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すずちゃんのJK生活
第16話 夏の入り口と二つのチャット
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夏休みの朝。蝉の声が壁のように響く中、私は静かな机に向かっていた。
「……よし、これで終わり」
テスト明けにも関わらず、気がつけば全教科の課題が片付いていた。学校から配られた厚めの冊子は、すでに綺麗に綴じて本棚に収められている。
──つまり、暇だ。
(やっぱり早く終わらせすぎたかも……)
確かに、早めに終わらせれば心にも時間にも余裕ができる。母には「小鈴らしい」と褒められたし、自分でも悪い選択じゃなかったと思っている。けれど、これほど見事に何も予定がないと、さすがにちょっと虚しくなってしまう。
特に、出かける予定もなければ、誘いをかける相手もいない。思わずスマホを手に取り、既読がついたまま更新のない文芸部チャットを開く。
【文芸部📚】
紅葉《生徒会長》:夏休みも元気に活動していきましょう!(遊びに来るのも歓迎!)
楓:わーい!毎日でも行くー!!
優凜:冷房あるし、本読むには快適な環境です。
都斗:………(既読)
(……あ、そうだ)
私はスワイプして、非公開グループへ切り替える。
【裏文芸部🕶️】
紅葉《生徒会長》:今日の昼、少し集まれる?
優凜:構わないけど、場所はいつものとこ?
一郎:了解。異常感知はまだ弱め。ただ、兆しはある。
小鈴:暇してるので、全然大丈夫です!
(こっちは活発……)
そう、文芸部には“裏”がある。正式な部活動とは別に、異能の力を使って秘密裏に事件へ対処する小さなユニット──“裏文芸部”。
もちろん、表のチャットには裏の話は一切しない。特に、乃斗楓ちゃんには絶対に知られてはいけない。彼女のまっすぐな優しさが、異能の世界の闇に触れてしまわないように。
(……それに、楓ちゃんにバレたら紅葉先輩が死ぬ)
シスコンとしての名を欲しいままにする紅葉先輩にとって、妹に内緒で裏活動をしているという事実はまさに綱渡り。裏チャットの通知音すら、表と変えてある。
(通知音、設定してくれてほんと助かってる……)
そんな中、裏チャットに再び通知が届いた。
紅葉《生徒会長》:小鈴ちゃん、暇なら本部で待機しててくれる?何かあればすぐ連絡する
小鈴:了解です!
◆
昼。文芸部の部室──裏文芸部の活動拠点。
正面玄関からではなく、図書室の奥にある古びた扉を抜け、階段をひとつ下る。コンクリートむき出しの廊下を進んだ先にある、静かな地下室。それが、私たちの本拠地だった。
一人で入るのは少しだけ緊張する。でも、もう慣れた。ふかふかのソファ、木目の本棚、少しガタつくけど愛着の湧く机と椅子──
全部が、落ち着く。
(エアコンが効いてるだけで、幸せ……)
そんなささやかな幸せを感じていたとき、入口からひょこっと顔を出した人物がいた。
「おーっす。小鈴ちゃん、一人? なんか暇そうな雰囲気」
軽い調子で入ってきたのは紅葉先輩。外の暑さのせいか、いつもよりラフな雰囲気だ。
「はい。課題も終わっちゃったので……」
「真面目だなあ、ほんと。あ、ところでちょっとした動きがありそう。夜にまた連絡入れるから、スマホの通知だけは気を付けてて」
「了解です」
「それと……一郎から、“記録帳面”の読み解きが少し進んだって。後で見せるってさ」
「記録帳面……」
黒酒家に代々伝わる、異能と異変の記録。厚い和綴じの帳面に、数十年分の災異が記されている。触れるたび、私はそれが“ただの記録”ではないと実感する。書かれた情報が、時に“予兆”のように重なることがあるのだ。
一郎くんは、それを注意深く読み解いてくれている。彼の洞察力と冷静さには、時々怖いほどの信頼感がある。
「じゃ、何かあったらまた」
紅葉先輩はそう言って部屋を出ていく。ほんの一瞬、彼の背中が頼もしく思えた。
◆
夕方。空が薄い茜色に染まりはじめた頃、私は自宅のベッドに寝転びながらスマホをいじっていた。少し仮眠をとろうか迷っていたその時、通知音が震える。
【裏文芸部🕶️】
一郎:動いた。
紅葉:明日、出動の準備を。
短く、静かな言葉。
でも、それだけで、胸の奥がきゅっとなる。
(……いよいよ)
私たちの、夏の冒険が始まろうとしていた。
「……よし、これで終わり」
テスト明けにも関わらず、気がつけば全教科の課題が片付いていた。学校から配られた厚めの冊子は、すでに綺麗に綴じて本棚に収められている。
──つまり、暇だ。
(やっぱり早く終わらせすぎたかも……)
確かに、早めに終わらせれば心にも時間にも余裕ができる。母には「小鈴らしい」と褒められたし、自分でも悪い選択じゃなかったと思っている。けれど、これほど見事に何も予定がないと、さすがにちょっと虚しくなってしまう。
特に、出かける予定もなければ、誘いをかける相手もいない。思わずスマホを手に取り、既読がついたまま更新のない文芸部チャットを開く。
【文芸部📚】
紅葉《生徒会長》:夏休みも元気に活動していきましょう!(遊びに来るのも歓迎!)
