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すずちゃんのJK生活
第23話 夏、ペアで行こう!
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「──それでは、くじ引き開始!」
昼食を終えたラウンジにて、楓が高らかに宣言する。
手にしているのは、小さな紙片が入った木箱。ふだんとは違う組み合わせで時間を過ごす、いわば“交流企画”だ。
黒酒家の豪奢な別荘での二日目。
プールや海、書斎の読書室と、ひととおり堪能し終えた今、皆は少しだけ退屈していた。そんな空気に風穴を開けるには、ちょうどいいタイミングだった。
「ペア行動って何するの?」
「なんでもいいの! 敷地めちゃくちゃ広いし、探検でも、肝試しでも、お昼寝でも! とにかく“ふだん組まない人”と過ごすのが目的!」
「お、おう……急に修学旅行みたいなノリだな……」
紅葉が苦笑しながら、自分のくじを引く。
「じゃーん、私は……1番!」
次に小鈴が手を入れる。
「えっと……4番、かな?」
「はーい! それじゃあ組み合わせ発表いくよー!」
楓がメガネを押し上げ、得意げに番号を読み上げていく。
「1番と6番──紅葉兄さんと……都斗!」
「楓とじゃダメか?紅葉とはちっちゃい頃からずっと関わってるしだるいんだけど…」
「ダメだよ? くじ引きは絶対、楽しんできてねぇ~?」
都斗は疑いの目を向けつつも、観念したように紅葉の後ろへ立つ。どう見ても警備モードだ。
「次、2番と4番──私と……小鈴ちゃん!」
「わ、私……!?」
「やったぁ! ふたりでお散歩行こ~!」
いきなり手を取られ、戸惑いながらも、どこか嬉しさが込み上げる。
「そして3番と5番──優凜さんと……一郎くん!」
「へぇ……話す機会あんまりなかったわね。よろしく、黒酒くん」
「……はい。こちらこそ」
一郎の視線が一瞬だけ鋭くなったような気がしたのは、小鈴の気のせいだろうか。
「じゃ、それぞれ解散ーっ! また夕方に集合ねー!」
元気な号令とともに、各ペアはそれぞれの方角へと散っていった。
⸻
◆ 小鈴&楓ペア
「見て見て! こっち、吊り橋あるよ! 行ってみよ!」
「え、そ、そこ渡るの!?」
「大丈夫だよ~。風でちょっと揺れてるだけ! スリルあって楽しいよっ!」
景色の中を跳ねるように駆けていく楓に、小鈴はついていくだけで精一杯。
だけど、その無邪気な笑顔と、自由そのものの動きに、どこか心が温かくなっていく。
「楓ちゃんって……ほんと元気で、自由で……まぶしいなぁって思う」
「えへへ。でもね、小さい頃は全然そんなじゃなかったんだよ?」
「え?」
「幼稚園のときなんて、紅葉兄にくっついて泣いてばっかり。人見知りひどくて、知らない人と目も合わせられなかったんだから」
語る楓の笑顔に、ふっとかすかな陰が差す。
「でも、今は……誰かのために動ける人でいたいなって思ってる」
その言葉には、芯があった。ふわふわしているようで、楓は確かに何かを見て、歩こうとしている。
小鈴は、言葉が見つからず、ただ静かにその横顔を見つめていた。
⸻
◆ 優凜&一郎ペア
「黒酒くんって……変わってるのね」
「よく言われます」
「感情の切り分けがすごく上手。嫌いでもなく、好きでもなく、どこか他人事の顔で距離を詰める。……危険よ、そういう人」
「観察されるの、あまり得意じゃありません」
「ふふ、でも本音は出さないのね。さすが“育ちの良い子”」
その鋭さにも、一郎は微笑すら浮かべない。
「優凜さんこそ。文芸部なのに……武器を作るんですね」
「創作と製造って、そんなに遠くないのよ。私は“未来に効く物語”を書きたいだけ」
会話は淡々としていたが、意外にもテンポが合っていた。
距離のある人間同士だからこそ、ぶつかり合う熱がなかった。
