フッてくれてありがとう

4 再会 優斗目線

沙耶と別れてちょうど二年経った冬の25日。

俺は偶然、沙耶と再会した。



俺は蘭と1歳の聖斗を連れて、ある高級住宅地の中古物件を見学に来ていた。

「ちょっと高すぎない？中古でしょう？ムカつく」

蘭が不動産屋が提示した物件の金額に文句を言った。

「でもあの物件、よかったわよね。優斗、もっと営業成績上げて、給料UPしてもらってよ。ねえ、聖斗」

蘭は俺に嫌味を言った後、抱っこ紐で前に抱えている聖斗に話しかける。

その時だった。

中古物件のマンションの前の道路を、レジ袋を下げた沙耶が向こうから歩いてくるのが見えた。

「え」

俺は沙耶と目があった。
遅れて蘭も沙耶に気づいた。

「あの女──」

蘭は低い声で冷たくつぶやいた。
彼氏を奪われた哀れな女と、見下した響きもあった。


だが、蘭とは違い、俺は沙耶に釘付けだった。
隣に奥さんと子供がいるのに。


沙耶──！


少し見ないうちに、沙耶は見違えるほど美しくなっていた。


きれいになってる。
身につけているものも、以前より高級感があって。


派手さはないが、上質なものを身にまとい、元々きれいな顔立ちだった沙耶が、少し鮮やかな口紅をつけているだけで、清楚な色気まで醸し出していた。

俺と別れたあとにこんなに綺麗になるなんて、どういうことだ？

俺の胸に、後悔という波が押し寄せ始めていた。

「ちょっとあんたさ、こんな場所に場違いじゃない？」

俺たちとの再会に戸惑っている沙耶に、蘭がぶしつけに言葉をぶつけた。

「え、と。あの……」

蘭の威圧感に沙耶は口ごもる。

「いや、俺たちさ、物件探してて。沙耶はどうしてここに？」
「あの……このあたりに知り合いが住んでて。それで……じゃあ、私はこれで」
「あ、ちょっと待──」

俺はもう少し沙耶と話したい気分だったのに、沙耶は短く会釈した後、早足で去ってしまった。

誰かに会いに来たみたいだけど、きっと金持ちの知り合いができたんだな。
まさか彼氏じゃないよな？
その彼氏に貢いでもらってるのか？

俺はそう思うと、急に嫉妬心が湧き上がってきた。

「みじめな女」

沙耶の後ろ姿を一瞥し、蘭が吐き捨てるように言ったが、俺にはその言葉は届いていなかった。