楓:わーい!毎日でも行くー!!
優凜:冷房あるし、本読むには快適な環境です。
都斗:………(既読)
(……あ、そうだ)
私はスワイプして、非公開グループへ切り替える。
【裏文芸部🕶️】
紅葉《生徒会長》:今日の昼、少し集まれる?
優凜:構わないけど、場所はいつものとこ?
一郎:了解。異常感知はまだ弱め。ただ、兆しはある。
小鈴:暇してるので、全然大丈夫です!
(こっちは活発……)
そう、文芸部には“裏”がある。正式な部活動とは別に、異能の力を使って秘密裏に事件へ対処する小さなユニット──“裏文芸部”。
もちろん、表のチャットには裏の話は一切しない。特に、乃斗楓ちゃんには絶対に知られてはいけない。彼女のまっすぐな優しさが、異能の世界の闇に触れてしまわないように。
(……それに、楓ちゃんにバレたら紅葉先輩が死ぬ)
シスコンとしての名を欲しいままにする紅葉先輩にとって、妹に内緒で裏活動をしているという事実はまさに綱渡り。裏チャットの通知音すら、表と変えてある。
(通知音、設定してくれてほんと助かってる……)
そんな中、裏チャットに再び通知が届いた。
紅葉《生徒会長》:小鈴ちゃん、暇なら本部で待機しててくれる?何かあればすぐ連絡する
小鈴:了解です!
◆
昼。文芸部の部室──裏文芸部の活動拠点。
正面玄関からではなく、図書室の奥にある古びた扉を抜け、階段をひとつ下る。コンクリートむき出しの廊下を進んだ先にある、静かな地下室。それが、私たちの本拠地だった。
一人で入るのは少しだけ緊張する。でも、もう慣れた。ふかふかのソファ、木目の本棚、少しガタつくけど愛着の湧く机と椅子──
全部が、落ち着く。
(エアコンが効いてるだけで、幸せ……)
そんなささやかな幸せを感じていたとき、入口からひょこっと顔を出した人物がいた。
「おーっす。小鈴ちゃん、一人? なんか暇そうな雰囲気」
軽い調子で入ってきたのは紅葉先輩。外の暑さのせいか、いつもよりラフな雰囲気だ。
「はい。課題も終わっちゃったので……」
「真面目だなあ、ほんと。あ、ところでちょっとした動きがありそう。夜にまた連絡入れるから、スマホの通知だけは気を付けてて」
「了解です」
「それと……一郎から、“記録帳面”の読み解きが少し進んだって。後で見せるってさ」
「記録帳面……」
黒酒家に代々伝わる、異能と異変の記録。厚い和綴じの帳面に、数十年分の災異が記されている。触れるたび、私はそれが“ただの記録”ではないと実感する。書かれた情報が、時に“予兆”のように重なることがあるのだ。
一郎くんは、それを注意深く読み解いてくれている。彼の洞察力と冷静さには、時々怖いほどの信頼感がある。
「じゃ、何かあったらまた」
紅葉先輩はそう言って部屋を出ていく。ほんの一瞬、彼の背中が頼もしく思えた。
◆
夕方。空が薄い茜色に染まりはじめた頃、私は自宅のベッドに寝転びながらスマホをいじっていた。少し仮眠をとろうか迷っていたその時、通知音が震える。
【裏文芸部🕶️】
一郎:動いた。
紅葉:明日、出動の準備を。
短く、静かな言葉。
でも、それだけで、胸の奥がきゅっとなる。
(……いよいよ)
私たちの、夏の冒険が始まろうとしていた。
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