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優しい人
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信じてきました。
あなたが私に信じて欲しいと言ったから。私を幸せにすると、真っ直ぐな目で私を見て言ってくれたから。
その言葉を信じて、これまであなたを疑うことなく信じてきました。
信じて、信じて。その全てが幻想だったと、知りました。
私は、あなたのことが好きでした。
年齢に比べると少し幼い顔や、くりっとしたまん丸で透き通った目。思わず撫でたくなるくらいふわっとした髪。どんな時でも聞くと安心するあったかい声。誰もが口を揃えてあなたのことを優しい人だというほど優しいところ。
嫌いなところなんてひとつもなかった。あなたを嫌いになるなんて想像もしていなかった。
それくらい、あなたを好いていました。
いや、嘘をついても意味ないですね。
私は今でもあなたが好きで、いっそのこと嫌いになってしまえればいいのに。あなたを嫌いになんてなれなくて。
どうしようもなく苦しくて、どうしようもないくらいあなたが、愛おしいのです。
あなたは優しい人だから。
困っている人がいたら手を差し伸べます。
泣いている人がいたらハンカチをすっと出して渡せる人です。
たとえその人が悪い人だったとしても。その時に困っていて、泣いていたならば、あなたは助けてしまうでしょう。
私はそんなあなたを好きになった。だからこれは、いずれ必ず訪れる避けようのない未来だったのかもしれません。
あの時、仕事を優先しなければ。あの時、もっとちゃんと話せていたら。
今となっては取りようもない選択肢がたくさん浮かんでは、選べなかったことを後悔し、悔やむばかりです。
世間ではあなたのしたことを浮気と一言で済ませてしまいます。
でも、そんな簡単に名前をつけられる出来事ではないこです。
だってあなたは、心が弱っていたあの子の話を聞いて、慰めてあげた。それだけのこと。いつもと変わらない優しいあなたの行動です。
それをきっかけとして、あの子があなたを頼るようになって、恋をしてしまった。ただ、それだけのことでしょう。
あの子に何があったのかまでは知りません。誰かに酷く傷つけられたということは聞いています。気の毒だと思いました。可哀想だと。
だから優しくしたあの人のことを責めるつもりは一切ありません。むしろ誇りにさえ思います。
私があなたを好きな理由の一つがその優しさだから。
でも、あの子のことは許せません。私から優しいあの人を奪ったことを絶対に許しません。
別れ話になった時、泣いてしまえたら良かったのに。涙は一つも零れることはありませんでした。
「ごめん。あの子は僕がいなくちゃダメなんだ。でも君は、僕がいなくても大丈夫だろ?
勝手なこと言ってるのは分かってる。でもごめん。別れて欲しい。」
いつもと変わらない私の好きなあなたが、私に見せたことのない顔をして言ったんです。
頭が真っ白になりました。息が一瞬止まって、胸がぎゅっと痛くなりました。
「いやだ」と一言、言えばいいのに、私は自分の心に反して「分かった」と言ってしまいました。
私の「分かった」の言葉を聞いてあなたは、私が流すはずだった涙をぽろぽろ零しました。
私だってあなたが必要だ。私の方があの子よりずっと好きなのに。どうしてあの子を選んだの。
言いたいことがぶわっと頭に浮かび上がったのに、「ごめん、ごめん……」とあなたの泣く姿を見てしまっては、どの言葉も飲み込むしかありませんでした。
誰にでも優しいあなたが好きだった。誰にでもふわっと微笑んで助けてくれるあなたが好きだった。
でも、私はあなたに傷つけられた。
私が好きだったあなたはその瞬間にいなくなってしまったのです。
誰も、悪くないんだと思います。
あの子のことは許せないけれど、それくらい好きになってしまったんでしょう。あの人は素敵な人だから。
仕方のないことなんだと。そう思うしかありません。
別れた今でも、苦しいです。
簡単に忘れられるはずありません。
ずっと好きだった気持ちが、別れた途端にすっと消えてしまったら、それこそ自分さえも信じられなくなります。
だから、ゆっくり時間をかけて忘れていこうと思います。
美味しいものをいっぱい食べます。可愛らしい服を買ってよりオシャレになってやろうと思います。新しい趣味も探そうかな。
楽しいことを考えるとわくわくして、その時はあなたのことを忘れていられるような気がします。
私はあなたが言った通り、あなたがいなくても大丈夫だった。仕事も家事も一人でなんでもできますから。
あなたはきっと私に頼って欲しかったんでしょう?でも、私はそうしなかったから。自分必要としてくれる、あの子の所へ行ってしまった。
ただあなたが隣にいるだけで幸せだったなんて言ったら、どういう反応をしたんでしょうか。
今になっては知る由もないですが。
あなたがいなくても私は幸せになってやりますよ。絶対に。あなたが私と別れたことを後悔するくらい幸せになる。
