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すずちゃんのJK生活
第28話 静かなる予兆と、裏文芸部の影
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夏の終わりの風が、グリフィンチ学園の廊下を抜ける。
文化祭を目前に控えた校内は、普段よりも生き生きとした雰囲気に包まれていた。色とりどりの装飾、机を並べての打ち合わせ、廊下ですれ違うたびに交わされる「準備どう?」の声。
──文武両道、かつ全力で遊ぶのがグリフィンチ流。
その校風に負けないように、文芸部も必死だった。
「おーい、こっちのページ構成、やっぱ変えたほうが良くない?」
「レイアウトより、まずは原稿の量を揃えようよ!」
部室では紅葉先輩と優凜さんが冊子の編集に追われていた。ノートPCを前に眉を寄せる二人のやり取りは、すでに数時間が経過しているにもかかわらず、テンポを失っていない。
一郎くんは印刷担当を買って出て、無言でキーボードを叩いていた。ページ設定やフォントの統一など、目に見えない部分の整備をこつこつと進めてくれている。彼の几帳面さが、部全体の作業を支えているといっても過言ではない。
私はというと、まだ清書途中の原稿に頭を抱えていた。
(“出会い”って、書こうとすると難しいな……)
白くて小さな、言葉を話す“もふもふ”の存在。その不思議さと、出会ったときの衝撃を、どう言葉にすれば伝えられるのか。実際に見たもの、感じたものをそのまま書けばいいはずなのに、ペンは止まりがちだった。
(あの時感じた心の揺れを、私はまだ正確に思い出せてないのかも……)
「──お昼行こうよ、小鈴ちゃん!」
楓ちゃんが隣から声をかけてくる。
最近ではすっかり放課後は“準部員”として文芸部に居座っている彼女だが、こういう空気の読めなさ(あるいは読まなさ)は変わらない。
「準備期間中は食堂も混むし、外に出ておいしいパンでも買ってこよ?」
「う、うん……いいよ」
にこにこと笑う楓ちゃんと連れ立って部室を出る。気分転換にもなるし、太陽の光を浴びるのも悪くない。そんな気持ちで歩いていると、ふと視線の先に違和感が走った。
廊下の突き当たり──掲示板に、いつの間にか貼り紙が追加されていたのだ。
『――資料棟、改装のため立入禁止。関係者以外、今週末より入室不可』
その一文に、私はふと目を細めた。
(資料棟……この前、あの“影”がいた場所……)
あのときは確かに、異変があった。でも、外部には何も知られていない。
学校側の判断で立入禁止になるというのは、何かを隠すためなのか。それとも単なる老朽化の理由か。私たち“裏文芸部”の知る情報との齟齬が、心の中に微かなざわめきを生む。
一郎くんだったら、そういう“違和感”にすぐ反応するだろう。
「……あれ?」
その瞬間、視界の隅に──揺らめく“白”が見えた。
二階の廊下の影。その奥に、ふわりと、まるで風に吹かれるように“もふもふ”が揺れていた。
「えっ……いま……」
気のせいかと瞬きをした瞬間、それはもう消えていた。
けれど、心のどこかが確かに警鐘を鳴らしている。
(来る。……また、何かが)
部室に戻ると、紅葉先輩が私に手招きをしていた。
「小鈴ちゃん。ちょっと裏の方、いい?」
無言で頷くと、一郎くんと優凜さんも席を立った。楓ちゃんには気づかれないように、そっと裏文芸部専用チャットに切り替える。
物置室の奥にある、使われていない印刷機前。そこが、私たち“裏文芸部”の秘密会議室だった。
「小鈴ちゃん、見た?」
先回りするように、紅葉先輩が口を開いた。
「もふもふ……ですか?」
「うん。僕も資料棟の屋根近くで見かけた。しかも、動きが“逃げてる”ように見えたんだよ」
「ってことは……何かから?」
一郎くんが静かに頷く。
「探索能力でも、引っかかる“何か”がいる。しかも、かなり“不安定”。捕らえられないのに、存在だけが残る」
「今週末、資料棟が完全に封鎖される前に動かないと。もしかしたら、前回の“影”とは別の存在が……」
紅葉先輩の言葉に、全員がうなずいた。
楓ちゃんには決して知らせてはいけない。彼女は異能力の核心からは、いつも一歩外れた場所にいなければならない。
紅葉先輩は、ぽつりと呟く。
「都斗の勘も、“まだ何かある”って言ってる。見えていないけど、気配だけは……ってね」
「都斗くん、やっぱりすごいな……」
「異能がないからこそ、感じ取れる“何か”。不思議だよね」
優凜さんのその言葉に、私は小さく頷いた。
目に見えない力。誰かを守る直感。信じたいものを、信じること。
裏文芸部は、そんな“力”と“意志”でつながっている。
