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二十二
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僕と柊さんは生徒会室から出て、校舎へと向かう。
裏にある体育館からはボールの弾む音やホイッスルの音、生徒の走る音や声が聞こえてくる。
バスケかな?
三限の終わりも近い。先生の「そろそろ片付けろよー」という声も聞こえ、えーもうちょっとーという生徒の心の声も聞こえた、ような気がした。
「先程はすみません。すっかり寝てしまいまして。」
「あのソファすごく座り心地がいいですもんね。」
柊さんは毎日鬼の世界に行っているのだ。負荷がかからなくても常に気を張り、戦っていたら疲れも溜まることだろう。
「柏那さんとは小さな時からの知り合いなんですか?」
「そうですね。昔からお世話になっています。主人と家来という立場ではありますが、柏那さんは保護者のような存在です。」
そろそろ地に降るものが桜から雨に変わる季節。吹く風にも水分が含まれてきた。
「今後、また何かあれば宗次郎に連絡して下さい。鬼の世界では私が全責任を持ってあなたを守りますが、この世界……特に学校では、私と関わらないほうがいいですから。」
「どうしてですか?」
役目に支障が出るとか?そういえば、学校ではスイッチを切っているんだっけ。上手く答えられないからとかかな。
「私は、本来であればあなたの日常に存在しないはずだったからです。」
なんて、呑気に思っていた僕は予想外の答えにぽかんとした。
存在しないってどういうことだろう。柏那さんの作った空間でもあるまいし。
「柊さんはクラスメイトです。僕の日常に元からあなたは存在していますよ。」
「……あなたは優しいですね。ですが、だからこそ私とは関わらない方がいいです。」
全てを救おうとする優しい彼女は、ただ事実を述べただけの僕を優しいと評価する。優しいの基準がバグっている。
「どうしてそんなことを言うんですか?」
柊さんは足を止めた。そして、校舎を見上げる。
「────。」
「え……。」
柊さんの言葉に被せるかのようにチャイムが鳴り響いた。授業の……終わりを告げるチャイムが。
「普通でいられる資格が無いんですよ」と柊さんはチャイムの鳴り終わりにぽつりと呟いた。
「柊さ……。」
「保健室にいるという設定でしたね。同じタイミングで戻るのは不自然ですし、この辺りで別々に戻りましょう。」
僕に何も言わせまいと、柊さんは無理やりこの会話を終わらせた。しかし、去り際には「では」と丁寧にお辞儀をしてから、柊さんは歩いていく。
僕を置いて。距離をとる。……とられた。
僕のどうしてが放ったらかしで宙に浮いている。
どうして。どうして、そんなことを言うのだろう。
「私は人殺しだからです」と。柊さんは言った。確かに言った。
しかし、どうして。どうして、そんな……。
その言葉を言った時の柊さんは、校舎を見上げていた柊さんは、その中で、授業を受けて、友達と雑談して、居眠りして、学生として過ごしている同級生たちを、見ていた柊さんは、まるで……。
それは、教室にいつも一人でいる時の柊さんに感じていたもので、今まで当てはまる言葉が見つからなかったのだけれど、今、分かった。
僕は柊さんは一人が好きな人だと思っていた。けれど、ずっと気になっていた。
柏那さんから聞いた柊さんは人に興味が無いも必要が無いも、僕より付き合いが長い人へ言った言葉なのだから、と。柊さんが言っていた資格が無いも本人が言ったのだから、と。普通ならそのまま受け取って、受け取るしかないはずなのに。
それでも僕は、自分で見たこととそれがズレているように思えて、そのまま終わりにしたくないと思っている。柊さんは一人が好きなのだと納得していた自分にもずっと納得できていなくて。本当は、違うんじゃないかって。
だって、本当にそうなら、どうしていつも表情を崩すことの無い柊さんが、あの瞬間、まるで自分には手の届かないものに憧れ、そして、諦めるかのように。
そんな寂しそうな顔をするのだろうか。
本当は違うかもしれない。けれど、僕にはそう見えたのだ。ずっとそう、感じていたのだ。
今、やっとそのことに気付いた。
裏にある体育館からはボールの弾む音やホイッスルの音、生徒の走る音や声が聞こえてくる。
バスケかな?
