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すずちゃんのJK生活
第35話 侵入者
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放課後。まだ西日が柔らかに校舎を染める時間帯、小鈴は購買で飲み物を買った帰り道、偶然紅葉と出くわし、自然と並んで廊下を歩いていた。
窓の外には、秋の始まりを思わせる青空が広がっていた。けれど──
「……なんだか、今日は空気がざわついてませんか?」
小鈴が立ち止まり、ふと窓の外に視線をやる。
足元からすくい上げられるような微かな違和感。風が吹いているわけではない。むしろ、その“無音”こそが異質だった。
「感じた?」
紅葉が足を止め、小鈴の表情を覗き込む。真剣なまなざしを向けると、小鈴は少し戸惑いながらも頷いた。
「正確には……風が“止まりすぎてる”気がするんです。音もないし、虫の声も消えてて……ちょっと、怖いくらい」
「……小鈴ちゃん、感覚が鋭くなってる。たぶん、それは正しい直感だよ」
紅葉は苦笑を浮かべつつ、安心させるように言う。
「実はさ、数日前から一郎と気づいてたんだ。校舎の一部に、“何かが出入りしてる”痕跡があるって。まだ、はっきりとした姿は掴めてないけど」
「出入り……って、誰かが?」
「“誰か”じゃなくて、“何か”が、だね。おそらく人じゃない。少なくとも《探索》では“形”を持って認識できなかった。つまり、“視えない存在”だ」
その言葉に、小鈴の表情が引き締まる。
“視えない”というのは、裏文芸部にとって危険のサインだ。能力者同士であっても、気配を完全に隠すことは難しい。だが、それすら感じさせない何か──それは、“存在の拒絶”にも等しい。
「今日になって、新たな痕跡が見つかった。場所は、中庭の東側。旧化学実験室の前」
「旧化学実験室……。あそこって、今は使われてないんじゃ……?」
「そのはずだった。でも、妙なんだよ。空気の流れが歪んでて、部屋の中がまるで“生きてる”みたいだった。一郎の《探索》でも、完全に弾かれた」
「……弾かれた?」
思わず聞き返す小鈴。探索が“効かない”という事実。それはすなわち、“異能そのものが拒まれている”という意味だった。
「異能の“拒絶”。裏文芸部の経験上、最大級の警戒対象だ。向こうがこちらの能力を理解している可能性もあるし、そもそもこの世界の常識に当てはまらない何かかもしれない」
小鈴はごくりと喉を鳴らした。紅葉の言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。
(また──何かが、始まろうとしている)
彼女の《貪食》が反応しないのが逆に不気味だった。何かが来るという直感だけが、背筋に冷たいものを這わせていた。
⸻
そのころ。
校舎の別の場所──陽の落ちかけたグラウンドの端では、楓が笑顔でバスケットボール部の相手をしていた。
「はい、そっち行った! あと10本連続で決めたら、今日のノルマ達成~!」
「か、楓コーチ、ちょっと人間離れしてるんだけど!?」
「ふふっ、それ褒め言葉として受け取っておくね~!」
明るく笑う楓の姿に、周囲の部員たちもつられるように楽しそうな声を上げる。
だが、その様子を少し離れた校舎の陰から見守っていた都斗の目は、決して和んではいなかった。
(……あいつの“引力”、本当に厄介だ)
楓には、異能や“存在”を無自覚に引き寄せてしまう特性がある。それは“天性の磁場”とでも呼ぶべきもので、本人に自覚がない分だけ、周囲の者にとっては脅威でもあった。
──だからこそ。
(どんなことが起きても、あいつには……気づかせるわけにはいかない)
都斗は無言で目を細め、ゆっくりとその場を離れた。
⸻
その頃、文芸部の部室。
薄暗い室内で、優凜と一郎が帳面を広げていた。
「これが、今日の《探索》結果だけど……正直、空振りだ。痕跡はあるのに、姿がない。感知の外側に逃げてる感じ」
「意識的に、“構造”を隠してる可能性があるわね」
優凜は地図の端にマーカーを走らせながら、眉間にしわを寄せた。
「この感じ……影じゃなくて、“殻”。空っぽの器、って感じ」
「……“器”?」
「うん。中身が“まだない”って感じ。器だからこそ、見つからない。形も意味も、まだ備わってない未完成の存在。だから、観測の網からも漏れる」
一郎はしばし沈黙したのち、小さく呟いた。
「……中身は、まだ“生まれていない”のか」
二人は顔を見合わせた。
それは、いまだ形を持たない脅威。
けれど、いずれは“何かになる”存在。
──ならば。
「早めに調査しよう。中身が“生まれる前”に、対処できるうちに」
「同意するわ。準備は整えておく」
⸻
その夜、裏文芸部の“裏チャット”に、緊急通知が届いた。
【優凜】
《緊急:旧化学実験室に異能痕跡あり。明日、夕刻に調査を実施》
【紅葉】
《確認。俺と小鈴ちゃんは現地から合流する》
【一郎】
《探索起動済み。追加調査中》
【優凜】
《楓には絶対に内密で。今回の反応、かなり不穏よ》
【都斗】
《任せろ。あいつには、絶対に嗅がせない》
そのやりとりをスマホ越しに見つめながら、小鈴はゆっくりと息を吐いた。
空はまだ青いのに、どこかで闇がじわりと近づいてきているような気がする。
──静かな世界の裏で、確かに“何か”が動いている。