「週末、決行しよう。……また、あの場所で」
紅葉先輩の静かな声で、次の任務が確定した。
文化祭準備の裏で、誰にも知られぬまま、“もう一つの文化祭”が始まろうとしていた。
文化祭を目前に控えた校内は、普段よりも生き生きとした雰囲気に包まれていた。色とりどりの装飾、机を並べての打ち合わせ、廊下ですれ違うたびに交わされる「準備どう?」の声。
──文武両道、かつ全力で遊ぶのがグリフィンチ流。
その校風に負けないように、文芸部も必死だった。
「おーい、こっちのページ構成、やっぱ変えたほうが良くない?」
「レイアウトより、まずは原稿の量を揃えようよ!」
部室では紅葉先輩と優凜さんが冊子の編集に追われていた。ノートPCを前に眉を寄せる二人のやり取りは、すでに数時間が経過しているにもかかわらず、テンポを失っていない。
一郎くんは印刷担当を買って出て、無言でキーボードを叩いていた。ページ設定やフォントの統一など、目に見えない部分の整備をこつこつと進めてくれている。彼の几帳面さが、部全体の作業を支えているといっても過言ではない。
私はというと、まだ清書途中の原稿に頭を抱えていた。
(“出会い”って、書こうとすると難しいな……)
白くて小さな、言葉を話す“もふもふ”の存在。その不思議さと、出会ったときの衝撃を、どう言葉にすれば伝えられるのか。実際に見たもの、感じたものをそのまま書けばいいはずなのに、ペンは止まりがちだった。
(あの時感じた心の揺れを、私はまだ正確に思い出せてないのかも……)
「──お昼行こうよ、小鈴ちゃん!」
楓ちゃんが隣から声をかけてくる。
最近ではすっかり放課後は“準部員”として文芸部に居座っている彼女だが、こういう空気の読めなさ(あるいは読まなさ)は変わらない。
「準備期間中は食堂も混むし、外に出ておいしいパンでも買ってこよ?」
「う、うん……いいよ」
にこにこと笑う楓ちゃんと連れ立って部室を出る。気分転換にもなるし、太陽の光を浴びるのも悪くない。そんな気持ちで歩いていると、ふと視線の先に違和感が走った。
廊下の突き当たり──掲示板に、いつの間にか貼り紙が追加されていたのだ。
『――資料棟、改装のため立入禁止。関係者以外、今週末より入室不可』
その一文に、私はふと目を細めた。
(資料棟……この前、あの“影”がいた場所……)
あのときは確かに、異変があった。でも、外部には何も知られていない。
学校側の判断で立入禁止になるというのは、何かを隠すためなのか。それとも単なる老朽化の理由か。私たち“裏文芸部”の知る情報との齟齬が、心の中に微かなざわめきを生む。
一郎くんだったら、そういう“違和感”にすぐ反応するだろう。
「……あれ?」
その瞬間、視界の隅に──揺らめく“白”が見えた。
二階の廊下の影。その奥に、ふわりと、まるで風に吹かれるように“もふもふ”が揺れていた。
「えっ……いま……」
気のせいかと瞬きをした瞬間、それはもう消えていた。
けれど、心のどこかが確かに警鐘を鳴らしている。
(来る。……また、何かが)
部室に戻ると、紅葉先輩が私に手招きをしていた。
「小鈴ちゃん。ちょっと裏の方、いい?」
無言で頷くと、一郎くんと優凜さんも席を立った。楓ちゃんには気づかれないように、そっと裏文芸部専用チャットに切り替える。
物置室の奥にある、使われていない印刷機前。そこが、私たち“裏文芸部”の秘密会議室だった。
「小鈴ちゃん、見た?」
先回りするように、紅葉先輩が口を開いた。
「もふもふ……ですか?」
「うん。僕も資料棟の屋根近くで見かけた。しかも、動きが“逃げてる”ように見えたんだよ」
「ってことは……何かから?」
一郎くんが静かに頷く。
「探索能力でも、引っかかる“何か”がいる。しかも、かなり“不安定”。捕らえられないのに、存在だけが残る」
「今週末、資料棟が完全に封鎖される前に動かないと。もしかしたら、前回の“影”とは別の存在が……」
紅葉先輩の言葉に、全員がうなずいた。
楓ちゃんには決して知らせてはいけない。彼女は異能力の核心からは、いつも一歩外れた場所にいなければならない。
紅葉先輩は、ぽつりと呟く。
「都斗の勘も、“まだ何かある”って言ってる。見えていないけど、気配だけは……ってね」
「都斗くん、やっぱりすごいな……」
「異能がないからこそ、感じ取れる“何か”。不思議だよね」
優凜さんのその言葉に、私は小さく頷いた。
目に見えない力。誰かを守る直感。信じたいものを、信じること。
裏文芸部は、そんな“力”と“意志”でつながっている。
「週末、決行しよう。……また、あの場所で」
紅葉先輩の静かな声で、次の任務が確定した。
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