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ラストホリデイ
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最期の旅の代理店「ラスト・ホリデイ」を営む洋祐。医療が発展して死ねない今、理想の「最期の旅」を提供する。ある日舞い込んだ依頼は、エリート会社員の椎名から。住む世界の違う同志、時がたつにつれて互いに共感する。死にきれない椎名を追う洋祐。岬で向き合った二人は…。
<プロローグ>
「おや、お帰りですか」
到着ターミナルにつけた個人タクシーはゆったりと走り出す。白髪の運転手が乗せたのは、数日前と同じ客。
浜崎橋の渋滞に差し掛かるころ、客は思い出したようにスマートフォンを取り出した。
<洋祐>
今は亡きボスの後を継ぎ、いわゆる旅行代理店を営んで5年。これでも前職は会社員。都心にそびえる自社ビル。誇らしさはあったが、半年ももたずに辞めた。そして酒場で会った得体のしれない男とウマが合い、この仕事を手伝いはじめた。
はじめた頃、どこか立ち入れないベールを感じた。ここで扱う旅行には帰りの道程がない。
しばらく顔を見せないボス。そんな中、相次ぐ失踪事件をテレビで特集。そこで報道される人物や行先が記憶とリンクする。気になってボスのPCのフォルダを探ると、テレビが伝える足跡と、これまでに手配した航路や日程が繋がった。
フォルダ名は「ラスト・ホリデイ」。この仕事は最期の旅を提供する代理店だった。怪しい仕事。安定した会社員に戻ることも考えたが、不在中のボスのPCには次々にメールが入る。対応するうちに跡を継ぐ事に。もう引き返せない。
<時代が求める仕事>
いたずらに伸びる寿命、崩壊した年金制度、人手不足の介護職、長寿化に成功したこの国は、高齢化にも拍車をかけた。
将来に怯えながら稼ぎを蓄える。そこに手を差し伸べるのがこの仕事。
<椎名>
会社員の作法。
その一、地雷を踏まず
その二、面倒は業者に託せ
その三、利益と手柄は俺のもの
大きなものに巻かれ、小さなものを巻き込む。このところの働き方改革への対応は、面倒を下請けに押し付けた結果、幸せの格差を加速させた。
息子はとにかく可愛かった。こんなに小さく愛おしい生命に頼られるなら、できることは何でもしてやる。それが不条理と戦うモチベーション。子供の教育を考え、品の良い人の集まるタワーマンションに住んでいる。
転落のきっかけは押し付けられた案件。その先進感とは裏腹に、実現には高いハードルがある。
断るすべもなく奔走するうちに心は淀む。案の定クライアントと揉め、作業はおろか会社にも居場所を失い、都下の関連会社の倉庫係を拝命する。
自分ひとりなら構わないが家族が心配。予想通り豹変する妻。結局、都下での単身赴任が決まった。いっそ自由な独り者に戻りたい。積み重ねたキャリアとその成果を振り返り、投げ出したくなることもある。
寂しい単身生活。スマホをいじると、気になる言葉に引っかかる。
『ラスト・ホリデイ』。ヒマつぶしに入力すると、自動返信でコメントが返ってくる。
「旅・南半球」
→「ご要望をお聞かせください」
「家庭・仕事・旅立ち」
→「ご希望の行先と日程、ご予算とエンディングをどうぞ」。
「バイロンベイ・3日間・三百万」
入力しながら、こんな商売をする輩に自分と似た負け犬の匂いを感じる。
<洋祐>
いつものバーでくだらない仲間たちと飲みながらスマホを見ると、新しい仕事が入った模様。「三百万」行先はバイロンベイ。さっそく現地に宿と銃の手配を頼む。手配を済ませ、今回のクライアント「椎名」に送る。
クライアントは同い年の会社員。そこそこのエリートだが挫折したか?どこかに親近感を感じる。
<椎名>
怪しいサイト「ラスト・ホリデイ」からの返信を受け、マンションは解約。
出発の朝、通りかかった個人タクシーで羽田へと向かう。
「行先は?ゴールドコーストですか。身軽でいらっしゃいますね」。
白髪のドライバーは、低いがよく通る声で語りかけた。
ゴールドコースト空港に着き、預け荷物を待つ。ブランド物の旅行バックは他の乗客と被ることが多いので、ネームタグで確認する。
レンタカーを借りて南に下る。車窓を開け、風を受け、走る。好きな曲を流す、大声で歌う。自分にこんな元気があることが意外だった。
通りすがりに風情の良い住宅街を見つけ、寄り道してみる。無邪気な歓声に導かれるままに、庭のトランポリンで遊ぶ子供たちに見入ると、母親らしい女性が、笑顔でこちらに手を振った。
