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第壱・伍部
ep14 ?
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斑鳩シンリョウジョ
アズマが死んでから1ヶ月余りが経過した。
あれからあのうるさい警察のやつも来ないところを見ると特に何も起きていないらしい。
立里アズマがばら撒いていたであろう薬物はどうなっているんだろうか?目立った能力の被害が無さそうなところを見ると警察が粛々と対応しているのだろうか?そういう部署があって対処しているのかもしれない。それくらい今までと変わらずの平和だった。
症状が症状ゆえに病気とは認知されていないのか、それとも発症する比率が極端に少ないのか大事にはなっていない。
本日の症状は水、電気、~この症状なら対して難しいものではない。
この症状・能力について纏めたメモを眺めていた。
この症状はそもそもなんなのだろう?自分の能力である程度の対処が可能なので主に脳に影響を及ぼしていることは間違いないだろう。
配られたカードで勝負するしかないという言葉がある。人間は常に無い物ねだりだ。この症状は自分にとっての逆転の切り札を手に入れることができるギフトなのかもしれない。
これまでにもさまざまな漫画、映画、ドラマなどで特殊能力を扱う作品があった。それを思い出せばこの症状はかなり基礎的なものに感じる。
電気、水分、時間感覚、治癒能力、声による共鳴振動、人体に元から備わっている要素を拡大したような、大昔ならびっくり人間にカウントされたような症状だ。
そしてそれとは別にアズマの薬物による能力の開花。こっちは火、時間停止、変身(あれは擬態といった方が近いか?)など人体に備わっていない要素、人体で再現不可能な要素、アズマの薬物は原人が手にした炎なのだろうか?
やめよう。一介の医療従事者の端くれである私が考えても仕方のないことだ。そんなことを考えながら本日の診察を全て終えた。そろそろ帯電症状用の商品を発注しなければいけない。
「大和くーんこれ発注しといてーってあれ?」
「先輩なら今日休みっすよ」
「あれ、そうだったっけ、あーじゃあえーっと・・・」
「鶴野です」
「あぁ鶴野くん、なんか鶴野くんって感じじゃないよね、よく言われない?」
「珍しい苗字の人に言われても」
「あれ、鶴野くんって発注の作業とかやったことあったっけ?」
「いやーないっすね」
「んじゃ今から教えるね」
私は鶴野くんに発注の仕方を一通り教えた。といっても専用のフォームに商品と必要数を入力すればいいだけなので特別難しいという訳でもないのだが。
「いかるさんっていつからこの仕事やってるんです??」
「ここ3年くらいかなー」
「じゃあ3年前からこういう症状の人たちがいたんですか?」
「いなかったわけじゃないけどゼロじゃなかったってくらいかな」
「いかるさんはいつからその能力を使えるように?」
「発症自体は5年前、そこからリハビリ1年技術とするまで1年」
「リハビリ・・・?」
「私の症状は帯電だったからね。最初の頃は身体の中で電気が破裂しているような感覚で痛いなんてもんじゃなかった」
「・・・・・大変っしたね」
「それから技術として扱えるようになるに連れて身体の痛みがおさまっていったんだ」
「へぇー・・・なんでこの仕事をやろうと?」
「たまたま私が選ばれたってだけだよ」
「どーいうことっすか??」
「私のリハビリの時点でこの症状のデータがそこそこ溜まったみたいでね、同時期に特殊な症状を発症した患者がいて私のデータを元に照らし合わせたら同一の症状だった。
私自身大学での専攻が医療の分野だったからその流れで私が研究を引き継いだ形になったんだ」
「へぇ、ちなみにいかるさんを診ていた方は今どうしているんです?」
「さぁ?」なんか取り調べを受けているようだ、気分が薄ら悪い。「さ、もうそろ時間だ。今日はもういいから帰りなさい」
「いかるさん、この後ご飯行きません?」
「えっ?なんで?」「えっ?」
私の家はここだ。なぜわざわざ外に出なくちゃいけないんだ。バイトが意味のわからない誘いをして来た時、玄関のチャイムが鳴った。救いの鐘の音だ。
あと20分ほどは診療時間内ではあるが今日の予約分は終えたはずだ。お届け物だろうか。
「はい」
外には一人、かわいらしい女性が立っていた。
「えと・・・何か?」
「あの、こちらで脳をいじって貰えると聞きまして・・・」
随分と失礼な言説が流布されているようだ。誰だそんなこと言ってる奴は。
「えぇーっとぉ・・・」
「おすすめの心療所を聞いたらここを紹介されて・・・」
あぁなるほど。シンリョウジョとカタカナ表記にしたのがいけなかったようだ。あながち間違いというわけでもないが。
「あぁー・・・まぁ・・・それはそうなんですが・・・まぁいいでしょう。とりあえずお入りください」
私のこの格好を見て表情を変えないところをみると余程の余裕が無いのかもしれない。話を聞くだけ訊いてみようと思い彼女を招き入れた。
「え、いかるさんいいんですか?」
「特例だ」今や特例のバーゲンセールだ。「で、脳をいじってもらいたいと言うのは」
「はい、私は接客業をやってまして」
あぁ、気に病みやすい職業だ。接客業をやっている友人から頭のおかしい人間図鑑見せてもらったことがある。まぁ私も接客業といえば接客業ではあるが幸いそういう奴は事前にふるいに掛けられている。
「あぁ、大変そうですね」
「はい・・・最初のうちは良かったんですが仕事をしていくうちに心が荒んできて」
おすすめの心療内科を教えて帰そう。
「段々人を見るだけでもムカついてというか・・・イライラして来ちゃって」
うん・・・うん?
