君といて心を知る

はるた

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一生かけても届かない

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「一生のおねがい!」

 お昼ご飯を食べ終えて残りあと10分という昼休み。クラスの誰かの「やっべー!おれ課題やってねー!」という焦りの声が教室中に響いた。

 その声に他のグループを形成しているクラスメイトたちが引っ張られ、各々話していた話題から波のように5限の課題へと移り変わっていく。

 今思い出した所で諦めればいいものの思い出してしまったからには提出したいという巻き返しの試みから小さなパニックがいくつかの机に発生していた。

 例に漏れず、私と同じ机をシェアするひとみも「やばっ」という顔をして即座に自分の机を探る旅へと出発。そうして戻ってきたや否や、旅人、もとい、ひとみは「課題を見せて下さい」と私を神のように崇め、手を合わせながら願い事を唱えるのだった。「一生のお願い」と。

「ひとみの一生っていくつ予備があるの?」

 一体何回、何十回目の一生のお願いだろうか。呆れたという顔を作って私は問う。

 ひとみはそんな私に「何回生まれ変わってもむあを見つけて親友になるからたっくさん!」と無邪気に答えた。

「…………。」

「…………?」

 ひとみは少しだけ首を傾げて私の反応を待つ。この子は、自分の顔がかわいく見える角度と私が喜ぶだろう言葉を知っているのだ。

 ずるいなぁ。

 私はひとみがあまりにも小さな子供みたいにめちゃくちゃなことを悪気なく言い切るものだから、返す言葉がない。従って無言の無反応。かわいらしさもこの時点ではあざとさでしかないため無効だ。かわいいけど。

 しかし、無言で静かに見つめ合う状況となるとだんだん、じわじわとあざとさとかわいさが相まったキメ顔をしているひとみがなんだか面白くなってきてしまって、とうとう私は耐えられずふっと息を漏らう。

 ひとみはしめたと思ったのか、大きくて丸い瞳で私を見つめてもう一度唱えるのだ。「おねがい」と。

 そうなると私はもう負けで、「しょうがないなぁ」と毎回甘やかしてしまうのだ。

「ありがとうむあ!大好き!」

「はいはい。」

 ほんとしょうがない。

 写すだけではひとみのためにはならないけれど、テスト前にまた教えてあげればいいだけのことだとどこかの誰かさんに言い訳なんかして。

 お弁当箱を片付け、机のスペースを取る。ひとみは恭しく私の課題を受け取り、いそいそと綺麗とは言えない文字で写していく。

「あっ嶋田ズリィ!天羽、俺にも見せてくれ!」

 一連のやり取りを見ていたのか聞いていたのか男子が私たちの間に急に入り込んできた。

 なんだっけ?と男子の名前を私が思い出せずにいると「ダメに決まってるでしょ。ねーむあ?」とひとみは私よりも先に、私の代わりにノーと言う。すると「はー?なんでお前が言うんだよ」と男子がひとみに絡み始めた。

 男子の言い分も分かるっちゃ分かるが、私も元から断るつもりだったしということで「悪いけど自力で頑張って」と言い、ひとみから男子を引き離す。男子も「天羽が言うなら仕方ねぇ。急に悪かったな」とあっさり立ち去った。

「ひとみも次はちゃんと忘れずやってくるんだよ。」

「はぁい。」

 この気のない返事は絶対やってこないだろうなと思う。元から期待はしていないけど。

 ほんとしょーもない。

「そーいえば朝、ましおくんと一緒に来てたけど仲良かったっけ?」

 ひとみの言葉にギクリとする。見られてたのか。

「仲は……普通、かな。今朝はたまたま会って、同じ部活だから話すくらい。」

 仲は良くない。初対面だしと言いたいのを我慢して、私は言った。今朝、関わらないで欲しいと言って取り下げられて負けました。正直、彼の話は一文字たりともしたくないですという気持ちがありながらも私は、我慢する。

「なぁんだ。てっきり付き合ったのかと思っちゃった。ダブルデートできる!って思ったのになぁ。ざんねん。」

 それは絶対にない。

 むむぅとひよこのように口をとがらせるひとみは、去年同じクラスだった芝田と2年の初めから付き合っている。ひとみの片想いから始まり、絶対に振り向かせるんだと努力して元から可愛いのにさらに可愛くなって、自信をつけて勇気をだして告白して掴み取った。ひとみの行動力にはいつも感心させられる。ひとみはそれだけ好きなのだ。芝田のことを。芝田は幸せ者だと思う。

 好きな人と恋人になれてから毎日はっぴ~と呟くひとみ。最近は「彼氏作らないの?」と私にも幸せになって欲しいと言って幸せを柔らかく押し付ける。

「ほらほらひとみ。手が止まってるよ。」

 私はひとみを急かし話を逸らす。

 ひとみが幸せなのはいいことだ。ひとみが幸せなら私も嬉しい。

 だけど、私はその幸せと同じ幸せを受け取れることは一生無いだろう。何度生まれ変わったとしても。一生、私にはひとみの幸せと同じ幸せが訪れることはない。

 ひとみには分からないだろうし、分からないでいて欲しい。

 だって私たちは幼なじみで親友なのだから。

 黒板の上にあるアナログ時計を見る。手元にスマホがあるのに時間を知りたい時はいつも顔を上げて見てしまう。長針はちゃんとさっきよりも進んでいて、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り始めるまであと僅かだった。
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