24 / 25
二十三
しおりを挟む
「体調悪いなら帰った方がいいんじゃねーか?」
と、小谷が気遣うように言ってきた。
今は三限終わりの10分休憩の時間。先に戻ったはずの柊さんは教室にはいなかった。
「体調は大丈夫、なんだけど……。」
頭を抱えているのは頭が痛いからじゃなく、気付いてしまったことに対して自分はどうすればいいのか分からなくて頭を悩ませているのだ。それに、表情にばかり気を取られてしまっていたけれど、柊さんが自身を人殺しと言ったのも気になる。
けれど、そんなこと小谷は知らないし、話すにしてももう少し考えてから話すかどうかを決めるべきだし……。
うーんと唸る僕を見て小谷はだいじょぶか?と不安そうな眼差しを向ける。
小谷にも僕のうーんが伝染したのか、小谷も右耳たぶを触りながら、僕たちはしばし考え込む。
それから、「あっ」と発したのは小谷だった。なにか思い付いたのだろうか。
いや、なにを?そもそも小谷はなんで悩んでいるのだろう。
「なにか分かったの?」
小谷はいいやと首を振った。
「分かんないけど。佐藤……。お前もしや……。」
「……?」
「夢見が悪かった……のか?」
「あぁ……。」
なるほど。小谷は僕の悩みはなにかについて悩んでいたのか。
「この前も夢か現実か分からんって話してたし、かなりリアリティある悪夢だとみた。」
「……まぁ、そんな感じ、かな。」
「……違ったかぁ。」
歯切れ悪く言った僕に小谷は察し、天を仰ぐ。そして、じゃあなんだ?とまた小谷は悩みだした。
「いや、うーん、関係はなくはないから違くはないんだけど……ははっ」
僕より真剣に悩んで。小谷はほんとお人好しだ。そう思ったら笑ってしまった。
「ん?笑うとこあった?」
「小谷はいいやつだなって。僕は自分のことしか考えられないから」
「俺も自分のことばっかだけど?」
「そんなことないよ。いつも小谷は僕を助けてくれるじゃんか。今だってそうだよ」
小谷はうーんと腕を組む。そして、やっぱ違うと首を振る。
「俺はいつも俺がしたいからそうしてるだけ。その結果、相手にとって助けになればそりゃ嬉しいけども、迷惑になることだってあるし。もちろん相手のためになんかしたいなぁって思って行動はするんだけどさ。結局自己満足なんだよ。こういうのなんて言うんだっけな。あぁ偽善?」
「小谷は偽善者じゃないと思うけどなぁ。少なくとも僕は助けられてるよ。」
「そりゃ嬉しいことで。ま、助け助けられで俺たち良い関係じゃん。」
「……?僕が助けたことあったっけ?」
僕の心からのクエスチョンに今度は小谷が「んははっ」と笑う。
「あのさ佐藤。お前は自分のことしか考えらんないって言うけどさ、まじで自分のことしか考えないやつはそんな風に思わないから。」
小谷は笑ったそのままのテンションで明るくそんなことを言う。
「そうかな。」
「そうだろ。」
にかっと歯を見せ、小谷は笑う。
「ま、なんかあったら頼りなさいってことよ。」
「うん。」
悩みや不安の量は変わらないけれど、小谷と話したらそれらは少しだけ軽くなった。
僕が絶対無理だと思っていても、もしかしたらいけるかも、大丈夫かもって物に対する見方や心持ちを小谷はいつも前へ進む方向へとそっと変えてくれる。
真っ暗闇の中そこに留まるしかない僕に、ある時は光を、ある時は風を、ある時は音を、ある時は匂いを使って、小谷はこっちだよと教えてくれる。出口が分かれば、どう進むかは僕次第。なんとかなるよと小谷は言う。
チャイムが鳴り、物理の教科担任が教室に入ってきた。クラスメイトたちは各々席へと戻っていく。
授業が始まり、柊さんの席を見ると、彼女の姿があった。
いつの間に……。
彼女は頬杖をついて窓の外をぼんやりと暇そうに眺めている。先生の話を真面目に聞いていたり、ノートを取ったり、問題を解いたり、近くの子とこそこそおしゃべりしていたり、机の下でスマホをいじっていたり、居眠りしていたり。
そういう教室の風景に溶け込んでいるその姿は、僕たちと変わりない普通の高校生だった。
