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第2話

メギトの真実 つづき

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 一時間後。
 ホノルル市内を歩く氷見、リック、ジェル、ヨセフ、バージル、ドール。
 「エリオットは観光しないの?」
 ジェルが聞いた。
 「基地に用事があるんだって」
 氷見が答えた。
 「ホノルルじゃなくてあの女が寄港したカウナイ島に寄った方がよくないかね」
 ヨセフが疑問をぶつける。
 「ニイハウ島、カウナイ島は金持ちしか住んでいない。大戦末期、ロボット軍団と国連軍との戦いになって
住民は本土に逃げた。終戦後に帰ったら金持ちが居座っていた。住民達はハワイ島やオアフ島か本土に
住むしかなくなった」
 ジェルがタブレット端末を操作しながら説明する。
 「それもひどいな」
 ヨセフとリックは声をそろえた。
 「それもたぶんあの銀髪女がやったかもよ」
 氷見が言う。
 たぶんそうだろう。その時は塚本も一緒だったから情報操作して金持ち連中を呼んで勝手に住んだのだろう。
はっきり言って泥棒と同じだ。
 氷見達は市内のハンター事務所に入った。
 「あの女はどうしてる?」
 氷見は食堂に入るなり聞いた。
 「ハルベリー博士はカウナイ島から動いていません。信号は出ていません」
 バージルが見回す。
 ドールが周囲を見回した。
 「どうした?」
 ヨセフが聞いた。
 「微弱な通信電波が出ています」
 バージルは窓に近づく。
 「それとは別の電波が出ています」
 ドールが窓の方を見る。
 氷見はフッと映像がよぎった。なぜかわからないがミュータント化して凶暴化した動物が押し寄せる映像だ。
 「ミュータント化した動物が来る。ヨセフ博士はここにいて。みんな武器を取って押し寄せてくる!!」
 だしぬけに叫ぶ氷見。
 食堂にいたハンター達は驚いた顔で見ていたがみんな弾かれるように飛び出す。
 「本当?」
 リックが驚く。
 「武器を用意してワイキキビーチへ走る!!」
 氷見は長剣を抜くと駆け出す。
 「マジかよ」
 リックはそう言うと氷見、ジェル、バージル、ドールは事務所を飛び出す。
 すると海岸から市内の方向へ悲鳴を上げて逃げてくる観光客の姿が見えた。
 「もう遅かったか」
 リックが叫ぶ。
 海岸方向から獣の吼え声が響いた。
 ビーチへ足を踏み込むハンター達。
 「サメ?タコ?」
 ジェルとリックが声をそろえる。
 海から海岸へ上陸するのは体はホオジロザメなのに後ろ半分はタコ足が生えていた。一匹ではなく
数百匹上陸してくる。
 逃げ遅れた観光客をそのタコ足でつかまえる一匹のサメタコ。
 氷見はその触手を切り落とす。
 リックが動いてその観光客を抱えて道路まで走った。
 無人ステルス機がバルカン砲でサメタコの群れを連射。
 しかし表皮が硬いのか弾が弾かれるがタコ足は吹き飛ばされる。
 無人機が砂浜に着陸してドールは機内に格納される。そしてトランスフォームした。彼は機械の翼を
バージルに渡した。
 バージルは装着すると空を舞い片腕を小型レールガンに変形させてサメタコの群れをを撃っていく。
 ジェルは両手でまんじゅうをこねる動作をすると光球を放った。光球は途中で分裂してサメタコの体を貫通した。
 リックが動いた。その動きは観光客にもサメタコの群れにも見えなかった。数十匹のサメタコが切り裂かれ宙を
舞い砂浜に落ちた。
 氷見は両目を半眼にした。
 サメタコの群れの影から影色の触手が飛び出しサメタコの体を貫通した。
 しばらくすると彼らハンターの足元にはサメタコの群れの死骸が多数転がっていた。
 ホッとする氷見達。
 バージルは振り向きざまに低層ビルの屋上を片腕のレールガンで撃った。
 空間が揺らいでバルカン砲を持った男が現われた。その男はひどく驚いていたがバルカン砲を向けた。せつな
別の方向から弓矢が頭部と首に刺さった。
 男はもんどりうって地面に落ちた。
 「あそこに誰かいる」
 別のハンターが指さした。
 向かいの低層ビルの屋上に人影がある。その人物は歩兵用フルフェイスヘルメットをかぶって人相がわからない。
体は白地に黒のアーマーを着用している。その人物は振り向きざまに弓矢を放った。