「これじゃいつ発狂してもおかしくないなって思って・・・でも・・・なんか・・・人間が可愛い動物とかだったら心安らかに接客できると思うんです」
「は・・・はぁ・・・」
「お願いします。目に映る人間の全てを可愛い動物とかぬいぐるみに見えるようにしてくれませんか?」
なんてことだ。変な人間図鑑に新たな1ページが刻まれてしまった。
「えーーーーーーーーーっと・・・な、なんか昔そういうアニメありましたよね」
返答に困った私はあまりにも適当な返しをしてしまった。これで私も珍妙図鑑の仲間入りだ。
「あー!見てました!その影響かなぁ!」
限界近いのかなこの人。
「えぇっと・・・まずその・・・うちはちょっと特殊な症状を扱うものでして・・・」
説明するのが厄介だ。理由をつけて追い返そう。
「当シンリョウジョを受診するには他の診療所からの紹介状が必要で」
「あ、紹介状あります」
「・・・お預かりします」
あとで苦情入れよう。彼女の名前は辺見 杏というようだ。
「せっかく来ていただいたところ申し訳ないのですが・・・こちらで解決できるかというとわからないので他の」
「他のところにも行きました!でもっ・・・あなたの我慢が足りないだとか言われてっ・・・自分でたらい回しになってっ・・・もう頼るとこがないんですっ!」
あぁそうか、この人はかなり疲れ切っているのかもしれない。心療内科は一発で当たりを引くことはかなりの幸運だと聞いたことがある。流石に追い返すのは可哀想な気がしてきた。
とはいえ・・・うぅん・・・?そういう処置をしてしまっていいのか?というかできるのかそんなことが?しかもここでやる処置は“取り除く”処置であって状態を付与するものではない。一歩間違えなくても余裕で医療ミスをしてしまいそうだ。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。ここは症状の治療・軽減を行う事を方針としています。
状態を正常に近づける事はできますが悪化させるような処置は出来かねます。普通の心療内科を受診することをおすすめします」
「そんな・・・さっきも言ったじゃないですか!ダメだったって」
うーむ、なかなか引き下がってそうにくれない。
「では、職を変えるというのは・・・」
「人混みを歩いていてもギリギリなんです」
「休職するのはどうでしょう?適応障害などであれば手当も出ると思いますが」
「回復してもまたダメになる・・・・・」
全部ちゃんと話した上で交渉しよう。
「どうしてもという事であれば・・・当院は一切の責任を負いかねますので書類へのサインをお願いします」
「えっ・・・」
「それはそうです。極めて成功する確率の低い処置をするのです。私としても初めての試みになります。脳を意図的にラリってる状態にするようなものなので出来ればしたくはないのですが・・・」
「・・・・・・あの」
「なんでしょう」
「もし成功したとして私は落ち着けるんでしょうか」
「それはどうにも・・・気の持ちようかと」
「えっと・・・もし上手くいかなかったとして元に戻す事はできますか?」
「・・・・元よりここでの処置は異常の軽減であって完治を目指すものではないのです。とりあえず今からやってみますが・・・解除できそうな程度で留めておきますね」
「お願いします!」
やれやれだ。なにがなんでもという強い意志を感じる。治したいというより早く問題を片付けたいのだろう。
ボイスレコーダーを回しておいてよかった。これなら訴えられてもなんとか出来るだろう。
「わかりました。どうなっても知りませんからね」