三限の終わりも近い。先生の「そろそろ片付けろよー」という声も聞こえ、えーもうちょっとーという生徒の心の声も聞こえた、ような気がした。
「先程はすみません。すっかり寝てしまいまして。」
「あのソファすごく座り心地がいいですもんね。」
柊さんは毎日鬼の世界に行っているのだ。負荷がかからなくても常に気を張り、戦っていたら疲れも溜まることだろう。
「柏那さんとは小さな時からの知り合いなんですか?」
「そうですね。昔からお世話になっています。主人と家来という立場ではありますが、柏那さんは保護者のような存在です。」
そろそろ地に降るものが桜から雨に変わる季節。吹く風にも水分が含まれてきた。
「今後、また何かあれば宗次郎に連絡して下さい。鬼の世界では私が全責任を持ってあなたを守りますが、この世界……特に学校では、私と関わらないほうがいいですから。」
「どうしてですか?」
役目に支障が出るとか?そういえば、学校ではスイッチを切っているんだっけ。上手く答えられないからとかかな。
「私は、本来であればあなたの日常に存在しないはずだったからです。」
なんて、呑気に思っていた僕は予想外の答えにぽかんとした。
存在しないってどういうことだろう。柏那さんの作った空間でもあるまいし。
「柊さんはクラスメイトです。僕の日常に元からあなたは存在していますよ。」
「……あなたは優しいですね。ですが、だからこそ私とは関わらない方がいいです。」
全てを救おうとする優しい彼女は、ただ事実を述べただけの僕を優しいと評価する。優しいの基準がバグっている。
「どうしてそんなことを言うんですか?」
柊さんは足を止めた。そして、校舎を見上げる。
「────。」
「え……。」
柊さんの言葉に被せるかのようにチャイムが鳴り響いた。授業の……終わりを告げるチャイムが。
「普通でいられる資格が無いんですよ」と柊さんはチャイムの鳴り終わりにぽつりと呟いた。
「柊さ……。」
「保健室にいるという設定でしたね。同じタイミングで戻るのは不自然ですし、この辺りで別々に戻りましょう。」
僕に何も言わせまいと、柊さんは無理やりこの会話を終わらせた。しかし、去り際には「では」と丁寧にお辞儀をしてから、柊さんは歩いていく。
僕を置いて。距離をとる。……とられた。
僕のどうしてが放ったらかしで宙に浮いている。
どうして。どうして、そんなことを言うのだろう。
「私は人殺しだからです」と。柊さんは言った。確かに言った。
しかし、どうして。どうして、そんな……。
その言葉を言った時の柊さんは、校舎を見上げていた柊さんは、その中で、授業を受けて、友達と雑談して、居眠りして、学生として過ごしている同級生たちを、見ていた柊さんは、まるで……。
それは、教室にいつも一人でいる時の柊さんに感じていたもので、今まで当てはまる言葉が見つからなかったのだけれど、今、分かった。
僕は柊さんは一人が好きな人だと思っていた。けれど、ずっと気になっていた。
柏那さんから聞いた柊さんは人に興味が無いも必要が無いも、僕より付き合いが長い人へ言った言葉なのだから、と。柊さんが言っていた資格が無いも本人が言ったのだから、と。普通ならそのまま受け取って、受け取るしかないはずなのに。
それでも僕は、自分で見たこととそれがズレているように思えて、そのまま終わりにしたくないと思っている。柊さんは一人が好きなのだと納得していた自分にもずっと納得できていなくて。本当は、違うんじゃないかって。
だって、本当にそうなら、どうしていつも表情を崩すことの無い柊さんが、あの瞬間、まるで自分には手の届かないものに憧れ、そして、諦めるかのように。
そんな寂しそうな顔をするのだろうか。
本当は違うかもしれない。けれど、僕にはそう見えたのだ。ずっとそう、感じていたのだ。
今、やっとそのことに気付いた。
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