 電柱にのぼっていた槍を持った男に命中。男はもんどりうって落ちた。
 「エレミア」
 バージルがつぶやく。
 「知り合い?」
 氷見が聞いた。
 うなづくバージル。
 その時である基地の方向から数機のヘリコプターが接近。そこから武装した兵士がロープ降下してくる。
 驚いたのか周囲を見回すくだんの人物。
 「いけない。彼らはエレミアを刺激しすぎています。ドール。彼を止めます」
 バージルは翼を広げると飛んだ。
 「え?」
 エレミアと呼んだ人物は兵士のライフル銃の銃弾を間隙を縫うようかわすと掌底を弾き、蹴りを入れ通りすぎた。
 数十人の兵士は目を剥いて倒れた。
 「バージルを追いかけるよ」
 氷見が駆け出す。
 「マジですか?」
 リックとジェルが声をそろえながらも彼女を追いかけた。
 エレミアはビルからビルの屋上へジャンプしながら駆け抜ける。
 それを追うバージルとドール。
 「すげえ跳躍力」
 リックが驚きの声を上げる。
 エレミアはいきなりバージルに飛びかかり彼の胸を腕に仕込んでいた短剣で刺した。
 「ぐあっ!!」
 バージルは声を上げ、エレミアの腕をつかみ、もつれあいながら別のビルに突っ込む。
 「エレミア。私だ!!」
 バージルは胸を押さえながら言う。
 エレミアが動いた。
 ドールのタックル。
 壁を何枚もぶち破りながら地面に落ちた。
 「いた!!」
 追いつく氷見、リック、ジェル。
 エレミアが動いた。腕に仕込んだ湾曲したナイフでドールの装甲に何度も突き立てた。
 「エレミア。私だ」
 ドールは遠巻きににじりより動いた。何度も交差してドールはエレミアをつかまえ、片腕に仕込んでいた
長剣で彼を刺した。
 「ぐふっ!!」
 エレミアは胸から背中へ剣が貫通する。口から青色の潤滑油が吹き出し、胸の傷からも青色の潤滑油が
したたり落ちる。
 舞い降りるバージル。
 「彼も同じアンドロイド?」
 氷見が聞いた。
 「彼は元人間のサイボーグです。ただしかなり改造され主体コアは別にあります」
 バージルが答えた。
 そこにジープに乗った米軍兵士と一緒にエリオットとヨセフがやってくる。
 エレミアを放すドール。
 「ぐはっ!!」
 エレミアのヘルメットが脱げて落ち、彼は胸を押さえて倒れた。

 一時間後。米軍基地の格納庫。
 「迷宮機関の奴らとんでもない実験をしていたんだな」
 ヨセフは医療カプセルに拘束ロープで固定されるエレミアを見て声を失う。
 「両腕と両足が外せるってすごい」
 リックとジェルが声をそろえる。
 黙ったままの氷見。
 カプセルにエレミアは拘束されている。それも胴体と頭部のみとなって。両足、両腕を取り外したのは
バージルとドールである。アーマーは外されてサイバネティックスーツで人間の皮膚ではない。体格は
あの分厚いアーマーと重装備から考えられない程細い。顔は肌色だがそれは人工皮膚だろう。栗色の短髪の
頭皮も人工皮膚で後頭部にプラグやコードを接続する穴があるのだ。迷宮機関はサイボーグまで造って本当に
世界征服をやりたかったのだろうか。
 「迷宮機関の本当の狙いはなんだろうか?」
 ヨセフは腕を組んだ。
 「五億人にまでに減らして支配したい理由って何?彼を見る限り、高度な手術と改造とかが伺えるけど?」
 氷見が聞いた。
 「大戦前・・・三十年前ですがダイバーエージェンス播磨工業である実験が行われたそうです」
 それを言ったのはバージルである。
 「ダイバーエージェンス播磨工業はその時はIT関連ではヤフーやグーグル、アップルとシェアを争うほどの
大企業だ」
 あっと思い出すヨセフ。
 「CIAでも何度も名前が挙がっていた。ウワサではターミネーターを造っているのではないかと疑っていたが、
奴らは優秀な弁護士を一〇人も雇っていて、内部に潜入できなかった。それにタブレット端末、携帯のアプリが
妙なカウントをしていたのを覚えている。あれが戦争の合図とはよく考えた」
 コーヒーを飲むエリオット。
 「映画でもスカイネットはアプリとしてカウントダウンしている場面があっただろう。それと同じ事
をやっていたんだ」
 ヨセフは真剣な顔になる。
 「バージル。エレミアの過去をなぜ知っているの?」
 氷見が聞いた。
 「大戦末期。迷宮機関を裏切る前に過去を聞きました。彼はダラスの刑務所で窃盗や空き巣で一〇年の刑を
受けている時にダイバーエージェンス播磨工業の社員が来たそうです。その面会人は塚本、ハルベリー、
