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おやすみなさいのキスを

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 死神は担当の魂が光を転生不可となるとその魂の消滅と共に死神もまた消滅する。

 転生不可とされる条件は魂の輝きが失われること。死神は魂に光が無くなったことを確認すると、その器と魂に口付けをして転生にストップをかけ、魂と自分の長い長い物語の幕を下ろすのだ。

 男は動かなくなった女をベットまで運び、横たえる。

「おやすみ。良い夢を。」

 せめて夢の中ではと祈り、男は女の頭を撫でた。それをきっかけに女から魂がふわっと浮かび上がる。橙色の魂。しかし男が愛した柔らかく暖かい光はもう以前のような暗闇を照らす力は残してはいなかった。

 どの人生でも己より人の為に生きることを生きがいとしていた魂だった。どの時代でもどの世界でも優しさというのは目に見えず評価されることは無かったが、それでも光は輝いていた。

 たとえいいように使われようとも、損をしようとも。人の笑顔を見ることが己の笑顔に繋がる。それが橙色の魂の生き方だった。

 だから器が他のどの魂よりも壊れやすかったのだ。自分を犠牲にしてまで他の人間の命を繋いできたのだから。

「ようやく争いの無い平和な世界に生まれて20を越えられたと安心していたのだがな。」

 男は魂を両の手のひらで包むようにして掬い取る。零れ落ちないように。壊さないように。光を失っても尚、心底愛おしそうな眼差しで。

「よく頑張った。ゆっくり眠ろう。」

 男は微笑む。

 一生をかけて一途に愛した橙色の魂に──死神は最初で最後のキスをした。
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