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2 救い
王都を駆け抜ける途中、アンデッドに襲われた無惨な遺体や噛まれたものの感染してそのままアンデッドになってしまった者たちを見た。中には赤子やまだ幼い子どもたちが混じっていた。
ひどい…どうしてこんなことに…!?
姫のように扱って欲しいわけじゃない。崇拝して欲しいわけでもない。
ただ普通に接してくれていれば、こんなことにならなかったのに──
私はこの大陸の身勝手で横暴な為政者たちに憤りを感じた。
そうして倒れそうになりながら走った先に、海岸の港からまさに出発しようとしている商船を発見した。私はこっそり商船に乗り込み貨物室へ隠れた。
大きな荷物の陰に身を潜めていた時、船員らしき少年に姿を見られてしまった。黒髪をポニーテールのように結び、前の襟が交差した不思議な服装をしていた。
「お願い…見逃して…」
最初少年は驚いて私を凝視していたが、私が必死に声を振り絞ると、震えている私に布をかけ隠してくれた。ほどなくして初めて見る白い食べ物と水を持ってきてくれた。柔らかな白いつぶをボールのように固めている。一口かじるとちょうどいい塩気と甘みが広がり、おいしくて涙が出そうだった。
傷だらけの私に同情してくれたのかもしれない。他の船員が隠れている私の側に近づくたび、少年が何かとごまかして遠ざけてくれた。
数日後、商船が隣の大陸に着岸した。少年は他の人に見つからないよう暗いうちに私を船から降ろそうと手を引いてくれた。
その時、突然隣の貨物室の扉がばたんと開いた。振り返ると、少年めがけアンデッドが凶暴な猿のように飛びついてきた。
船に潜伏していたの──!!??
必死に抵抗する少年の肩にアンデッドがまさに噛みつこうとしている。
助けなきゃ…!!
私はとっさに両手に力を込めた。じわっと手のひらに熱がこもる。そしてアンデッドに向けて一気に手のひらを前に突き出した。
どん…!
アンデッドは目に見えない力で遠くまで飛ばされ、苦しみの声をあげながら海の中で粉々に砕け散った。
息を切らし私はへたりこんだ。まだ回復し切っていない状態で力を使ったので体にこたえたようだ。
甲板に両手をついている私に少年が駆け寄って来た。少年はしきりに外国語で話しかけてきた。たぶん私に礼を言っているのだろう。私の方こそ少年に礼を言いたかった。
「助けてくれたお礼よ。ご恩は忘れません」
行こうとする私の手をふいに少年が引き留めた。そして私の手に包みを握らせた。私が少年を見返すと、少年は何かを食べる素振りをしてみせた。
食べ物を持たせてくれたの?
どうしてこの少年はこんなに優しいのだろう。胸に迫るものがあり、私は溢れそうになる涙をぐっとこらえた。
「ありがとう…!」
アンデッドの姿を目撃した他の船員たちが騒ぎ始めた。私は心配そうな視線を送ってくる少年に短く礼を言い、振り切るように夜の森の中にまぎれた。
行くあてなどなかった。けれどバルクレーの狂犬のような恐ろしい目が追ってきている気がして、逃れるようにひたすら奥へ奥へと進んだ。
--------------------
鬱蒼と茂る深い森。
村ひとつ見当たらない。湿気は満ちているが水もない。食べられそうな果物も見つからなかった。
途中、少年がくれた白い粒々のボールを少しずつ食べたが、それもすぐに尽きた。
だんだん空腹と喉の渇きでめまいがしてきた。目がチカチカして風景がぼやけてくる。
木の根に足を取られ倒れる。気力の限界がきた。最後にもがいてみたがもう動けなかった。
私、ここで死ぬの?名も知らぬ国で。
誰かの役に立てるならと聖女の継承を受けたのに、ヒトの欲望に振り回されっぱなしで終わるのか。
なんてちっぽけで、くだらない人生なの──?
つらくて、悲しくて、悔しくて、涙が一筋だけ流れた。
急激に意識が遠のく中、誰かが私のそばに立った。
誰…?
何度も私に呼びかける声が脳内でぼんやりとこだます。
あたたかくて、優しい声…
でもどうせあなたも私を縛ろうとするんでしょ?
そんなことならいっそ、このまま死なせて──
私が絶望の闇に堕ちようとした時、ふわっと体が浮く感覚が身を包んだ。
私を抱きあげ助けてくれたのは、ルクセン王国の若き王、ユークリッド陛下だった。そうとも知らず私は、陛下の腕の中で揺れながら、なぜか安心しきったように深い眠りに落ちていった。
ひどい…どうしてこんなことに…!?