サムエル博士です。その時はロボコップのようなものになると言われたそうです」
 バージルが答えた。
 「よく考えたな」
 感心するヨセフとリック。
 「彼は契約にサインした事を後悔していました。ロボコップは聞いていたがそれ以上に化物にしてくれなんて
頼んでいないと」
 ドールがわりこむ。
 その時である。エレミアの目が開いたのは。
 「ちくしょう!!また閉じこめるのか」
 エレミアはうめきながら身をはげしくよじった。胸が人間が激しく呼吸するように上下してのけぞる。傷口は
治っていなかったのかふさがっていた傷口が開き、青色の潤滑油が滲み出した。でも傷口から金属の芽が
伸びてふさがっていく。ふさがると同時に体を何かが這い回るように盛り上る。肉が割れ、金属が軋む耳障りな
音が響き、傷口から金属の芽が伸びて黒色のアーマーが形成されて盛り上る。細身だった体がふた
回り大きくなる。
 ミシミシ・・メキメキ・・・
 エレミアはにらみ、身をよじった。
 「エレミア。私達は敵じゃない。むしろ力を借りたいだけ!!」
 一喝する氷見。
 暴れるのをやめてにらむエレミア。
 「迷宮機関がまた何か計画して動き出している。だから国連軍は迷宮機関のメンバーを追っている」
 氷見は言い聞かせるように声を荒げる。
 「そうか・・・」
 エレミアはつぶやく。
 「おとなしくなった?」
 エリオットがのぞいた。
 「迷宮機関の連中はゲーム感覚で楽しむ連中だった・・・でもエリオット。おまえは知っている。
俺と互角に戦った」
 エレミアはどこか遠い目をする。
 「もう暴れない?」
 氷見が聞いた。
 「暴れてもしょうがないだろ。ここは基地の中だ」
 エレミアはそっけなく言う。
 「外してやれ」
 エリオットがあごでしゃくる。
 顔が引いているリック。
 「情けない男ね」
 氷見はしれっと言うとエレミアの拘束ロープを外した。
 エレミアの肩口と臀部から連接式の金属の触手が何本も伸びて両手両足を装着すると彼は身を起こした。
 「俺のアーマーは取られても再生する。俺の主体コアは潜水母艦にある。奴らが勝手にそう造り替えた」
 エレミアは視線をそらした。
 「エレミアの潜水母艦はこれだ」
 エリオットは写真を出した。
 「船じゃない?潜水艦でもない?」
 氷見達は声をそろえた。
 流線型で潜水艦に見えるけど乗員が乗り込むセイル部分がなく、サメかクジラに見え、空を飛ぶ時は
格納されていた四基のプロペラが出て空を飛べる。おまけにキャタピラまであり、いわば海と空と陸を
戦える
 「いったい迷宮機関って何者?こんなテクノロジー見たことない」
 ジェルの声が震える。
 「まるで未来の乗り物を見るみたい」
 氷見が困惑する。
 たぶん、今の科学水準では無理だろう。反重力だって開発されてないし、潜水艦が空を飛べるなんて
聞いたことがない。ただ宇宙人が関与しているなら理由は通る。
 「我々も同じ事を感じている。迷宮機関は未来からやってきた連中で、過去を改変して未来を自分達の
いいように変えようとしていると結論が国連本部やハンター本部でも出ているんだ。そうしなければこんな
高機能は不可能だ」
 ヨセフは部屋を歩き回りながら振り向く。
 「ねえ、中東メギドへ行ってみない?事件の捜査でも行き詰ったら最初に戻れって言うでしょ。メギトは
最初に核爆発が起きた場所だしそこから戦火が拡大して世界がメチャクチャになった」
 氷見がひらめいた。
 「そうだな。私も知りたかったんだ」
 それを言ったのはエリオットである。
 「だがな世の中には知らなくてもいい事はたくさんあるのだよ。ワシも知らんのだ」
 ヨセフが注意する。
 「私達はもう巻き込まれているのよ。私が塚本の依頼書をもらった時点で巻き込まれた。あのサメタコだって
あの銀髪女が呼んだかもしれないじゃない」
 氷見が腰に手を当てる。
 「カウナイ島を捜索したがハルベリーはいない」
 不意に鋭い声がして振り向くとホランド、イリーナ、武藤とオスカーがいた。
 「代わりにこんな装置があった」
 オスカーはタブレット端末を操作してホログラムを出した。映像には中央に円台があり量子コンピュータが
円陣を組むように配置されている。
 「これは量子間テレポート装置だ。ワシは論文を出したがこれを実際に造ったとはすごい頭脳だ」
 ヨセフはあっと声を上げた。
