捨てられた私が今度はあなたを捨てる

nanahi

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「セーラ」
「っ!?」

セーラがぎょっとして振り向くと部屋の入り口に暗い顔の夫マルクルが立っていた。

「で、殿下……!明日まで公務のばずでは──」

セーラの手が震えている。

「お帰りなさいって言ってくれないのか?」

一歩、マルクルが足を踏み出した。

「愛してるって、言ってくれないのか?」

また一歩。

ただならぬ雰囲気にセーラは思わず後ずさった。

「あああ、愛してるわ!あなた!」
「見たんだ」
「え」

マルクルはとうとうセーラの目の前まで歩いてきた。その目にはクマができ空洞のように虚ろだった。

「公務というのは嘘だ。君を見張っていた」
「え──」

セーラは悟った。不倫がバレたと。

「君は街の安宿であんな平民の男とあんな声を出して」
「ごめんなさいっごめんなさいあなたっ!!」
「許すよ。一緒に死んでくれたら」

マルクルは壁まで追い詰めると必死で謝るセーラの首をぎりぎりと締め始めた。

「愛していた。永遠を誓ったはずだ。僕だけを見ていると君は言った。君は裏切った」
「ぐ……あ……!」

マルクルは穏やかな性格だった。けれども相思相愛で結婚した相手に裏切られその現場を見て心を壊してしまっていた。真面目すぎる性格があだとなった。

セーラの顔からどんどん血の気が失せていく。ドロシーは湯浴みの準備で部屋にいなかった。

「か……」

がくっとセーラの体から力が抜けた。

どさっ。

セーラは床に倒れた。口から泡を吹いている。

がしゃあん!

「きゃあああああ!!!」

湯浴み用のタライを床に落としドロシーが悲鳴を上げた。

「セーラ……僕のセーラ……!」

マルクルはやっと正気に戻ったのかセーラにとりすがり号泣し始めた。




「何ですって!マルクルがセーラを!?」

ベッドで寝ようとしていた女王が侍女からの報告を受け青ざめた。調査官からセーラとグレイの密会現場を確認したという報告を受け、明日にでも対処しようと考えていた矢先のことだった。女王は急ぎガウンを着てマルクルがいる部屋に駆けつけた。

「マルクル、何てことを!」
「申し訳ありません、母上、申し訳ありません」

機械のようにただ謝罪を繰り返し泣く愛息子の姿に女王は胸が引き裂かれそうだった。

「可哀想に。お前のせいではないのよ。お前にはショックが強すぎたのよ」

女王はマルクルの頭を抱き寄せた。

セーラは幸い、一命を取り留めていた。

死んでなくて幸いだったわ。
けれど王子であっても罰を下さねばならない。
ああ、なんてこと。

女王も母親としてマルクルと一緒に涙を流した。

これも靴屋のグレイのせいだわ!
許さないわよ。

女王はグレイを絶対に追い詰めようと誓った。



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