鬼と柊

はるた

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二十三

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「体調悪いなら帰った方がいいんじゃねーか?」
と、小谷が気遣うように言ってきた。

 今は三限終わりの10分休憩の時間。先に戻ったはずの柊さんは教室にはいなかった。

「体調は大丈夫、なんだけど……。」

 頭を抱えているのは頭が痛いからじゃなく、気付いてしまったことに対して自分はどうすればいいのか分からなくて頭を悩ませているのだ。それに、表情にばかり気を取られてしまっていたけれど、柊さんが自身を人殺しと言ったのも気になる。

 けれど、そんなこと小谷は知らないし、話すにしてももう少し考えてから話すかどうかを決めるべきだし……。

 うーんと唸る僕を見て小谷はだいじょぶか?と不安そうな眼差しを向ける。

 小谷にも僕のうーんが伝染したのか、小谷も右耳たぶを触りながら、僕たちはしばし考え込む。

 それから、「あっ」と発したのは小谷だった。なにか思い付いたのだろうか。

 いや、なにを?そもそも小谷はなんで悩んでいるのだろう。

「なにか分かったの?」

 小谷はいいやと首を振った。

「分かんないけど。佐藤……。お前もしや……。」

「……?」

「夢見が悪かった……のか?」

「あぁ……。」

 なるほど。小谷は僕の悩みはなにかについて悩んでいたのか。

「この前も夢か現実か分からんって話してたし、かなりリアリティある悪夢だとみた。」

「……まぁ、そんな感じ、かな。」

「……違ったかぁ。」

 歯切れ悪く言った僕に小谷は察し、天を仰ぐ。そして、じゃあなんだ?とまた小谷は悩みだした。

「いや、うーん、関係はなくはないから違くはないんだけど……ははっ」

 僕より真剣に悩んで。小谷はほんとお人好しだ。そう思ったら笑ってしまった。

「ん?笑うとこあった?」

「小谷はいいやつだなって。僕は自分のことしか考えられないから」

「俺も自分のことばっかだけど?」

「そんなことないよ。いつも小谷は僕を助けてくれるじゃんか。今だってそうだよ」

 小谷はうーんと腕を組む。そして、やっぱ違うと首を振る。

「俺はいつも俺がしたいからそうしてるだけ。その結果、相手にとって助けになればそりゃ嬉しいけども、迷惑になることだってあるし。もちろん相手のためになんかしたいなぁって思って行動はするんだけどさ。結局自己満足なんだよ。こういうのなんて言うんだっけな。あぁ偽善?」

「小谷は偽善者じゃないと思うけどなぁ。少なくとも僕は助けられてるよ。」

「そりゃ嬉しいことで。ま、助け助けられで俺たち良い関係じゃん。」

「……?僕が助けたことあったっけ?」

 僕の心からのクエスチョンに今度は小谷が「んははっ」と笑う。

「あのさ佐藤。お前は自分のことしか考えらんないって言うけどさ、まじで自分のことしか考えないやつはそんな風に思わないから。」

 小谷は笑ったそのままのテンションで明るくそんなことを言う。

「そうかな。」

「そうだろ。」

 にかっと歯を見せ、小谷は笑う。

「ま、なんかあったら頼りなさいってことよ。」

「うん。」

 悩みや不安の量は変わらないけれど、小谷と話したらそれらは少しだけ軽くなった。

 僕が絶対無理だと思っていても、もしかしたらいけるかも、大丈夫かもって物に対する見方や心持ちを小谷はいつも前へ進む方向へとそっと変えてくれる。

 真っ暗闇の中そこに留まるしかない僕に、ある時は光を、ある時は風を、ある時は音を、ある時は匂いを使って、小谷はこっちだよと教えてくれる。出口が分かれば、どう進むかは僕次第。なんとかなるよと小谷は言う。

 チャイムが鳴り、物理の教科担任が教室に入ってきた。クラスメイトたちは各々席へと戻っていく。

 授業が始まり、柊さんの席を見ると、彼女の姿があった。

 いつの間に……。

 彼女は頬杖をついて窓の外をぼんやりと暇そうに眺めている。先生の話を真面目に聞いていたり、ノートを取ったり、問題を解いたり、近くの子とこそこそおしゃべりしていたり、机の下でスマホをいじっていたり、居眠りしていたり。

 そういう教室の風景に溶け込んでいるその姿は、僕たちと変わりない普通の高校生だった。
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