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3 離れにて
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「旦那様、申し訳ございません。私が相手の女の素性をよく確かめもせず屋敷に通してしまったばかりに……」
執事が鎮痛な面持ちでオースト侯爵に謝罪した。
「お前は悪くない。普通なら仕える家の娘の婚約者を疑ったりしない。アダムスはお前にその娘はメイドだと言ったのだな?」
「はい、確かにそうおっしゃいました」
「わかった」
侯爵はそう言うと重々しく書斎の椅子から立ち上がった。
侯爵と執事は屋敷の離れへ向かった。そこは広いオースト家の庭園の端にありエバンジェリンの部屋からも遠かった。娘にアダムスと鉢合わせさせないための侯爵の配慮だった。
執事が扉を開き、侯爵が応接間に足を踏み入れると、椅子に座っていたアッシュフォード男爵が飛び跳ねるように立ち上がった。
「こっ、この度は誠に、誠に申し訳こざいませんでした!!」
そう叫ぶと男爵はがばっと床に土下座した。隣で呆然と見ているだけのアダムスを床に引っ張り倒し、男爵はアダムスの頭をつかみ床に押し付けた。本来なら妻も同伴するのが礼儀だが妻は息子の失態に多大なショックを受け床に伏しているとのことだった。
「痛い、痛い父上!」
「黙れアダムス!!」
男爵は鬼の形相で息子を罵倒した。
「アッシュフォード男爵、顔を上げて席についてください。今後のことを話しましょう」
「はっ、はい」
侯爵の言葉に男爵は身を縮こませてガタガタと椅子を鳴らし席についた。アダムスもくしゃくしゃになった髪を手で直しながら不服そうに席についた。
「まずはいくつか伺いたい点がある」
怒りを見せず冷静に見える侯爵が逆に恐ろしくて男爵はごくりと唾を飲み込んだ。
「平民の娘をうちの執事にメイドだと偽り入館させたのは本当かね?」
ビク、と男爵の体がこわばった。信じられないという顔でアダムスを凝視する。
「まさかお前、そんな無礼なことを……!」
男爵は驚きと怒りでワナワナと震えている。
「だってそう言わないとメアリを部屋に入れてもらえないと思って。大事な話し合いのためだったんです」
侯爵は言い訳をするアダムスを何の温度も感じさせない目で見た後、次の質問をした。
「メアリは君が婚約していることを知っていたのかね?」
さすがにこの質問はメアリに関わることだと察したアダムスは即答はしなかったが、数秒後言いづらそうに答えた。
「……はい」
男爵は侯爵から発される冷徹な圧力に血の気が引いた顔でアダムスの答えをうつむいてただ聞いている。
「君はその平民の娘と男女の関係を持ったのかね?」
ぎょっとした顔で男爵が顔を上げ息子を凝視した。
「……っ」
アダムスの額から冷や汗が流れた。
「そ、それは、その──」
なかなか答えようとしないアダムスに侯爵は言った。
「君が答えないのならその娘を医師に調べさせるまでだ」
アダムスは目を見開いて侯爵を見た。メアリが屈辱的な扱いを受けるかもしれないと思うとアダムスは胸が張り裂けそうだった。
「僕たちは男女の仲です……僕はメアリと出会って真の愛を知ったんです!僕は何でもします。だからメアリにはどうかひどいことをしないでください!!」
男爵は息子の答えにどっと疲れたように頭を抱えた。アダムスに侯爵が言った。
「ほう。うちの娘にはひどいことをした君がそんな都合のよいことを言うのだね?」
「謝れっ!!!」
たまらず男爵がアダムスの頭をテーブルに押し付けた。
「申し訳ございません!!!重ね重ねうちの愚息が!」
アダムスは自分の頭を押さえつけている父親の手が震えていることに気づいた。
「どうか取り潰しだけは──どうか」
取り潰し?