姫のように扱って欲しいわけじゃない。崇拝して欲しいわけでもない。
ただ普通に接してくれていれば、こんなことにならなかったのに──
私はこの大陸の身勝手で横暴な為政者たちに憤りを感じた。
そうして倒れそうになりながら走った先に、海岸の港からまさに出発しようとしている商船を発見した。私はこっそり商船に乗り込み貨物室へ隠れた。
大きな荷物の陰に身を潜めていた時、船員らしき少年に姿を見られてしまった。黒髪をポニーテールのように結び、前の襟が交差した不思議な服装をしていた。
「お願い…見逃して…」
最初少年は驚いて私を凝視していたが、私が必死に声を振り絞ると、震えている私に布をかけ隠してくれた。ほどなくして初めて見る白い食べ物と水を持ってきてくれた。柔らかな白いつぶをボールのように固めている。一口かじるとちょうどいい塩気と甘みが広がり、おいしくて涙が出そうだった。
傷だらけの私に同情してくれたのかもしれない。他の船員が隠れている私の側に近づくたび、少年が何かとごまかして遠ざけてくれた。
数日後、商船が隣の大陸に着岸した。少年は他の人に見つからないよう暗いうちに私を船から降ろそうと手を引いてくれた。
その時、突然隣の貨物室の扉がばたんと開いた。振り返ると、少年めがけアンデッドが凶暴な猿のように飛びついてきた。
船に潜伏していたの──!!??
必死に抵抗する少年の肩にアンデッドがまさに噛みつこうとしている。
助けなきゃ…!!
私はとっさに両手に力を込めた。じわっと手のひらに熱がこもる。そしてアンデッドに向けて一気に手のひらを前に突き出した。
どん…!
アンデッドは目に見えない力で遠くまで飛ばされ、苦しみの声をあげながら海の中で粉々に砕け散った。
息を切らし私はへたりこんだ。まだ回復し切っていない状態で力を使ったので体にこたえたようだ。
甲板に両手をついている私に少年が駆け寄って来た。少年はしきりに外国語で話しかけてきた。たぶん私に礼を言っているのだろう。私の方こそ少年に礼を言いたかった。
「助けてくれたお礼よ。ご恩は忘れません」
行こうとする私の手をふいに少年が引き留めた。そして私の手に包みを握らせた。私が少年を見返すと、少年は何かを食べる素振りをしてみせた。
食べ物を持たせてくれたの?
どうしてこの少年はこんなに優しいのだろう。胸に迫るものがあり、私は溢れそうになる涙をぐっとこらえた。
「ありがとう…!」
アンデッドの姿を目撃した他の船員たちが騒ぎ始めた。私は心配そうな視線を送ってくる少年に短く礼を言い、振り切るように夜の森の中にまぎれた。
行くあてなどなかった。けれどバルクレーの狂犬のような恐ろしい目が追ってきている気がして、逃れるようにひたすら奥へ奥へと進んだ。
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鬱蒼と茂る深い森。
村ひとつ見当たらない。湿気は満ちているが水もない。食べられそうな果物も見つからなかった。
途中、少年がくれた白い粒々のボールを少しずつ食べたが、それもすぐに尽きた。
だんだん空腹と喉の渇きでめまいがしてきた。目がチカチカして風景がぼやけてくる。
木の根に足を取られ倒れる。気力の限界がきた。最後にもがいてみたがもう動けなかった。
私、ここで死ぬの?名も知らぬ国で。
誰かの役に立てるならと聖女の継承を受けたのに、ヒトの欲望に振り回されっぱなしで終わるのか。
なんてちっぽけで、くだらない人生なの──?
つらくて、悲しくて、悔しくて、涙が一筋だけ流れた。
急激に意識が遠のく中、誰かが私のそばに立った。
誰…?
何度も私に呼びかける声が脳内でぼんやりとこだます。
あたたかくて、優しい声…
でもどうせあなたも私を縛ろうとするんでしょ?
そんなことならいっそ、このまま死なせて──
私が絶望の闇に堕ちようとした時、ふわっと体が浮く感覚が身を包んだ。
私を抱きあげ助けてくれたのは、ルクセン王国の若き王、ユークリッド陛下だった。そうとも知らず私は、陛下の腕の中で揺れながら、なぜか安心しきったように深い眠りに落ちていった。
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