GPTであそぼ

鹿又杏奈\( ᐛ )/

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すずちゃんのJK生活

第24話 夏の夜の女子会と、男たちの静けさ

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夜。天窓から見上げる空には、静かな星々が滲むように瞬いていた。

黒酒家の南棟──通称“離れ”。重厚な石造りの本館から少し離れたこの建物は、もともとゲスト用に設計されたという。だが今夜ばかりは、“男子禁制”の特別エリアに変貌を遂げていた。

窓のカーテンを閉め、床にはふかふかの座布団が並べられ、円卓の上にはポットにたっぷりと紅茶が湯気を立てる。その周囲には、ミニケーキやチョコレート、カヌレ、マカロンなど、見るだけで幸せになれる高級スイーツの数々。

「じゃーん! 紅葉兄さんのスーツケースから拝借してきた、高級スイーツセット! 本物のやつ、ね!」

楓が誇らしげに声を上げ、包装のリボンをぱちんと外した。中から現れたのは、まるで宝石箱のようなミニケーキの詰め合わせだった。

小鈴は息を呑んでそれを見つめた。ブランドロゴは見覚えがある。都内の高級ホテルでもめったに出ないような、完全予約制のスイーツだ。

「楓ちゃん……それ、絶対バレたら怒られるやつ……!」

「ふふん。でもね、紅葉兄って、怒るっていうより、ため息ついて諭してくるタイプなの。『ちゃんと栄養バランス考えなさい』とかって」

「それ、けっこう重い……」

紅葉の“優しさの圧”が目に浮かんで、小鈴はそっと口をすぼめた。

「でもこういうのには甘いんじゃない? あ、甘い物だけに……うふふ」

「優凜さん!?」

「ごめん、ちょっと無理やりだったかしら。ボケるタイミング、間違えたわね」

紅茶を静かに啜る音と、くすくすとした笑い声が、穏やかな空間に溶けていく。
窓の向こうでは、夏の夜風が庭の木々をさらりと撫でていた。

女子だけのひととき──誰に見せるでもない、本当の顔がそこにはあった。

「ねぇねぇ、小鈴ちゃん、今度うちに遊びにおいでよ! 幼稚園の頃のアルバムあるからさ、一緒に見る? もう、自分でもびっくりするくらい、変な髪型してたんだから!」

「えっ……あ、うん。ちょっと……見てみたいかも……?」

「あはは、見たら驚くよ~。紅葉兄が髪結んでくれたんだけど、左右非対称なの! 頭にアンテナみたいなのが立っててさ!」

「うわぁ、それは……想像しただけでかわいい……」

場が和む中、ふいに楓が小鈴にぐっと近づいてきた。好奇心に満ちた目で覗き込む。

「そういえば、小鈴ちゃんの小さい頃ってどんな感じだったの? 塾とか? ピアノ? それとも……お嬢様スクール?」

「えっ、えっと……うちはね、共働きだったからそんなに外に出ることはなかったの」

小鈴は、カップの紅茶に視線を落とした。琥珀色の液面が、ほのかに揺れている。

「近所にね、とっても素敵な奥さまが住んでて……その人に、いろんなことを教えてもらってたの。勉強方法とか、弓道のこととか、あとは昔の学校の話とか……」

「へぇ~! なんだかいいね、そういうの!」

「うん。その人ね、グリフィンチ学園の卒業生で、息子さんがふたりいるんだけど……去年卒業しちゃって今は海外にいるんだよね。私より少し上で、イタズラしては」

「え、えええ!? じゃあ紅葉兄は廊下とかですれ違ってたりするのかも?」

「う、うん……そんなに目立つ人たちじゃないけど……きっと」

「ちょっと待って、それ、やっぱり“育ち”いいよね? だってさ、信頼されて預けられて、その上グリフィンチつながりって……もう、小鈴ちゃん完全に“お嬢様系・非公式ルート”だよ!」

「ひ、非公式って何なの……!?」

優凜がくすりと笑って口を添えた。

「でもね、分かる気がするわ。小鈴ちゃんって、言葉の選び方とか、立ち居振る舞いに品があるの。最初に会ったとき、『あ、この子は誰かに丁寧に育てられたんだ』って感じたもの」