フィルターを1枚外したような、ぬける青空を見上げると、家族旅行の思い出が蘇る。歓声をあげる息子。それを見る俺と妻。当時からぎくしゃくすることはあったが、反射する光に顔を見合わせた記憶。
「今なら家族とやり直せる」。そんな感傷にケリをつけ、再びエンジンをかける。やがて目的のヴィラに到着。テーブルに届けられた箱には銃が。
<ラストホリデイ>
決行の朝は爽やかな陽気だった。気分も良く、旅立つ理由は見当たらない。こんな日々なら、家族で笑って過ごせるのに。
するとスマートフォンに着信が。息子から。
意志とは裏腹に踊る心。それをどうにか抑えて電話を保留する。
コバルトの空の下、心を覆った重い闇が晴れていくのを感じた。そして家族のことも。ヴィラに戻るとオーバーステイを申し込む。スタッフは屈託のない笑顔で歓迎してくれた。
<洋祐>
決行日から三日が経つが、GPSによると客は陸地にいて、わずかに移動している。死に切れてない。経験上、決行日を超えるとこちらが仕留めねばならない。この商売が表に出るとまずい。現地に行くしかない。
銃を手配し空港へと急ぐ。個人タクシーに乗り込むと「おや、またご出発ですか?」と白髪の運転手が渋みの利いた声で訪ねてくる。「いえ、人違いでは。」空港について支払いを済ませ、チェックインする。
ゴールドコースト空港に着きバイロンへと急ぐ。個人情報の観点から客のフルネームはおろか顔も知らない。プロフィールにある年齢と性別、職業はわかる。あとはGPSを頼りに接近して奴に声をかけ、本人ならば打ち殺す。奴は岬の灯台の近くにいる。銃に弾を装填し、岬に向かう。
<対面>
太陽が沈む頃、海風に佇む椎名。歩み寄る洋祐。
満月が生み出す2つの影は左右対称。それぞれが銃を持っている。
「そういうことか」
「らしいな」
椎名が差し出したタバコを受けとる洋祐。どこかで別の道を進んだ「俺」との再会。
「どこでこうなったんだろうな」
「どうだかね」
満月の夜に響く一発の銃声。
その響きは波音に重なり、そして沖へと消えていった。
<エピローグ>
空港に着くと、いつもの整然とした風景。
「おや、お帰りですか。」
到着ターミナルにつけた個人タクシーは、ウインカーをだすとゆったりと走り出す。白髪の運転手に身を任せ、スマートフォンを取り出した男は一言、「いま、帰るから」。
久しぶりの我が家が見えてきた。タワーマンションのエントランスに向かうと、ネームプレート付きの旅行バックを持った運転手の声が。
「お忘れ物ですよ、椎名洋祐さん」。
<プロローグ>
「おや、お帰りですか」
到着ターミナルにつけた個人タクシーはゆったりと走り出す。白髪の運転手が乗せたのは、数日前と同じ客。
浜崎橋の渋滞に差し掛かるころ、客は思い出したようにスマートフォンを取り出した。
<洋祐>
今は亡きボスの後を継ぎ、いわゆる旅行代理店を営んで5年。これでも前職は会社員。都心にそびえる自社ビル。誇らしさはあったが、半年ももたずに辞めた。そして酒場で会った得体のしれない男とウマが合い、この仕事を手伝いはじめた。
はじめた頃、どこか立ち入れないベールを感じた。ここで扱う旅行には帰りの道程がない。
しばらく顔を見せないボス。そんな中、相次ぐ失踪事件をテレビで特集。そこで報道される人物や行先が記憶とリンクする。気になってボスのPCのフォルダを探ると、テレビが伝える足跡と、これまでに手配した航路や日程が繋がった。
フォルダ名は「ラスト・ホリデイ」。この仕事は最期の旅を提供する代理店だった。怪しい仕事。安定した会社員に戻ることも考えたが、不在中のボスのPCには次々にメールが入る。対応するうちに跡を継ぐ事に。もう引き返せない。
<時代が求める仕事>
いたずらに伸びる寿命、崩壊した年金制度、人手不足の介護職、長寿化に成功したこの国は、高齢化にも拍車をかけた。
将来に怯えながら稼ぎを蓄える。そこに手を差し伸べるのがこの仕事。
<椎名>
会社員の作法。
その一、地雷を踏まず
その二、面倒は業者に託せ
その三、利益と手柄は俺のもの
大きなものに巻かれ、小さなものを巻き込む。このところの働き方改革への対応は、面倒を下請けに押し付けた結果、幸せの格差を加速させた。
息子はとにかく可愛かった。こんなに小さく愛おしい生命に頼られるなら、できることは何でもしてやる。それが不条理と戦うモチベーション。子供の教育を考え、品の良い人の集まるタワーマンションに住んでいる。
転落のきっかけは押し付けられた案件。その先進感とは裏腹に、実現には高いハードルがある。
