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26 子爵家ジュリアンの証言
翌日、審議のため再び王宮を訪れたアダムスは階段を登ろうとする辺境伯を見かけた。
辺境伯だ。
一言言っておいてやらないとな。
「ホロー辺境伯!」
急に対抗心が湧いてきたアダムスは辺境伯に声をかけた。辺境伯は足を止めアダムスを見た。
「僕とエバンジェリンは相思相愛なんだ。お前の入り込む余地は一ミリもないんだぞ」
すると辺境伯は何故か憐れむような目をアダムスに向けこう言った。
「君は肝心な事を理解していないようだな」
それだけ言って階段を登って行ってしまった。
「なんだよアイツ!僕を馬鹿にしてるのか?僕は昨日教科書で王国史をみっちり学んだんだぞ!」
アダムスはにわか仕込みにすぎない知識を自負した。
男爵がメアリの巨額の請求書のせいで寝込んでしまったためこの日アダムスは一人で審議に臨むことになった。
「大丈夫だ。僕にはエバンジェリンへの愛がある。エバンジェリンからの愛も」
アダムスは強気で大広間の中央に立った。エバンジェリンは相変わらず悲しげにうつむいている。
今までごめんエバンジェリン。
でももう悲しまなくていい。
僕たちはようやく結ばれるんだ。
アダムスは慈愛を込め心の中でエバンジェリンに語りかけた。ところが辺境伯がエバンジェリンに何か声をかけている様子が見えアダムスはまた怒りを覚えた。
僕のエバンジェリンに馴れ馴れしいぞ!
そんなひとり憤慨するアダムスの目の前に立ったのは友人ジュリアンだった。
「ジュリアン!?」
アダムスは驚きの声を上げた。ジュリアンは暗い顔でアダムスをちらと見た後すぐに視線を前に戻した。いつもはすがすがしいほどの男前なのに今日はげっそりと疲れた顔で背中を丸め怯えて見えた。
「本日はジュリアン・シンバ子爵令息に証言してもらう」
陛下の宣言にアダムスは嫌な予感がした。ジュリアンはアダムスの一番の友達なのにジュリアンが証言することなどアダムスは全く知らされていなかった。
「いったい何を話すんだ、ジュリアン……」
同じく召喚されているメアリを見るといつも通り心細げな表情で立っていた。アダムスには儚げに見えるメアリの顔にデイジーに見せた恐ろしい形相が重なり背筋に寒気が走った。
「ではジュリアンに問う。メアリの所業について申すがいい」
「…………は、はい……へ、陛下に申し上げます」
思い詰めたように視線を落としていたジュリアンはゆっくりと重い口を開いた。
「ある時から遠征地の食糧庫から食べ物がたびたび消失しているとの報告が頻繁に上にあがるようになりました。はじめは野盗か獣の仕業ではないかと思われており私も夜の警備に駆り出されるようになりました。
ペアを組んでいたアダムスが怪我でしばらく動けなくなり私が夜警にひとりで回っていた時のことです。
真夜中に食糧庫の中からガツガツと音がしているのに気づきました。こんなに厳重に宿舎周辺を警備しているのに何者かが忍び込めるなんておかしいと感じた私は、卑しい下男が盗み食いをしているのだろうと思い食糧庫の中に足を踏み入れました。
ところが暗がりで見たのは線の細い女の背中でした。猛烈な早さで食糧の入ったケースから食べ物を口に放り込んでいました。
缶パン、干し肉、じゃがいも、果物、お菓子、あらゆるものを口に入れていました。その者が手をつけたものはあっという間に口の中に消えかけらも残されませんでした。ケースが嘘のように次々と空になっていくんです。その姿はまるで万物を喰らう怪物でした」
「その女とは」
陛下が言うより早く一同の視線が一気にメアリに集まった。皆もう見当がついていた。
「そして私は見ました。その女は確かにメアリでした」
雇い主のジュリアンがメアリを見間違えるわけがなかった。
「やはりあの女か!」
「王国支給の食糧を無断で盗み食いするとは!なんてけしからん女だ!」
ほら見ろといわんばかりに貴族たちは蜂の巣をつついたように騒ぎ怒った。それでもメアリは「全く身に覚えがないことです」となよなよしている。
メアリ、君という人は……
アダムスは今まで理想の女性だと思い込んでいたメアリが蓋を開けてみたら盗み食いを我慢できない怪物のような食欲の持ち主だと知り幻滅しとても恥ずかしくなった。
