から出てなかったし」
「……え?」
「家庭教師が十人くらいいて、毎日スケジュール組まれてたから、通学の必要がなくて。実地の学校生活っていうのは、グリフィンチが初めてなんだ」
「十人……!?」
あまりにも現実離れしたその環境に、誰もが絶句する。
私も思わず口を開くが、声が出なかった。
(そんな育ち方、世界が違いすぎる……)
「だから“外部生”って言ったのも、間違いじゃないんだ。自分で受験して、自分でこの場所を選んだから」
静かに語るその言葉には、迷いのない意志が宿っていた。
けれど。
その背景にあるものが、私たちの“普通”とはあまりにもかけ離れている。
(私なんかが、同じ教室にいていいのかな……)
ふと、そんな思いが胸をかすめる。
でも――
「ま、まあまあまあ! 一郎くんが何者でもいいじゃん! 今ここにいるのは、1-Gの仲間なんだから!」
楓ちゃんの陽気な声が、その空気を一気に溶かした。
「うちなんてさ! スポーツ用品の会社の跡継ぎってだけで、体育会系の親戚に合宿呼ばれまくるんだからね!? 夏休みなんて地獄よ!?」
その一言に、思わず笑いがこみ上げた。
「……お盆あたりに、一度会いましょう。黒酒家に伝えておきます」
「えええ!?」
「別荘くらいは用意できますし、他の人間は入れません。多少羽目を外しても大丈夫です」
「お、温泉……とかありますか?」
「もちろん。あとプールと射撃場と……小型ドックなら」
「どこの映画の悪役組織だよ!?」
都斗くんのツッコミが、今日一番冴えていた。
──
こうして、少し歪なままだけれど、私たちの夏休みの幕が上がろうとしていた。
テストが終わって、肩の力が抜けて、みんなの“素顔”が少しずつ見え始めた。
この夏が、きっと特別なものになる。
そんな予感だけが、胸の奥で静かに光っていた。
……私はまだ、彼らの“すべて”を知っているわけじゃない。
でも、知ってしまったぶんだけ。
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そう、ちゃんと。
私がこの場所にいる意味を、探し続けるために。
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