処置を開始してから15分は越えただろうか、これほど集中したのは初めてだ。私の能力まで進化してしまうかもしれない。
症状を能力に進化させた時のことを思い出す。
発症した頃は症状を制御出来ずに身体がボロボロになっていた。訓練で帯電を自発的に発散出来るようになってから試行錯誤の末に今の能力に行き着いた。スキャンなどは力の使い方を探っているうちにいつのまにか身についていた。
今思えば、どこかでなにかきっかけがあったのだろう。脳に電気を流すことでできることは限られている。記憶の消去までは出来たとしてもスキャンは明らかに別の機能だ。
そんなことを考えながら患者の脳をまさぐっていると、視覚情報を処理する神経を掴んだ。ここに少しバグを起こせば・・・
「目を開けてください」
処置を終えた。彼女の目には世界がどう映るだろうか。
「いかがでしょうか?」
「・・・・わぁ」
すっごい見惚れられている・・・一体何が見えているんだろう・・・
「ありがとうございますぅ・・・!」
「そう、ですか。ならよかったです、お代は結構ですので」
「えっ!?いいんですか!?なんて優しい・・・」
「え、えぇ、まぁ」軽く人体実験したのだ。むしろこちらが金を払った方がいいかもしれないくらいだ。「もし支障がありましたらまたおいでください。元に戻しますので」
「いいえ結構ですもったいない!」
もったいない?本当に何が見えているんだろうか
「ありがとうございましたぁ!」
なんか変なところをいじってしまったかもしれない。彼女は躁状態になったんじゃないだろうか。
私の能力がまた一つ進化したと思って良しとしよう。一件落着。
「あのー」
忘れていた。バイトくんが残っていたではないか。
「あぁ、もう帰っていいよ」
「この後ご飯いきま」
「帰れ」
バイトを追い出したので夕飯にしよう。そのあとは自分の能力を探ってみようか。
夕食後、結局セールでダウンロードしたゲームに没頭してしまった。
アズマが死んでから1ヶ月余りが経過した。
あれからあのうるさい警察のやつも来ないところを見ると特に何も起きていないらしい。
立里アズマがばら撒いていたであろう薬物はどうなっているんだろうか?目立った能力の被害が無さそうなところを見ると警察が粛々と対応しているのだろうか?そういう部署があって対処しているのかもしれない。それくらい今までと変わらずの平和だった。
症状が症状ゆえに病気とは認知されていないのか、それとも発症する比率が極端に少ないのか大事にはなっていない。
本日の症状は水、電気、~この症状なら対して難しいものではない。
この症状・能力について纏めたメモを眺めていた。
この症状はそもそもなんなのだろう?自分の能力である程度の対処が可能なので主に脳に影響を及ぼしていることは間違いないだろう。
配られたカードで勝負するしかないという言葉がある。人間は常に無い物ねだりだ。この症状は自分にとっての逆転の切り札を手に入れることができるギフトなのかもしれない。
これまでにもさまざまな漫画、映画、ドラマなどで特殊能力を扱う作品があった。それを思い出せばこの症状はかなり基礎的なものに感じる。
電気、水分、時間感覚、治癒能力、声による共鳴振動、人体に元から備わっている要素を拡大したような、大昔ならびっくり人間にカウントされたような症状だ。
そしてそれとは別にアズマの薬物による能力の開花。こっちは火、時間停止、変身(あれは擬態といった方が近いか?)など人体に備わっていない要素、人体で再現不可能な要素、アズマの薬物は原人が手にした炎なのだろうか?