僕はこんな女と結婚を誓い合ってしまった。
強烈な後悔がアダムスを襲った。
辺境伯だ。
一言言っておいてやらないとな。
「ホロー辺境伯!」
急に対抗心が湧いてきたアダムスは辺境伯に声をかけた。辺境伯は足を止めアダムスを見た。
「僕とエバンジェリンは相思相愛なんだ。お前の入り込む余地は一ミリもないんだぞ」
すると辺境伯は何故か憐れむような目をアダムスに向けこう言った。
「君は肝心な事を理解していないようだな」
それだけ言って階段を登って行ってしまった。
「なんだよアイツ!僕を馬鹿にしてるのか?僕は昨日教科書で王国史をみっちり学んだんだぞ!」
アダムスはにわか仕込みにすぎない知識を自負した。
男爵がメアリの巨額の請求書のせいで寝込んでしまったためこの日アダムスは一人で審議に臨むことになった。
「大丈夫だ。僕にはエバンジェリンへの愛がある。エバンジェリンからの愛も」
アダムスは強気で大広間の中央に立った。エバンジェリンは相変わらず悲しげにうつむいている。
今までごめんエバンジェリン。
でももう悲しまなくていい。
僕たちはようやく結ばれるんだ。
アダムスは慈愛を込め心の中でエバンジェリンに語りかけた。ところが辺境伯がエバンジェリンに何か声をかけている様子が見えアダムスはまた怒りを覚えた。
僕のエバンジェリンに馴れ馴れしいぞ!
そんなひとり憤慨するアダムスの目の前に立ったのは友人ジュリアンだった。
「ジュリアン!?」
アダムスは驚きの声を上げた。ジュリアンは暗い顔でアダムスをちらと見た後すぐに視線を前に戻した。いつもはすがすがしいほどの男前なのに今日はげっそりと疲れた顔で背中を丸め怯えて見えた。
「本日はジュリアン・シンバ子爵令息に証言してもらう」
陛下の宣言にアダムスは嫌な予感がした。ジュリアンはアダムスの一番の友達なのにジュリアンが証言することなどアダムスは全く知らされていなかった。
「いったい何を話すんだ、ジュリアン……」
同じく召喚されているメアリを見るといつも通り心細げな表情で立っていた。アダムスには儚げに見えるメアリの顔にデイジーに見せた恐ろしい形相が重なり背筋に寒気が走った。
「ではジュリアンに問う。メアリの所業について申すがいい」
「…………は、はい……へ、陛下に申し上げます」
思い詰めたように視線を落としていたジュリアンはゆっくりと重い口を開いた。
「ある時から遠征地の食糧庫から食べ物がたびたび消失しているとの報告が頻繁に上にあがるようになりました。はじめは野盗か獣の仕業ではないかと思われており私も夜の警備に駆り出されるようになりました。
ペアを組んでいたアダムスが怪我でしばらく動けなくなり私が夜警にひとりで回っていた時のことです。
真夜中に食糧庫の中からガツガツと音がしているのに気づきました。こんなに厳重に宿舎周辺を警備しているのに何者かが忍び込めるなんておかしいと感じた私は、卑しい下男が盗み食いをしているのだろうと思い食糧庫の中に足を踏み入れました。
ところが暗がりで見たのは線の細い女の背中でした。猛烈な早さで食糧の入ったケースから食べ物を口に放り込んでいました。
缶パン、干し肉、じゃがいも、果物、お菓子、あらゆるものを口に入れていました。その者が手をつけたものはあっという間に口の中に消えかけらも残されませんでした。ケースが嘘のように次々と空になっていくんです。その姿はまるで万物を喰らう怪物でした」
「その女とは」
陛下が言うより早く一同の視線が一気にメアリに集まった。皆もう見当がついていた。
「そして私は見ました。その女は確かにメアリでした」
雇い主のジュリアンがメアリを見間違えるわけがなかった。
「やはりあの女か!」
「王国支給の食糧を無断で盗み食いするとは!なんてけしからん女だ!」
ほら見ろといわんばかりに貴族たちは蜂の巣をつついたように騒ぎ怒った。それでもメアリは「全く身に覚えがないことです」となよなよしている。
メアリ、君という人は……
アダムスは今まで理想の女性だと思い込んでいたメアリが蓋を開けてみたら盗み食いを我慢できない怪物のような食欲の持ち主だと知り幻滅しとても恥ずかしくなった。
僕はこんな女と結婚を誓い合ってしまった。
強烈な後悔がアダムスを襲った。
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