11 / 49
11 訪問 沙耶視点
しおりを挟む
夜、私が最寄駅の改札から自宅へ向かおうとしたとき、優斗が目の前にいた。
「──ッ!!?」
ギクッとした。
なんか、異様だった。
約束もしてないのに。
住所も教えてないのに。
この前、住宅街で会ったから、目星を付けてずっと駅で見張ってたの?
「急にごめん。返事が来ないから心配になって」
無言の私に優斗が切り出した。
「あ、ああ。こっちこそごめんね。仕事が立て込んでて返事遅れちゃってて」
確かに既読スルーはよくなかった。
ちゃんと断りの返事をすればよかったのに、その勇気が私にはなかった。
「評判のスイーツ買ってきたんだ。部屋に行ってもいい?」
「(は)!?」
私は一瞬硬直した。
妻子持ちなのに元カノの部屋に上がる気なの??
「いや、それは無理だから。ごめん」
さすがに私は断った。
「ほんと返事遅れてごめんね。会うのはまずいと思うの。奥さんもお子さんもいるでしょ?誤解を招いたら申し訳ないわ」
「いや大丈夫。蘭は知ってる」
──どういうこと!???
私は頭が混乱した。
「沙耶にちょっと相談があって。ここに来たことは蘭の了承を得てる。だから何の問題もないんだ」
いや、何でそうなるの??
私が拒否してるのに。
「ごめんなさい!無理なのっ」
私は優斗から逃げ出した。
「ちょ──!沙耶!!」
優斗は追いかけてきた。
私はタクシーに飛び乗り、「ストーカーです!車出してください!!」と運転手さんに頼んだ。
タクシーを残念そうに見送っている優斗の姿がどんどん小さくなっていって私はほっとした。
「大丈夫かい?玄関に入る時、気をつけるんだよ」
自宅マンションの前で下ろしてくれた運転手さんが気遣いの言葉をかけてくれた。
「お気遣いありがとうございます。助かりました」
私がもうすぐ玄関に着きそうになった時。
「!?」
ぐいっと私の腕が掴まれ、私はマンションの暗い壁の所まであっという間に引きずられていった。
「ごめん、強引なことして」
優斗だった。
すごい力で私の腕を握っている。
「痛い。離して」
怖かった。
刺激したら何をされるかわからなかったから、平静を装った。
「ごめん。でもわかってほしい」
優斗は私を壁に押し付けて、両手を壁につき、逃がさないようにした。
私は小刻みに震えていた。
優斗の目が怖かった。
何かに酔っているかのようなその目が。
「あの時はごめん。子供ができて、どうしようもなかったんだ。でも今になって後悔してる。俺はやっぱり沙耶と──」
優斗の顔が私に迫ってくる。
なんで今更!?
あんな酷いフリ方をして、私が平気だったとでも!??
私は怒りが込み上げてきて、顔を背けて逃げようとした。
「待って!!」
優斗は私の手首を強く掴んで離さない。
「嫌!離して!!」
「誤解なんだ!」
誤解?
何が????
「沙耶、俺に惚れてただろ?」
────は?
「俺だって本当は別れたくなかったんだ。元の俺たちに戻らないか」
私は吐き気がしてきた。
優斗の考えは理解できない。
優斗に貸したきり返ってこない200万も、もう連絡を取りたくないから催促しなかったのに。
それを平気でいる人となんて。
「やめて!無理なものは無理なの!」
「おい!!」
私が優斗に抵抗していると、誰かの声が飛んできた。
「君、何してるんだ!」
一条専務だった。
優斗は声の主を一瞬睨んだけど、一条専務だとわかり、作り笑いをした。
「すみません。僕たちの問題なんです。心配はいりません」
「でも、沙耶さん嫌がってただろう?」
「ちょっとしたケンカです。お騒がせしてすみませんでした。沙耶、部屋に行こう」
蒼白な顔で震えて涙ぐんでいる私の様子に一条専務が勘付いた。
「取り込み中すまないが、実は沙耶さんと仕事の約束をしていてね。スマホに連絡したんだけど、出ないからこちらに来てみたんだよ。会社の極秘事項だから三橋くんには詳しくは話せないけど、至急の案件なんだ」
優斗は不服そうに眉をひそめたが、専務の用事を無下にするわけにもいかず、しぶしぶ私の手を離した。
助かった────
「また来るから」と言って去っていく優斗の背中に戦慄を覚えながら、私は一条専務にお礼を言った。
「ありがとうございました。本当は困ってたんです」
一条専務が機転をきかせてくれて助かった。
「着信は本当なんだけどね」
一条専務の言葉に私が慌ててスマホをチェックすると、確かに専務からの着信とメッセージが入っていた。
ちょうど優斗から逃げていた時だから気づかなかったんだ。
「連絡くださってたんですね、気づかなくてごめんなさい」
そう言った私の手を専務がそっと握った。
「!?」
私がびっくりして見上げると、専務はすごく優しい顔でこう言った。
「大丈夫かい?かわいそうに、震えて。すごく怖かっただろう」
私は優しい言葉をかけられて、急に涙が溢れてきた。
私にハンカチを差し出した後、泣いている間、専務はずっと私のそばにいてくれた。
「警察に行こう。三橋くんは確か沙耶さんの元彼だよね。たぶん彼はストーカーになってる」
専務の言葉に一瞬そうしようと思ったけど、私の脳裏に優斗の赤ちゃんが浮かんだ。
まだ小さくて、か弱い存在。
父親が警察に呼ばれるなんて、赤ちゃんがかわいそうかもしれない。
「警察は待ってください。まだ事を荒立てたくなくて。すみません、心配してくださったのに」
「いや、君がそれでいいのなら。もし何か困ったら遠慮なく僕に連絡してもらっていいからね」
専務は穏やかに私に言った。
「──ッ!!?」
ギクッとした。
なんか、異様だった。
約束もしてないのに。
住所も教えてないのに。
この前、住宅街で会ったから、目星を付けてずっと駅で見張ってたの?