やめよう。一介の医療従事者の端くれである私が考えても仕方のないことだ。そんなことを考えながら本日の診察を全て終えた。そろそろ帯電症状用の商品を発注しなければいけない。
「大和くーんこれ発注しといてーってあれ?」
「先輩なら今日休みっすよ」
「あれ、そうだったっけ、あーじゃあえーっと・・・」
「鶴野です」
「あぁ鶴野くん、なんか鶴野くんって感じじゃないよね、よく言われない?」
「珍しい苗字の人に言われても」
「あれ、鶴野くんって発注の作業とかやったことあったっけ?」
「いやーないっすね」
「んじゃ今から教えるね」
私は鶴野くんに発注の仕方を一通り教えた。といっても専用のフォームに商品と必要数を入力すればいいだけなので特別難しいという訳でもないのだが。
「いかるさんっていつからこの仕事やってるんです??」
「ここ3年くらいかなー」
「じゃあ3年前からこういう症状の人たちがいたんですか?」
「いなかったわけじゃないけどゼロじゃなかったってくらいかな」
「いかるさんはいつからその能力を使えるように?」
「発症自体は5年前、そこからリハビリ1年技術とするまで1年」
「リハビリ・・・?」
「私の症状は帯電だったからね。最初の頃は身体の中で電気が破裂しているような感覚で痛いなんてもんじゃなかった」
「・・・・・大変っしたね」
「それから技術として扱えるようになるに連れて身体の痛みがおさまっていったんだ」
「へぇー・・・なんでこの仕事をやろうと?」
「たまたま私が選ばれたってだけだよ」
「どーいうことっすか??」
「私のリハビリの時点でこの症状のデータがそこそこ溜まったみたいでね、同時期に特殊な症状を発症した患者がいて私のデータを元に照らし合わせたら同一の症状だった。
私自身大学での専攻が医療の分野だったからその流れで私が研究を引き継いだ形になったんだ」
「へぇ、ちなみにいかるさんを診ていた方は今どうしているんです?」
「さぁ?」なんか取り調べを受けているようだ、気分が薄ら悪い。「さ、もうそろ時間だ。今日はもういいから帰りなさい」
「いかるさん、この後ご飯行きません?」
「えっ?なんで?」「えっ?」
私の家はここだ。なぜわざわざ外に出なくちゃいけないんだ。バイトが意味のわからない誘いをして来た時、玄関のチャイムが鳴った。救いの鐘の音だ。
あと20分ほどは診療時間内ではあるが今日の予約分は終えたはずだ。お届け物だろうか。
「はい」
外には一人、かわいらしい女性が立っていた。
「えと・・・何か?」
「あの、こちらで脳をいじって貰えると聞きまして・・・」
随分と失礼な言説が流布されているようだ。誰だそんなこと言ってる奴は。
「えぇーっとぉ・・・」
「おすすめの心療所を聞いたらここを紹介されて・・・」
あぁなるほど。シンリョウジョとカタカナ表記にしたのがいけなかったようだ。あながち間違いというわけでもないが。
「あぁー・・・まぁ・・・それはそうなんですが・・・まぁいいでしょう。とりあえずお入りください」
私のこの格好を見て表情を変えないところをみると余程の余裕が無いのかもしれない。話を聞くだけ訊いてみようと思い彼女を招き入れた。
「え、いかるさんいいんですか?」
「特例だ」今や特例のバーゲンセールだ。「で、脳をいじってもらいたいと言うのは」
「はい、私は接客業をやってまして」
あぁ、気に病みやすい職業だ。接客業をやっている友人から頭のおかしい人間図鑑見せてもらったことがある。まぁ私も接客業といえば接客業ではあるが幸いそういう奴は事前にふるいに掛けられている。
「あぁ、大変そうですね」
「はい・・・最初のうちは良かったんですが仕事をしていくうちに心が荒んできて」
おすすめの心療内科を教えて帰そう。
「段々人を見るだけでもムカついてというか・・・イライラして来ちゃって」
うん・・・うん?
