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甘ったるいバニラ味

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「好きなの。」

 好きな人がそう告白した。

 放課後のフードコート。同じ高校に通う生徒たちは放課後大体ここに来るため、席のほとんどが制服姿の若者で埋まっている。

「うん。知ってるよ。」

「なんだ。バレてたか。」

 彼女は驚いた様子もなく、バニラシェイクを口に含む。チョコにイチゴにバナナに期間限定のラムネ。味の種類は他にもあるのに彼女は小さな時からずっとバニラ一択だった。

──たまには冒険しようと思うのにやっぱりバニラを選んじゃう。唯一美味しさを知ってるからかな。美味しいって思うものを差し置いてまで他の味を選んで、あぁ美味しくなかったなって失敗したくないんだよね。それがたった一回でも。挑戦よりも安定を選んじゃうんだ私は。

 いつだったか「飽きないの?」って聞いたら「好きだからね。飽きないよ。」とドヤ顔で答えた彼女は今日も迷わずバニラ味。

「で、どうするの?」

 自分の手元にはコーラがある。ただ彼女とは違っていつも同じものは選ばない。
 自分は安定よりも挑戦を選んでいるのだ。と言えればかっこいいけれど、挑戦なんかしてなくて。実際は逃げているだけ。かっこ悪くて情けない臆病者だ。
 臆病者は怖いのだ。ずっと好きだったものが突然無くなる瞬間が。ただ怖いのだ。

 ストローが自分の口からひょいひょいと牛若丸のように軽やかに逃げていく。中々コーラを飲めない様子を見て彼女は「あははっ何やってんのもー。」と笑う。
 ようやくコーラがシュワシュワと喉を通った時、彼女は真面目な顔をしていた。

「告白しようかなって思ってる。」

 彼女はわざわざ好きだと口にした。だとしたら答えはもう決まっていたのだろう。答えという覚悟が。

 炭酸が、胸の中で弾ける。

 あぁ恋も味のように選べたら良かったのに。

「そっか。頑張れ。応援してる。」

「ありがとう。」

 微笑む彼女は挑戦を選んだ。これまで挑戦よりも安定を選んできた彼女が恋を叶えるため、前へ進むのだ。
 その姿はとても美しかった。世界で一番。

「それ、一口飲んでもいい?」

「いいけど、前に甘過ぎるって言ってなかったっけ?」

「たまにはね。」

 彼女の好きなバニラ味。その味はやっぱり脳が溶けるほど甘ったるい。

「どう?」

「甘過ぎる……。」

「だから言ったじゃん!」

「今日はいけると思ったんだよ……。」

 目と目が合う。お互いに。そうして同時にプッと吹き出して笑い合う。

──ねぇ、知ってた?私だって一途なんだよ。恋人になれなくったって。一生想いを伝えられなくったって。好きだから。ずっと笑顔で傍にいるんだよ。
 貴方が好きだから。どんな貴方でも飽きることなんてないよ。

 だから。どうか。

 貴方は私のようにはならないでね。

 だから。どうか。

 どうか貴方の恋が叶いますように──。
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