だから、もう泣かないで。あなたも幸せになりなさいよ、ばかやろう。
あなたが私に信じて欲しいと言ったから。私を幸せにすると、真っ直ぐな目で私を見て言ってくれたから。
その言葉を信じて、これまであなたを疑うことなく信じてきました。
信じて、信じて。その全てが幻想だったと、知りました。
私は、あなたのことが好きでした。
年齢に比べると少し幼い顔や、くりっとしたまん丸で透き通った目。思わず撫でたくなるくらいふわっとした髪。どんな時でも聞くと安心するあったかい声。誰もが口を揃えてあなたのことを優しい人だというほど優しいところ。
嫌いなところなんてひとつもなかった。あなたを嫌いになるなんて想像もしていなかった。
それくらい、あなたを好いていました。
いや、嘘をついても意味ないですね。
私は今でもあなたが好きで、いっそのこと嫌いになってしまえればいいのに。あなたを嫌いになんてなれなくて。
どうしようもなく苦しくて、どうしようもないくらいあなたが、愛おしいのです。
あなたは優しい人だから。
困っている人がいたら手を差し伸べます。
泣いている人がいたらハンカチをすっと出して渡せる人です。
たとえその人が悪い人だったとしても。その時に困っていて、泣いていたならば、あなたは助けてしまうでしょう。
私はそんなあなたを好きになった。だからこれは、いずれ必ず訪れる避けようのない未来だったのかもしれません。
あの時、仕事を優先しなければ。あの時、もっとちゃんと話せていたら。
今となっては取りようもない選択肢がたくさん浮かんでは、選べなかったことを後悔し、悔やむばかりです。
世間ではあなたのしたことを浮気と一言で済ませてしまいます。
でも、そんな簡単に名前をつけられる出来事ではないこです。
だってあなたは、心が弱っていたあの子の話を聞いて、慰めてあげた。それだけのこと。いつもと変わらない優しいあなたの行動です。
それをきっかけとして、あの子があなたを頼るようになって、恋をしてしまった。ただ、それだけのことでしょう。
あの子に何があったのかまでは知りません。誰かに酷く傷つけられたということは聞いています。気の毒だと思いました。可哀想だと。
だから優しくしたあの人のことを責めるつもりは一切ありません。むしろ誇りにさえ思います。
私があなたを好きな理由の一つがその優しさだから。
でも、あの子のことは許せません。私から優しいあの人を奪ったことを絶対に許しません。
別れ話になった時、泣いてしまえたら良かったのに。涙は一つも零れることはありませんでした。
「ごめん。あの子は僕がいなくちゃダメなんだ。でも君は、僕がいなくても大丈夫だろ?
勝手なこと言ってるのは分かってる。でもごめん。別れて欲しい。」
いつもと変わらない私の好きなあなたが、私に見せたことのない顔をして言ったんです。
頭が真っ白になりました。息が一瞬止まって、胸がぎゅっと痛くなりました。
「いやだ」と一言、言えばいいのに、私は自分の心に反して「分かった」と言ってしまいました。
私の「分かった」の言葉を聞いてあなたは、私が流すはずだった涙をぽろぽろ零しました。
私だってあなたが必要だ。私の方があの子よりずっと好きなのに。どうしてあの子を選んだの。
言いたいことがぶわっと頭に浮かび上がったのに、「ごめん、ごめん……」とあなたの泣く姿を見てしまっては、どの言葉も飲み込むしかありませんでした。
誰にでも優しいあなたが好きだった。誰にでもふわっと微笑んで助けてくれるあなたが好きだった。
でも、私はあなたに傷つけられた。
私が好きだったあなたはその瞬間にいなくなってしまったのです。
誰も、悪くないんだと思います。
あの子のことは許せないけれど、それくらい好きになってしまったんでしょう。あの人は素敵な人だから。
仕方のないことなんだと。そう思うしかありません。
別れた今でも、苦しいです。
簡単に忘れられるはずありません。
ずっと好きだった気持ちが、別れた途端にすっと消えてしまったら、それこそ自分さえも信じられなくなります。
だから、ゆっくり時間をかけて忘れていこうと思います。
美味しいものをいっぱい食べます。可愛らしい服を買ってよりオシャレになってやろうと思います。新しい趣味も探そうかな。
楽しいことを考えるとわくわくして、その時はあなたのことを忘れていられるような気がします。
私はあなたが言った通り、あなたがいなくても大丈夫だった。仕事も家事も一人でなんでもできますから。
あなたはきっと私に頼って欲しかったんでしょう?でも、私はそうしなかったから。自分必要としてくれる、あの子の所へ行ってしまった。
ただあなたが隣にいるだけで幸せだったなんて言ったら、どういう反応をしたんでしょうか。
今になっては知る由もないですが。
あなたがいなくても私は幸せになってやりますよ。絶対に。あなたが私と別れたことを後悔するくらい幸せになる。
だから、もう泣かないで。あなたも幸せになりなさいよ、ばかやろう。
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