 「エレミア。あなたの船はどこにあるの?」
 氷見が聞いた。
 「米軍の管理下にある」
 エレミアが答える。
 「エリオット。彼を入れれば役に立つけど。条件はその船を出す事」
 氷見は向き直る。
 「そのつもりだ。米軍が文句言ってきても彼らに止められない」
 エリオットはうなづく。
 「我々も行く。複数の国から調査の依頼書が来ている」
 ホランドは十枚の最上位レベルの依頼書を見せた。

 ホランド達はヒッカム基地に入った。
 ヒッカム空軍基地はハワイ州ホノルルにあるアメリカ空軍の基地。アメリカ海軍真珠湾基地と二〇一〇年
統合された。滑走路はホノルル国際空港と共有している。太平洋空軍の管轄であり、太平洋空軍司令部のほか、
第13空軍司令部と同第15空輸航空団およびハワイ州兵を中心とした部隊が所在している。
 「空軍基地にあるのか?」
 リックは周囲を見回す。
 「終戦後。アラスカとエスペランサー。ハワイにイスベル号を管理下に置いた」
 ホランドは口を開いた。
 「イスベルはスペイン語で氷山ね」
 ジェルが気づいた。
 「エスペランサーは光系の武器。イスペルは氷、水系の武器なんだ」
 エリオットが答える。
 「炎と風がいないな」
 リックが言う。
 「炎と風がいたら私達は勝てなかった」
 そう言うとホランドは屋根つきドックへ案内した。ドックには六角形の量子コンピュータが並び黒色の金属の
物体が固定されている。
 「本当にセイルがない」
 驚く氷見。
 ロボットやアンドロイドのみに絞った結果だろう。よって姿はサメかクジラにしか見えないかもしれない。
 桟橋から潜水艦の甲板部分に渡る。セイルがないからそのまま艦内に入る。艦内は人間の居住部分はなく、
食堂もない。その部分は武器を造る工場になっており、発令所に主体コアがある構造だ。発令所に潜望鏡はない。
もちろん必要ないからだ。
 発令所にある直径二メートルの柱の前に立つエレミア。柱の真ん中のドアが両開きに開き、天井からクレーンが
五つも下がる。一つ目のクレーンは金属の背骨が下がりそれが背中に接続され、四つのクレーンが両手足を外して
一つ目のクレーンが柱の内部にある金属殻に格納され、代わりにコードやプラグが両手足だった場所に接続され、
接続装置が後頭部に接続された。
 鋭い痛みに顔が歪むエレミア。
 柱のドアが閉まり、柱のテレビモニターにリアルな合成画像のエレミアの顔が現われる。
 苦しげな呼吸音が聞こえ、金属が軋む音が響き、艦内の電気がついた。
 「驚かしてすまない。名前はエレミアでいい。俺はあの会社の契約書にサインしていまだに後悔している」
 画面の顔はうつむいた。
 「後悔しているのね」
 氷見が聞いた。
 「あの時、まともに考えて刑務所の刑期を終えて更生してシャバに出たらまじめに働くべきだったんだ」
 表情が曇るエレミア。
 「起こった事はしょうがないのよ」
 ジェルが言い聞かせる。
 「俺は刑務所からあいつらの会社に行った。そしたらラボにターミネーターに出てくるような金属骨格やサイボーグ、
ロボットが一〇〇体あった。そこには武器を搭載したドローンが飛行実験をしていた。手術室からの記憶がない。
気づいたらこの船の中でプログラムが仕込まれていてロシア軍を裏切るように設定されていた。記憶はそこから
覚えていない。覚えているのはバージルとデーターリンクした時にプログラムが消去された。大戦末期で初めて
目覚めたんだ」
 遠い目をするエレミア。
 「エレミア。迷宮機関を倒したら何がしたいの?」
 いつになく真剣な顔の氷見。
 「まともに働く。ただ俺みたいなのを雇ってくれる所があればいい。なければ隠れて暮らす」
 エレミア答えた。
 「それならスクードに来い。私達が君を雇う事にする」
 はっきりと言うエリオット。
 うなづくエレミア。
 「決まりね」
 氷見は笑みを浮かべる。
 「電波妨害、ドック開閉装置解除した」
 エレミアは報告した
 「艦内のハッチを開けた。地中海で合流しよう」
 エレミアがうなづく。
 「わかった」
 ホランドは手招きする。彼らは長い廊下を出て甲板に出て岸壁に降りた。
 ドックを出て港湾施設と出て外海に出るイスベル号。
 「我々も追うぞ」
 ホランドは言った。
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