──けれど、互いの瞳に、ほんのわずかに“興味”の色が差したのもまた事実だった。
⸻
◆ 紅葉&都斗ペア
「さっきから無言だけど、そんなに俺と組むの嫌だった?」
「いえ。僕らが二人で監視を外すと、楓がどこかの崖に突っ込むので」
「……納得した」
気まずくも平和な沈黙が流れる中、都斗は真剣な表情で歩を進める。
「都斗。君は本当に異能ないのか?」
「何度も言ってるだろ。僕には“見えない”んだよ。敵意も、能力も。でも──」
「でも?」
「……楓が“そっち”に関わる気配だけは、肌が泡立つみたいに分かる」
紅葉は目を細めて頷く。
「やっぱり、君はあの子の“護衛”だな。自覚はなくても、本能がそう動いてる」
──それだけで、十分だ。
⸻
◆ 夕暮れの合流
戻ってきた頃には、海に沈む夕日があたりを金色に染めていた。
別荘のテラスには、潮風とオレンジの光が満ちていて、それぞれのペアが静かに集まってくる。
「どうだった? ね、楽しかったでしょ?」
「……楽しかったというか……すごく、濃かった……」
小鈴がへとへとになりながらも笑うと、楓が汗をぬぐってあげる。
「ふふ、小鈴ちゃん、汗かいてる。着替える?」
「わ、わたし、自分でだいじょ──」
「ねぇねぇ、女子だけで集まって、夜にこっそりおしゃべりしない?」
優凜のささやきに、楓の目がぱっと輝く。
「いい! それ絶対やる! “女子会”ってやつだね!?」
「男子にはナイショでね。……黒酒くん、聞き耳なんて立てたら許さないから」
「……はい(興味ありませんけど)」
その静かな返しに、なぜか皆が笑った。
──笑い合える今が、こんなにも尊い。
日が沈み、夜がゆっくりと満ちていく中、小さな別荘に灯る笑顔は、確かに“特別な夏”のひとこまになっていった。
昼食を終えたラウンジにて、楓が高らかに宣言する。
手にしているのは、小さな紙片が入った木箱。ふだんとは違う組み合わせで時間を過ごす、いわば“交流企画”だ。
黒酒家の豪奢な別荘での二日目。
プールや海、書斎の読書室と、ひととおり堪能し終えた今、皆は少しだけ退屈していた。そんな空気に風穴を開けるには、ちょうどいいタイミングだった。
「ペア行動って何するの?」
「なんでもいいの! 敷地めちゃくちゃ広いし、探検でも、肝試しでも、お昼寝でも! とにかく“ふだん組まない人”と過ごすのが目的!」
「お、おう……急に修学旅行みたいなノリだな……」
紅葉が苦笑しながら、自分のくじを引く。
「じゃーん、私は……1番!」
次に小鈴が手を入れる。
「えっと……4番、かな?」
「はーい! それじゃあ組み合わせ発表いくよー!」
楓がメガネを押し上げ、得意げに番号を読み上げていく。
「1番と6番──紅葉兄さんと……都斗!」
「楓とじゃダメか?紅葉とはちっちゃい頃からずっと関わってるしだるいんだけど…」
「ダメだよ? くじ引きは絶対、楽しんできてねぇ~?」
都斗は疑いの目を向けつつも、観念したように紅葉の後ろへ立つ。どう見ても警備モードだ。
「次、2番と4番──私と……小鈴ちゃん!」
「わ、私……!?」
「やったぁ! ふたりでお散歩行こ~!」
いきなり手を取られ、戸惑いながらも、どこか嬉しさが込み上げる。
「そして3番と5番──優凜さんと……一郎くん!」
「へぇ……話す機会あんまりなかったわね。よろしく、黒酒くん」
「……はい。こちらこそ」
一郎の視線が一瞬だけ鋭くなったような気がしたのは、小鈴の気のせいだろうか。
「じゃ、それぞれ解散ーっ! また夕方に集合ねー!」
元気な号令とともに、各ペアはそれぞれの方角へと散っていった。
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◆ 小鈴&楓ペア
「見て見て! こっち、吊り橋あるよ! 行ってみよ!」
「え、そ、そこ渡るの!?」