「え、えええ、そんなの……ないですって!」

顔を覆って崩れ落ちる小鈴の姿に、楓が「かわいい~」と悶えながら頭をなでた。

「でも、ちゃんと分かるよ。小鈴ちゃんのそういうとこ、あったかい感じがする。たぶん、あのおばさまの優しさが、ずっと残ってるんだよね」

「……そうかも。今思うと、その人と過ごした時間が、わたしの“安心できる居場所”だったのかも」

カップの中の紅茶は、もう冷めかけていた。
けれど、その代わりに、胸の奥にはぽっと灯る温かさがあった。

楓がそっと膝枕のように小鈴の足にもたれて、囁くように言う。

「その優しさ、ちゃんと小鈴ちゃんになってるよ。だからね、私──小鈴ちゃんのこと、すごく好きなんだ」

「……私もだよ、楓ちゃん」

言葉にすると、恥ずかしい。けれど、今だけは、素直でいられた。

──夜更けの女子会は、恋バナも、学園の裏話も、他愛もない笑い話も交えながら、ゆっくりと深まっていった。

けれど、そのなかでも。
“誰かから受け取った優しさ”について語り合った、この一瞬。

それが小鈴にとって、何よりもあたたかく、大切な“思い出”として心に残った。

窓の外では、夏の星が、そっと流れていた。



◆ 一方その頃、本棟・男子組

黒酒家の広いリビングには、妙に静かな空気が流れていた。

「……全然、盛り上がってないな」

「別にいいだろ。男ってのは、こういうもんだ」

「それ、女子が言うやつの真似じゃん」

ソファに横一列で並んで座る、紅葉・一郎・都斗。
手にしているのは、冷たいコーラとソーダ味のアイス。おつまみ代わりのポテチが静かに減っていく。

「お前、楓の宿題手伝った?」

「いや、手伝ってない。母さんにも楓に“自力でやらせろ”って釘刺されてる」

「真面目か……」

紅葉はタブレットを開き、スワイプしながらふと止まる。

「……これ。妹の運動会のベストショット」

画面には、無邪気な笑顔でピースする楓の姿。

「……兄バカの権化だな」

「だって、かわいいんだよ」

都斗はアイスを無言でかじるだけだったが、一郎は少し呆れたような顔をして言った。

「……紅葉先輩って、妹自慢が他人に伝染するタイプなんですね」

「今さらかよ」

その返しに、ほんの少し、笑いが混じった空気が流れる。
派手さはない。騒がしくもない。

けれど確かに、ここにも“男子なり”のあたたかい時間があった。



◆ 明け方の砂浜

空が、ゆっくりと青く染まり始めていた。

別荘の前に広がる白砂の浜辺に、寝不足気味の顔ぶれが揃う。
夜更かし組も、早起き組も、誰からともなく集まってきていた。

「ねぇねぇ! 最後にちょっと遊んで帰ろっか!」

「ええ~、眠いよぉ……」

「うわ、小鈴ちゃん目の下にくまある!」

「うぅ……夜更かしの代償です……」

でも──

海風が頬をなでた瞬間、体の奥の重さがふっとほどける。

「都斗くん! 水鉄砲で勝負!」

「……撃つ前に終わらせます」

「さすが護衛ぃぃぃ!」

はしゃぐ声と、水しぶきが弾ける。

一郎はひとり靴を脱ぎ、静かに波打ち際を歩いていた。
打ち寄せる波が足元を濡らしては、すぐに引いていく。

「……こんな日も、たまには悪くないか」

誰にも聞かれなかった独白が、風に溶けていった。



◆ 帰りの車内

「はぁぁ~~~~~……帰りたくないぃぃ~~~!」

車内のシートにぐったりと身を預けた楓が、まるで溶けた猫のように伸びている。

「でも、また学校が始まるんだよ?」

「知ってる! でもさ、夏って……“特別”なんだもん」

その言葉に、小鈴もふと窓の外に目を向けた。

車窓には、海と空の境界が遠ざかっていく。
そして、代わりに近づいてくるのは──グリフィンチ学園。

別荘で過ごした数日は、夢のようだった。
けれど、夢はいつか終わるもの。

──そして始まる、次の“非日常”。

グリフィンチ学園、文化祭編。
煌びやかで、ちょっとだけ波乱を孕んだ、新しい日々が幕を開けようとしていた。
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