彼女の《貪食》が再び牙をむくときが来るのかもしれない。
まだ、戦いは始まっていない。
けれど──その“前兆”は、確実に、すぐそばに迫っていた。
窓の外には、秋の始まりを思わせる青空が広がっていた。けれど──
「……なんだか、今日は空気がざわついてませんか?」
小鈴が立ち止まり、ふと窓の外に視線をやる。
足元からすくい上げられるような微かな違和感。風が吹いているわけではない。むしろ、その“無音”こそが異質だった。
「感じた?」
紅葉が足を止め、小鈴の表情を覗き込む。真剣なまなざしを向けると、小鈴は少し戸惑いながらも頷いた。
「正確には……風が“止まりすぎてる”気がするんです。音もないし、虫の声も消えてて……ちょっと、怖いくらい」
「……小鈴ちゃん、感覚が鋭くなってる。たぶん、それは正しい直感だよ」
紅葉は苦笑を浮かべつつ、安心させるように言う。
「実はさ、数日前から一郎と気づいてたんだ。校舎の一部に、“何かが出入りしてる”痕跡があるって。まだ、はっきりとした姿は掴めてないけど」
「出入り……って、誰かが?」
「“誰か”じゃなくて、“何か”が、だね。おそらく人じゃない。少なくとも《探索》では“形”を持って認識できなかった。つまり、“視えない存在”だ」
その言葉に、小鈴の表情が引き締まる。
“視えない”というのは、裏文芸部にとって危険のサインだ。能力者同士であっても、気配を完全に隠すことは難しい。だが、それすら感じさせない何か──それは、“存在の拒絶”にも等しい。
「今日になって、新たな痕跡が見つかった。場所は、中庭の東側。旧化学実験室の前」
「旧化学実験室……。あそこって、今は使われてないんじゃ……?」
「そのはずだった。でも、妙なんだよ。空気の流れが歪んでて、部屋の中がまるで“生きてる”みたいだった。一郎の《探索》でも、完全に弾かれた」
「……弾かれた?」
思わず聞き返す小鈴。探索が“効かない”という事実。それはすなわち、“異能そのものが拒まれている”という意味だった。
「異能の“拒絶”。裏文芸部の経験上、最大級の警戒対象だ。向こうがこちらの能力を理解している可能性もあるし、そもそもこの世界の常識に当てはまらない何かかもしれない」
小鈴はごくりと喉を鳴らした。紅葉の言葉に、胸の奥がじわりと熱くなる。
(また──何かが、始まろうとしている)
彼女の《貪食》が反応しないのが逆に不気味だった。何かが来るという直感だけが、背筋に冷たいものを這わせていた。
⸻
そのころ。
校舎の別の場所──陽の落ちかけたグラウンドの端では、楓が笑顔でバスケットボール部の相手をしていた。
「はい、そっち行った! あと10本連続で決めたら、今日のノルマ達成~!」
「か、楓コーチ、ちょっと人間離れしてるんだけど!?」
「ふふっ、それ褒め言葉として受け取っておくね~!」
明るく笑う楓の姿に、周囲の部員たちもつられるように楽しそうな声を上げる。
だが、その様子を少し離れた校舎の陰から見守っていた都斗の目は、決して和んではいなかった。
(……あいつの“引力”、本当に厄介だ)
楓には、異能や“存在”を無自覚に引き寄せてしまう特性がある。それは“天性の磁場”とでも呼ぶべきもので、本人に自覚がない分だけ、周囲の者にとっては脅威でもあった。
──だからこそ。
(どんなことが起きても、あいつには……気づかせるわけにはいかない)
都斗は無言で目を細め、ゆっくりとその場を離れた。
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その頃、文芸部の部室。
薄暗い室内で、優凜と一郎が帳面を広げていた。
「これが、今日の《探索》結果だけど……正直、空振りだ。痕跡はあるのに、姿がない。感知の外側に逃げてる感じ」
「意識的に、“構造”を隠してる可能性があるわね」
優凜は地図の端にマーカーを走らせながら、眉間にしわを寄せた。
「この感じ……影じゃなくて、“殻”。空っぽの器、って感じ」
「……“器”?」
「うん。中身が“まだない”って感じ。器だからこそ、見つからない。形も意味も、まだ備わってない未完成の存在。だから、観測の網からも漏れる」
一郎はしばし沈黙したのち、小さく呟いた。
「……中身は、まだ“生まれていない”のか」
二人は顔を見合わせた。
それは、いまだ形を持たない脅威。
けれど、いずれは“何かになる”存在。
──ならば。
「早めに調査しよう。中身が“生まれる前”に、対処できるうちに」
「同意するわ。準備は整えておく」
⸻
その夜、裏文芸部の“裏チャット”に、緊急通知が届いた。
【優凜】
《緊急:旧化学実験室に異能痕跡あり。明日、夕刻に調査を実施》
【紅葉】
《確認。俺と小鈴ちゃんは現地から合流する》
【一郎】
《探索起動済み。追加調査中》
【優凜】
《楓には絶対に内密で。今回の反応、かなり不穏よ》
【都斗】
《任せろ。あいつには、絶対に嗅がせない》
そのやりとりをスマホ越しに見つめながら、小鈴はゆっくりと息を吐いた。
空はまだ青いのに、どこかで闇がじわりと近づいてきているような気がする。
──静かな世界の裏で、確かに“何か”が動いている。
彼女の《貪食》が再び牙をむくときが来るのかもしれない。
まだ、戦いは始まっていない。
けれど──その“前兆”は、確実に、すぐそばに迫っていた。
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