そんな大袈裟な。
いくらオースト侯爵といえど王様でもないのに爵位を剥奪する権利などないだろうに。
アダムスは頭を押さえつけられながら、これほど父親がオースト侯爵を恐れていることを不思議に思っていた。声を枯らしながら幾度も頭を下げる男爵に侯爵は感情のない声をかけた。
「今後のことは追って知らせる。以上だ」
侯爵は押さえつけられているアダムスを一瞥したあと、部屋を去った。
執事が鎮痛な面持ちでオースト侯爵に謝罪した。
「お前は悪くない。普通なら仕える家の娘の婚約者を疑ったりしない。アダムスはお前にその娘はメイドだと言ったのだな?」
「はい、確かにそうおっしゃいました」
「わかった」
侯爵はそう言うと重々しく書斎の椅子から立ち上がった。
侯爵と執事は屋敷の離れへ向かった。そこは広いオースト家の庭園の端にありエバンジェリンの部屋からも遠かった。娘にアダムスと鉢合わせさせないための侯爵の配慮だった。
執事が扉を開き、侯爵が応接間に足を踏み入れると、椅子に座っていたアッシュフォード男爵が飛び跳ねるように立ち上がった。
「こっ、この度は誠に、誠に申し訳こざいませんでした!!」
そう叫ぶと男爵はがばっと床に土下座した。隣で呆然と見ているだけのアダムスを床に引っ張り倒し、男爵はアダムスの頭をつかみ床に押し付けた。本来なら妻も同伴するのが礼儀だが妻は息子の失態に多大なショックを受け床に伏しているとのことだった。
「痛い、痛い父上!」
「黙れアダムス!!」
男爵は鬼の形相で息子を罵倒した。
「アッシュフォード男爵、顔を上げて席についてください。今後のことを話しましょう」
「はっ、はい」
侯爵の言葉に男爵は身を縮こませてガタガタと椅子を鳴らし席についた。アダムスもくしゃくしゃになった髪を手で直しながら不服そうに席についた。
「まずはいくつか伺いたい点がある」
怒りを見せず冷静に見える侯爵が逆に恐ろしくて男爵はごくりと唾を飲み込んだ。
「平民の娘をうちの執事にメイドだと偽り入館させたのは本当かね?」
ビク、と男爵の体がこわばった。信じられないという顔でアダムスを凝視する。
「まさかお前、そんな無礼なことを……!」
男爵は驚きと怒りでワナワナと震えている。
「だってそう言わないとメアリを部屋に入れてもらえないと思って。大事な話し合いのためだったんです」
侯爵は言い訳をするアダムスを何の温度も感じさせない目で見た後、次の質問をした。
「メアリは君が婚約していることを知っていたのかね?」
さすがにこの質問はメアリに関わることだと察したアダムスは即答はしなかったが、数秒後言いづらそうに答えた。
「……はい」
男爵は侯爵から発される冷徹な圧力に血の気が引いた顔でアダムスの答えをうつむいてただ聞いている。
「君はその平民の娘と男女の関係を持ったのかね?」
ぎょっとした顔で男爵が顔を上げ息子を凝視した。
「……っ」
アダムスの額から冷や汗が流れた。
「そ、それは、その──」
なかなか答えようとしないアダムスに侯爵は言った。
「君が答えないのならその娘を医師に調べさせるまでだ」
アダムスは目を見開いて侯爵を見た。メアリが屈辱的な扱いを受けるかもしれないと思うとアダムスは胸が張り裂けそうだった。
「僕たちは男女の仲です……僕はメアリと出会って真の愛を知ったんです!僕は何でもします。だからメアリにはどうかひどいことをしないでください!!」
男爵は息子の答えにどっと疲れたように頭を抱えた。アダムスに侯爵が言った。
「ほう。うちの娘にはひどいことをした君がそんな都合のよいことを言うのだね?」
「謝れっ!!!」
たまらず男爵がアダムスの頭をテーブルに押し付けた。
「申し訳ございません!!!重ね重ねうちの愚息が!」
アダムスは自分の頭を押さえつけている父親の手が震えていることに気づいた。
「どうか取り潰しだけは──どうか」
取り潰し?
そんな大袈裟な。
いくらオースト侯爵といえど王様でもないのに爵位を剥奪する権利などないだろうに。
アダムスは頭を押さえつけられながら、これほど父親がオースト侯爵を恐れていることを不思議に思っていた。声を枯らしながら幾度も頭を下げる男爵に侯爵は感情のない声をかけた。
「今後のことは追って知らせる。以上だ」
侯爵は押さえつけられているアダムスを一瞥したあと、部屋を去った。
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