「これじゃいつ発狂してもおかしくないなって思って・・・でも・・・なんか・・・人間が可愛い動物とかだったら心安らかに接客できると思うんです」
「は・・・はぁ・・・」
「お願いします。目に映る人間の全てを可愛い動物とかぬいぐるみに見えるようにしてくれませんか?」
なんてことだ。変な人間図鑑に新たな1ページが刻まれてしまった。
「えーーーーーーーーーっと・・・な、なんか昔そういうアニメありましたよね」
返答に困った私はあまりにも適当な返しをしてしまった。これで私も珍妙図鑑の仲間入りだ。
「あー!見てました!その影響かなぁ!」
限界近いのかなこの人。
「えぇっと・・・まずその・・・うちはちょっと特殊な症状を扱うものでして・・・」
説明するのが厄介だ。理由をつけて追い返そう。
「当シンリョウジョを受診するには他の診療所からの紹介状が必要で」
「あ、紹介状あります」
「・・・お預かりします」
あとで苦情入れよう。彼女の名前は辺見 杏というようだ。
「せっかく来ていただいたところ申し訳ないのですが・・・こちらで解決できるかというとわからないので他の」
「他のところにも行きました!でもっ・・・あなたの我慢が足りないだとか言われてっ・・・自分でたらい回しになってっ・・・もう頼るとこがないんですっ!」
あぁそうか、この人はかなり疲れ切っているのかもしれない。心療内科は一発で当たりを引くことはかなりの幸運だと聞いたことがある。流石に追い返すのは可哀想な気がしてきた。
とはいえ・・・うぅん・・・?そういう処置をしてしまっていいのか?というかできるのかそんなことが?しかもここでやる処置は“取り除く”処置であって状態を付与するものではない。一歩間違えなくても余裕で医療ミスをしてしまいそうだ。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。ここは症状の治療・軽減を行う事を方針としています。
状態を正常に近づける事はできますが悪化させるような処置は出来かねます。普通の心療内科を受診することをおすすめします」
「そんな・・・さっきも言ったじゃないですか!ダメだったって」
うーむ、なかなか引き下がってそうにくれない。
「では、職を変えるというのは・・・」
「人混みを歩いていてもギリギリなんです」
「休職するのはどうでしょう?適応障害などであれば手当も出ると思いますが」
「回復してもまたダメになる・・・・・」
全部ちゃんと話した上で交渉しよう。
「どうしてもという事であれば・・・当院は一切の責任を負いかねますので書類へのサインをお願いします」
「えっ・・・」
「それはそうです。極めて成功する確率の低い処置をするのです。私としても初めての試みになります。脳を意図的にラリってる状態にするようなものなので出来ればしたくはないのですが・・・」
「・・・・・・あの」
「なんでしょう」
「もし成功したとして私は落ち着けるんでしょうか」
「それはどうにも・・・気の持ちようかと」
「えっと・・・もし上手くいかなかったとして元に戻す事はできますか?」
「・・・・元よりここでの処置は異常の軽減であって完治を目指すものではないのです。とりあえず今からやってみますが・・・解除できそうな程度で留めておきますね」
「お願いします!」
やれやれだ。なにがなんでもという強い意志を感じる。治したいというより早く問題を片付けたいのだろう。
ボイスレコーダーを回しておいてよかった。これなら訴えられてもなんとか出来るだろう。
「わかりました。どうなっても知りませんからね」
処置を開始してから15分は越えただろうか、これほど集中したのは初めてだ。私の能力まで進化してしまうかもしれない。
症状を能力に進化させた時のことを思い出す。
発症した頃は症状を制御出来ずに身体がボロボロになっていた。訓練で帯電を自発的に発散出来るようになってから試行錯誤の末に今の能力に行き着いた。スキャンなどは力の使い方を探っているうちにいつのまにか身についていた。
今思えば、どこかでなにかきっかけがあったのだろう。脳に電気を流すことでできることは限られている。記憶の消去までは出来たとしてもスキャンは明らかに別の機能だ。
そんなことを考えながら患者の脳をまさぐっていると、視覚情報を処理する神経を掴んだ。ここに少しバグを起こせば・・・
「目を開けてください」
処置を終えた。彼女の目には世界がどう映るだろうか。
「いかがでしょうか?」
「・・・・わぁ」
すっごい見惚れられている・・・一体何が見えているんだろう・・・
「ありがとうございますぅ・・・!」
「そう、ですか。ならよかったです、お代は結構ですので」
「えっ!?いいんですか!?なんて優しい・・・」
「え、えぇ、まぁ」軽く人体実験したのだ。むしろこちらが金を払った方がいいかもしれないくらいだ。「もし支障がありましたらまたおいでください。元に戻しますので」
「いいえ結構ですもったいない!」
もったいない?本当に何が見えているんだろうか
「ありがとうございましたぁ!」
なんか変なところをいじってしまったかもしれない。彼女は躁状態になったんじゃないだろうか。
私の能力がまた一つ進化したと思って良しとしよう。一件落着。
「あのー」
忘れていた。バイトくんが残っていたではないか。
「あぁ、もう帰っていいよ」
「この後ご飯いきま」
「帰れ」
バイトを追い出したので夕飯にしよう。そのあとは自分の能力を探ってみようか。
夕食後、結局セールでダウンロードしたゲームに没頭してしまった。
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