君といて心を知る

はるた

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同じ速さで歩いても、隣は遠い

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 高校へは徒歩で通える距離にある。

 眠気覚ましも兼ねての15分程度の通学。校門をくぐるよりも先にテニス部の朝練風景が木の間から見える。

「天羽さんおはよ~。」

 昨日に引き続き、未来人の彼はこの時代の私と同じ高校に通うクラスメイトとして滑らかに溶け込んで、私に挨拶する。

「……おはよ。」

 私に追いつくため駆け足気味だった彼は追い越すことなくペースを落とし、私の横を並んで歩く。

 先に行ってくれて構わないのに。むしろ行ってくれ。

「わざわざ学校に行くってめんどくさいね~。この時代ならもう遠隔授業でよくない?」

 彼は私の思いを軽やかに裏切り、会話を始める。私には学校に行くことよりも未来人というよく分からない存在に関わられるということの方がめんどくさい。
 私は普通に穏やかに過ごしたいのだ。

「あのさ、君の正体は誰にも話さないから私に関わらないでくれないかな。」

 冷たい言い方かもしれないが、ここははっきり言っておかないと厄介事に巻き込まれるような気がする。
 私が嫌な人間だと分かれば彼だって関わりたくなくなるだろう。

「え~。無理。」

 彼もキッパリと言った。

「なんで。」

 本当に。

「天羽さんとお話できないのは嫌だから。僕の正体は話したかったら話していいよ~。」

「なんで?」

 心から疑問に思う。話すのは誰とでもできるのに。
 関わりを拒む相手よりも関わりたいと望む相手と話す方が楽しいだろうに。

「未来人ってバレても特に問題はないからね。ま、信じる人は天羽さん以外いないだろうけど。」

「いや、聞きたいのはそっちじゃないよ……。」

 彼はそうなの?ととぼける。会話が止まる。私は人より歩く速度が遅いから、一人、二人とぽつぽつ追い抜かされていく。もちろん私に歩調を合わせている彼も同様に。

「知りたいから、かなぁ。」

 横を通り過ぎた人数が五人になった時、彼は言った。

「知りたい?なにを?」

 さっきから聞いてばかりだな私。でも知りたいことが分かれば私じゃなくてもいいと言えるかもしれない。

「ん~、なんだろ。なんだと思う?」

「……こっちが聞いてるんだけど。」

 ふざけてるのか、からかわれてるのか。どっちにしろ私が未来人の考えてることなんて分かるわけがないだろう。未来人どころか10年一緒にいる幼なじみのことだって分かっているようで分かっていないのだから。

「僕には分からないものなんだよ。これは予想になるけど、ニュアンス的には持ってないの方が近いのかもしれない。」

「それは君だから分からないものなの?それとも未来人は全員持ってないもの?」

「う~ん。難しいね。でも、知りたいと思っているのは僕だけだと思う。天羽さんと一緒にいたら分かる気がするんだよね。」

 知りたいと思うのが彼だけだと言うのなら、未来人にはその知りたいなにかは無いのが当たり前ということにもとれる。彼が私をわざわざ指定するのは私が彼を未来人だと認識している例外の人間だからというだけで、必ずしも私だけが知っているわけではないのだろう。むしろこの時代に生まれてから十数年しか経っていない私にはまだ無いものかもしれない。

「君が知りたいことがなにかは分からないけど、私が知らない可能性も高いし、私と関わるだけ時間の無駄になってしまうんじゃないかな。」

 彼は「そうかなぁ」と悩ましげに首を傾げる。

 ようやく校門が見えた。いつもより遅いと感じるのは私の歩くペースの問題では無いはずだ。

 未来人は跳ねるように境界線を越える。そして、左足を軸にし、くるりと回ってこう言った。

「じゃあ、どっちが当たるか賭けをしようよ。僕が天羽さんと関わることが無駄かどうか。期限は二年生が終わる春まで。負けた方は相手の言うことを一つ聞くってことで。」

 彼に「どう?」と聞かれて、私はピタリと足を止める。線を境にむこうの彼とこちらの私は、向かい合う。

 どうもなにも。

「その賭けは君にしかメリットがないし、君が絶対に勝つものだから私は乗らないよ。」

「そうかな。」

「そうだよ。」

 彼の知りたいことがなにかはっきりしていない状態でそれが二年の終わりに分かるかどうかなんてフェアじゃない。それに彼が分からなかった場合でも、極論彼が無駄じゃなかったと言ってしまいさえすれば彼の勝ちになるのだから賭けとして全く成立していないのだ。そもそも私は彼と関わりたくないと言っているのに賭けに乗るわけがないだろう。

 彼は「ん~」と悩む。

「天羽さんはどうして僕と関わりたくないの?」

「それは──。」

 ──「君が未来人で、未来人と関わることは普通じゃないから」と喉まで出た言葉を呑み込む。

 違う。それは"彼"と関わりたくない理由にはならない。それにその理由は私の嫌いな理由じゃないか。

「ま、僕はどんな理由だろうと関わるつもりだから、話されてもそうなんだとしか言わないよ。」

 急に黙った私を彼は特に気にすることもなく言った。

 これは今考えても意味がないな。"彼"と関わりたくない理由がちゃんと作れるようになるまでは。

「君は頑固なんだね。」

 彼から関わってくるのなら拒むことはしないと決めた。自分から関わりに行くかどうかまだそこまでは決められないけれど。

 ここを越えたら戻れない。そんな予感がする。でも、今更仕方ない。これはきっと彼と出会ってしまった時から決まっている変えられない未来なのだろう。それにここにいつまでもとどまっていたら普通に遅刻するし、仕方ないのだ。

 私は歩き、線を越える。彼の横を通って、置いて行く。

「よろしくね、天羽さん。」

 彼はまた私の隣をキープし、ひょこっと顔を覗き込むようにして、そう言った。
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