「大丈夫だよ~。風でちょっと揺れてるだけ! スリルあって楽しいよっ!」
景色の中を跳ねるように駆けていく楓に、小鈴はついていくだけで精一杯。
だけど、その無邪気な笑顔と、自由そのものの動きに、どこか心が温かくなっていく。
「楓ちゃんって……ほんと元気で、自由で……まぶしいなぁって思う」
「えへへ。でもね、小さい頃は全然そんなじゃなかったんだよ?」
「え?」
「幼稚園のときなんて、紅葉兄にくっついて泣いてばっかり。人見知りひどくて、知らない人と目も合わせられなかったんだから」
語る楓の笑顔に、ふっとかすかな陰が差す。
「でも、今は……誰かのために動ける人でいたいなって思ってる」
その言葉には、芯があった。ふわふわしているようで、楓は確かに何かを見て、歩こうとしている。
小鈴は、言葉が見つからず、ただ静かにその横顔を見つめていた。
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◆ 優凜&一郎ペア
「黒酒くんって……変わってるのね」
「よく言われます」
「感情の切り分けがすごく上手。嫌いでもなく、好きでもなく、どこか他人事の顔で距離を詰める。……危険よ、そういう人」
「観察されるの、あまり得意じゃありません」
「ふふ、でも本音は出さないのね。さすが“育ちの良い子”」
その鋭さにも、一郎は微笑すら浮かべない。
「優凜さんこそ。文芸部なのに……武器を作るんですね」
「創作と製造って、そんなに遠くないのよ。私は“未来に効く物語”を書きたいだけ」
会話は淡々としていたが、意外にもテンポが合っていた。
距離のある人間同士だからこそ、ぶつかり合う熱がなかった。
──けれど、互いの瞳に、ほんのわずかに“興味”の色が差したのもまた事実だった。
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◆ 紅葉&都斗ペア
「さっきから無言だけど、そんなに俺と組むの嫌だった?」
「いえ。僕らが二人で監視を外すと、楓がどこかの崖に突っ込むので」
「……納得した」
気まずくも平和な沈黙が流れる中、都斗は真剣な表情で歩を進める。
「都斗。君は本当に異能ないのか?」
「何度も言ってるだろ。僕には“見えない”んだよ。敵意も、能力も。でも──」
「でも?」
「……楓が“そっち”に関わる気配だけは、肌が泡立つみたいに分かる」
紅葉は目を細めて頷く。
「やっぱり、君はあの子の“護衛”だな。自覚はなくても、本能がそう動いてる」
──それだけで、十分だ。
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◆ 夕暮れの合流
戻ってきた頃には、海に沈む夕日があたりを金色に染めていた。
別荘のテラスには、潮風とオレンジの光が満ちていて、それぞれのペアが静かに集まってくる。
「どうだった? ね、楽しかったでしょ?」
「……楽しかったというか……すごく、濃かった……」
小鈴がへとへとになりながらも笑うと、楓が汗をぬぐってあげる。
「ふふ、小鈴ちゃん、汗かいてる。着替える?」
「わ、わたし、自分でだいじょ──」
「ねぇねぇ、女子だけで集まって、夜にこっそりおしゃべりしない?」
優凜のささやきに、楓の目がぱっと輝く。
「いい! それ絶対やる! “女子会”ってやつだね!?」
「男子にはナイショでね。……黒酒くん、聞き耳なんて立てたら許さないから」
「……はい(興味ありませんけど)」
その静かな返しに、なぜか皆が笑った。
──笑い合える今が、こんなにも尊い。
日が沈み、夜がゆっくりと満ちていく中、小さな別荘に灯る笑顔は、確かに“特別な夏”のひとこまになっていった。
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