と、小谷が気遣うように言ってきた。
今は三限終わりの10分休憩の時間。先に戻ったはずの柊さんは教室にはいなかった。
「体調は大丈夫、なんだけど……。」
頭を抱えているのは頭が痛いからじゃなく、気付いてしまったことに対して自分はどうすればいいのか分からなくて頭を悩ませているのだ。それに、表情にばかり気を取られてしまっていたけれど、柊さんが自身を人殺しと言ったのも気になる。
けれど、そんなこと小谷は知らないし、話すにしてももう少し考えてから話すかどうかを決めるべきだし……。
うーんと唸る僕を見て小谷はだいじょぶか?と不安そうな眼差しを向ける。
小谷にも僕のうーんが伝染したのか、小谷も右耳たぶを触りながら、僕たちはしばし考え込む。
それから、「あっ」と発したのは小谷だった。なにか思い付いたのだろうか。
いや、なにを?そもそも小谷はなんで悩んでいるのだろう。
「なにか分かったの?」
小谷はいいやと首を振った。
「分かんないけど。佐藤……。お前もしや……。」
「……?」
「夢見が悪かった……のか?」
「あぁ……。」
なるほど。小谷は僕の悩みはなにかについて悩んでいたのか。
「この前も夢か現実か分からんって話してたし、かなりリアリティある悪夢だとみた。」
「……まぁ、そんな感じ、かな。」
「……違ったかぁ。」
歯切れ悪く言った僕に小谷は察し、天を仰ぐ。そして、じゃあなんだ?とまた小谷は悩みだした。
「いや、うーん、関係はなくはないから違くはないんだけど……ははっ」
僕より真剣に悩んで。小谷はほんとお人好しだ。そう思ったら笑ってしまった。
「ん?笑うとこあった?」
「小谷はいいやつだなって。僕は自分のことしか考えられないから」
「俺も自分のことばっかだけど?」
「そんなことないよ。いつも小谷は僕を助けてくれるじゃんか。今だってそうだよ」
小谷はうーんと腕を組む。そして、やっぱ違うと首を振る。
「俺はいつも俺がしたいからそうしてるだけ。その結果、相手にとって助けになればそりゃ嬉しいけども、迷惑になることだってあるし。もちろん相手のためになんかしたいなぁって思って行動はするんだけどさ。結局自己満足なんだよ。こういうのなんて言うんだっけな。あぁ偽善?」
「小谷は偽善者じゃないと思うけどなぁ。少なくとも僕は助けられてるよ。」
「そりゃ嬉しいことで。ま、助け助けられで俺たち良い関係じゃん。」
「……?僕が助けたことあったっけ?」
僕の心からのクエスチョンに今度は小谷が「んははっ」と笑う。
「あのさ佐藤。お前は自分のことしか考えらんないって言うけどさ、まじで自分のことしか考えないやつはそんな風に思わないから。」
小谷は笑ったそのままのテンションで明るくそんなことを言う。
「そうかな。」
「そうだろ。」
にかっと歯を見せ、小谷は笑う。
「ま、なんかあったら頼りなさいってことよ。」
「うん。」
悩みや不安の量は変わらないけれど、小谷と話したらそれらは少しだけ軽くなった。
僕が絶対無理だと思っていても、もしかしたらいけるかも、大丈夫かもって物に対する見方や心持ちを小谷はいつも前へ進む方向へとそっと変えてくれる。
真っ暗闇の中そこに留まるしかない僕に、ある時は光を、ある時は風を、ある時は音を、ある時は匂いを使って、小谷はこっちだよと教えてくれる。出口が分かれば、どう進むかは僕次第。なんとかなるよと小谷は言う。
チャイムが鳴り、物理の教科担任が教室に入ってきた。クラスメイトたちは各々席へと戻っていく。
授業が始まり、柊さんの席を見ると、彼女の姿があった。
いつの間に……。
彼女は頬杖をついて窓の外をぼんやりと暇そうに眺めている。先生の話を真面目に聞いていたり、ノートを取ったり、問題を解いたり、近くの子とこそこそおしゃべりしていたり、机の下でスマホをいじっていたり、居眠りしていたり。
そういう教室の風景に溶け込んでいるその姿は、僕たちと変わりない普通の高校生だった。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる