幼馴染にだまされて生贄になったけど魔王と幸せになりました

nanahi

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アールケーの癒しのおかげで傷がほとんど癒えた頃、洞窟の入り口近くにある木が花をつけた。

桜だった。

風に舞ううす桃色の花びら。
遠くかすんだ春の記憶。


花びらを目で追ううちに、なぜか私の頬を涙が伝った。

「どうして泣いている?」

突然、アールケーが後ろから私を抱きしめた。

「わからないの。無性に悲しくなって。忘れてたけど、もしかしたら、もうすぐ私の誕生日なのかなあ」

前世の記憶は無いに等しいけれど。
春の香りが私の前世の記憶と深くリンクしているような気がした。




翌日、アールケーが桜の木の下に私を呼んだ。

「なあに、アールケー」
「なんだと思う?」

アールケーは後ろに回していた手を私の目の前に差し出した。
銀に輝く腕輪だった。

「誕生日プレゼントだよ。プラチナの腕輪。僕が錬金したんだ」

バラとイバラのツタが彫刻された、とても繊細で美しい腕輪だった。
アールケーは私の左手を取り、腕輪をはめてくれた。

不器用なアールケーが私のためにアクセサリーを作ってくれた。

アールケーのその想いだけで、嬉しさが溢れた。

「うれしい!ありがとう、アールケー!でも、私の腕の太さよくわかったわね」

腕輪は私の腕のサイズにぴったりだった。

「オフィリアの体のことは、僕がいつも触れてるからよくわかるよ」
「……ッ!」

私はその意味を数秒遅れて理解して、頬を真っ赤にした。

「オフィリア、ずっと一緒にいよう」

そう言うと、アールケーは私と手と手を合わせ、自らの指をからませた。
胸がじんとする。

幸せ。
私、幸せなんだ。

アールケーの温度が私に伝わって、心まであたたまる。
私はこの腕輪を一生肌身離さず大切にしようと誓った。

この幸せがずっと続きますように。

私はアールケーの胸に顔を埋め、幸せな時間を噛み締めていた。




そんな私のはかない願いは、無慈悲にもすぐにがらがらと音を立てて壊された。


「魔王、お前を成敗する」


あるとき突然、勇者一向が魔王討伐に現れた。




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