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後編⑤
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父がそう言うと、となりで静かに話を聞いていた兄が僕の頭を撫でた。
「大丈夫。もし朝人が傷つくようなことがあったら、俺が彼を懲らしめるよ」
それはやめてほしいな、なんて思いながらも、兄や父の優しさにじんわりと心があたたかくなる。
突然ヒートになって知らない男に襲われかけたとき、僕はこの家に生まれたことを悔いた。
どうして、そんなことを思ってしまったんだろう。家族みんな、僕を大切に思って愛してくれている。これ以上を求めるなんて贅沢すぎだ。
それに、僕がこの家にオメガとして生まれていなかったらきっと、葉月さんとも出会えていなかっただろう。そうしたら僕は、誰かに恋をすることなく一生を終えていたかもしれない。
「……うん」
葉月さんと出会って彼と過ごした期間は長くはなかったけれど、生まれてから一番充実した日々を過ごしていたと思う。彼と出会ったことは僕にとって、本当に幸福なことだった。
葉月さんが好きだ。だから、向き合わないといけない。どんな結果になろうと、彼と過ごした日々を悪い思い出にしないためにも。辛い思いをする結果になったとしてもそれは、父の言うように、その時どうするか考えればいい。
「みんな、ありがとう」
僕がそう言って微笑むと、母と姉が「応援してるからね!」と興奮した面持ちで僕の手を握った。この二人のテンション、いつも少し変なんだよな。
それから自室に戻って、すぐに葉月さんに先日のお礼を直接したい旨のメッセージを送った。送ってから、もしかしたら断られるかもしれないと不安に思ったが、すぐに問題ないと返信が来て杞憂に終わった。
わざわざ僕の体調を心配するメッセージもくれて、その言葉が本物かまだ判断はつかないけど、でも、単純な僕の心は嬉しさに震えた。
翌日。
仕事が落ち着いたらしい葉月さんと早々に会えることとなり、彼の仕事終わりの時間あわせで会社の最寄り駅前で落ち合うため、僕はお詫びの品を抱えてベンチに腰を下ろして待っていた。
先ほど仕事が終えてこちらに向かっているとメッセージがきていたから、もうすぐ来るだろう。
会うことになったはいいが何から話せばいいんだろうかとか、やっぱり会うの気まずいなとか思っているうちに、聞き慣れた声に名前を呼ばれぱっと顔を上げた。すると葉月さんが小走りでこちらに駆け寄ってきていて、僕が立ち上がるのと同時に目の前までやってきた彼の息は少し上がっていた。
わざわざ、走ってきたんだろうか。
そんなことでも嬉しいと思ってしまい、とりあえず落ち着こうと視線を落としたとき、葉月さんの左手に包帯が巻かれているのに気が付いた。けがをしたんだろうかと思い顔を上げて彼の顔を見たとき、下唇にも切り傷ができているのを発見してしまった。
「は、葉月さん、ケガしたんですか……?」
「え?」
「左手……それから、唇も」
「あぁ、大したことないから、気にしないで」
「大丈夫。もし朝人が傷つくようなことがあったら、俺が彼を懲らしめるよ」
それはやめてほしいな、なんて思いながらも、兄や父の優しさにじんわりと心があたたかくなる。
突然ヒートになって知らない男に襲われかけたとき、僕はこの家に生まれたことを悔いた。
どうして、そんなことを思ってしまったんだろう。家族みんな、僕を大切に思って愛してくれている。これ以上を求めるなんて贅沢すぎだ。
それに、僕がこの家にオメガとして生まれていなかったらきっと、葉月さんとも出会えていなかっただろう。そうしたら僕は、誰かに恋をすることなく一生を終えていたかもしれない。
「……うん」
葉月さんと出会って彼と過ごした期間は長くはなかったけれど、生まれてから一番充実した日々を過ごしていたと思う。彼と出会ったことは僕にとって、本当に幸福なことだった。
葉月さんが好きだ。だから、向き合わないといけない。どんな結果になろうと、彼と過ごした日々を悪い思い出にしないためにも。辛い思いをする結果になったとしてもそれは、父の言うように、その時どうするか考えればいい。
「みんな、ありがとう」
僕がそう言って微笑むと、母と姉が「応援してるからね!」と興奮した面持ちで僕の手を握った。この二人のテンション、いつも少し変なんだよな。
それから自室に戻って、すぐに葉月さんに先日のお礼を直接したい旨のメッセージを送った。送ってから、もしかしたら断られるかもしれないと不安に思ったが、すぐに問題ないと返信が来て杞憂に終わった。
わざわざ僕の体調を心配するメッセージもくれて、その言葉が本物かまだ判断はつかないけど、でも、単純な僕の心は嬉しさに震えた。
翌日。
仕事が落ち着いたらしい葉月さんと早々に会えることとなり、彼の仕事終わりの時間あわせで会社の最寄り駅前で落ち合うため、僕はお詫びの品を抱えてベンチに腰を下ろして待っていた。
先ほど仕事が終えてこちらに向かっているとメッセージがきていたから、もうすぐ来るだろう。
会うことになったはいいが何から話せばいいんだろうかとか、やっぱり会うの気まずいなとか思っているうちに、聞き慣れた声に名前を呼ばれぱっと顔を上げた。すると葉月さんが小走りでこちらに駆け寄ってきていて、僕が立ち上がるのと同時に目の前までやってきた彼の息は少し上がっていた。
わざわざ、走ってきたんだろうか。
そんなことでも嬉しいと思ってしまい、とりあえず落ち着こうと視線を落としたとき、葉月さんの左手に包帯が巻かれているのに気が付いた。けがをしたんだろうかと思い顔を上げて彼の顔を見たとき、下唇にも切り傷ができているのを発見してしまった。
「は、葉月さん、ケガしたんですか……?」
「え?」
「左手……それから、唇も」
「あぁ、大したことないから、気にしないで」
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