断るすべもなく奔走するうちに心は淀む。案の定クライアントと揉め、作業はおろか会社にも居場所を失い、都下の関連会社の倉庫係を拝命する。
自分ひとりなら構わないが家族が心配。予想通り豹変する妻。結局、都下での単身赴任が決まった。いっそ自由な独り者に戻りたい。積み重ねたキャリアとその成果を振り返り、投げ出したくなることもある。
寂しい単身生活。スマホをいじると、気になる言葉に引っかかる。
『ラスト・ホリデイ』。ヒマつぶしに入力すると、自動返信でコメントが返ってくる。
「旅・南半球」
→「ご要望をお聞かせください」
「家庭・仕事・旅立ち」
→「ご希望の行先と日程、ご予算とエンディングをどうぞ」。
「バイロンベイ・3日間・三百万」
入力しながら、こんな商売をする輩に自分と似た負け犬の匂いを感じる。
<洋祐>
いつものバーでくだらない仲間たちと飲みながらスマホを見ると、新しい仕事が入った模様。「三百万」行先はバイロンベイ。さっそく現地に宿と銃の手配を頼む。手配を済ませ、今回のクライアント「椎名」に送る。
クライアントは同い年の会社員。そこそこのエリートだが挫折したか?どこかに親近感を感じる。
<椎名>
怪しいサイト「ラスト・ホリデイ」からの返信を受け、マンションは解約。
出発の朝、通りかかった個人タクシーで羽田へと向かう。
「行先は?ゴールドコーストですか。身軽でいらっしゃいますね」。
白髪のドライバーは、低いがよく通る声で語りかけた。
ゴールドコースト空港に着き、預け荷物を待つ。ブランド物の旅行バックは他の乗客と被ることが多いので、ネームタグで確認する。
レンタカーを借りて南に下る。車窓を開け、風を受け、走る。好きな曲を流す、大声で歌う。自分にこんな元気があることが意外だった。
通りすがりに風情の良い住宅街を見つけ、寄り道してみる。無邪気な歓声に導かれるままに、庭のトランポリンで遊ぶ子供たちに見入ると、母親らしい女性が、笑顔でこちらに手を振った。
フィルターを1枚外したような、ぬける青空を見上げると、家族旅行の思い出が蘇る。歓声をあげる息子。それを見る俺と妻。当時からぎくしゃくすることはあったが、反射する光に顔を見合わせた記憶。
「今なら家族とやり直せる」。そんな感傷にケリをつけ、再びエンジンをかける。やがて目的のヴィラに到着。テーブルに届けられた箱には銃が。
<ラストホリデイ>
決行の朝は爽やかな陽気だった。気分も良く、旅立つ理由は見当たらない。こんな日々なら、家族で笑って過ごせるのに。
するとスマートフォンに着信が。息子から。
意志とは裏腹に踊る心。それをどうにか抑えて電話を保留する。
コバルトの空の下、心を覆った重い闇が晴れていくのを感じた。そして家族のことも。ヴィラに戻るとオーバーステイを申し込む。スタッフは屈託のない笑顔で歓迎してくれた。
<洋祐>
決行日から三日が経つが、GPSによると客は陸地にいて、わずかに移動している。死に切れてない。経験上、決行日を超えるとこちらが仕留めねばならない。この商売が表に出るとまずい。現地に行くしかない。
銃を手配し空港へと急ぐ。個人タクシーに乗り込むと「おや、またご出発ですか?」と白髪の運転手が渋みの利いた声で訪ねてくる。「いえ、人違いでは。」空港について支払いを済ませ、チェックインする。
ゴールドコースト空港に着きバイロンへと急ぐ。個人情報の観点から客のフルネームはおろか顔も知らない。プロフィールにある年齢と性別、職業はわかる。あとはGPSを頼りに接近して奴に声をかけ、本人ならば打ち殺す。奴は岬の灯台の近くにいる。銃に弾を装填し、岬に向かう。
<対面>
太陽が沈む頃、海風に佇む椎名。歩み寄る洋祐。
満月が生み出す2つの影は左右対称。それぞれが銃を持っている。
「そういうことか」
「らしいな」
椎名が差し出したタバコを受けとる洋祐。どこかで別の道を進んだ「俺」との再会。
「どこでこうなったんだろうな」
「どうだかね」
満月の夜に響く一発の銃声。
その響きは波音に重なり、そして沖へと消えていった。
<エピローグ>
空港に着くと、いつもの整然とした風景。
「おや、お帰りですか。」
到着ターミナルにつけた個人タクシーは、ウインカーをだすとゆったりと走り出す。白髪の運転手に身を任せ、スマートフォンを取り出した男は一言、「いま、帰るから」。
久しぶりの我が家が見えてきた。タワーマンションのエントランスに向かうと、ネームプレート付きの旅行バックを持った運転手の声が。
「お忘れ物ですよ、椎名洋祐さん」。
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