「急にごめん。返事が来ないから心配になって」
無言の私に優斗が切り出した。
「あ、ああ。こっちこそごめんね。仕事が立て込んでて返事遅れちゃってて」
確かに既読スルーはよくなかった。
ちゃんと断りの返事をすればよかったのに、その勇気が私にはなかった。
「評判のスイーツ買ってきたんだ。部屋に行ってもいい?」
「(は)!?」
私は一瞬硬直した。
妻子持ちなのに元カノの部屋に上がる気なの??
「いや、それは無理だから。ごめん」
さすがに私は断った。
「ほんと返事遅れてごめんね。会うのはまずいと思うの。奥さんもお子さんもいるでしょ?誤解を招いたら申し訳ないわ」
「いや大丈夫。蘭は知ってる」
──どういうこと!???
私は頭が混乱した。
「沙耶にちょっと相談があって。ここに来たことは蘭の了承を得てる。だから何の問題もないんだ」
いや、何でそうなるの??
私が拒否してるのに。
「ごめんなさい!無理なのっ」
私は優斗から逃げ出した。
「ちょ──!沙耶!!」
優斗は追いかけてきた。
私はタクシーに飛び乗り、「ストーカーです!車出してください!!」と運転手さんに頼んだ。
タクシーを残念そうに見送っている優斗の姿がどんどん小さくなっていって私はほっとした。
「大丈夫かい?玄関に入る時、気をつけるんだよ」
自宅マンションの前で下ろしてくれた運転手さんが気遣いの言葉をかけてくれた。
「お気遣いありがとうございます。助かりました」
私がもうすぐ玄関に着きそうになった時。
「!?」
ぐいっと私の腕が掴まれ、私はマンションの暗い壁の所まであっという間に引きずられていった。
「ごめん、強引なことして」
優斗だった。
すごい力で私の腕を握っている。
「痛い。離して」
怖かった。
刺激したら何をされるかわからなかったから、平静を装った。
「ごめん。でもわかってほしい」
優斗は私を壁に押し付けて、両手を壁につき、逃がさないようにした。
私は小刻みに震えていた。
優斗の目が怖かった。
何かに酔っているかのようなその目が。
「あの時はごめん。子供ができて、どうしようもなかったんだ。でも今になって後悔してる。俺はやっぱり沙耶と──」
優斗の顔が私に迫ってくる。
なんで今更!?
あんな酷いフリ方をして、私が平気だったとでも!??
私は怒りが込み上げてきて、顔を背けて逃げようとした。
「待って!!」
優斗は私の手首を強く掴んで離さない。
「嫌!離して!!」
「誤解なんだ!」
誤解?
何が????
「沙耶、俺に惚れてただろ?」
────は?
「俺だって本当は別れたくなかったんだ。元の俺たちに戻らないか」
私は吐き気がしてきた。
優斗の考えは理解できない。
優斗に貸したきり返ってこない200万も、もう連絡を取りたくないから催促しなかったのに。
それを平気でいる人となんて。
「やめて!無理なものは無理なの!」
「おい!!」
私が優斗に抵抗していると、誰かの声が飛んできた。
「君、何してるんだ!」
一条専務だった。
優斗は声の主を一瞬睨んだけど、一条専務だとわかり、作り笑いをした。
「すみません。僕たちの問題なんです。心配はいりません」
「でも、沙耶さん嫌がってただろう?」
「ちょっとしたケンカです。お騒がせしてすみませんでした。沙耶、部屋に行こう」
蒼白な顔で震えて涙ぐんでいる私の様子に一条専務が勘付いた。
「取り込み中すまないが、実は沙耶さんと仕事の約束をしていてね。スマホに連絡したんだけど、出ないからこちらに来てみたんだよ。会社の極秘事項だから三橋くんには詳しくは話せないけど、至急の案件なんだ」
優斗は不服そうに眉をひそめたが、専務の用事を無下にするわけにもいかず、しぶしぶ私の手を離した。
助かった────
「また来るから」と言って去っていく優斗の背中に戦慄を覚えながら、私は一条専務にお礼を言った。
「ありがとうございました。本当は困ってたんです」
一条専務が機転をきかせてくれて助かった。
「着信は本当なんだけどね」
一条専務の言葉に私が慌ててスマホをチェックすると、確かに専務からの着信とメッセージが入っていた。
ちょうど優斗から逃げていた時だから気づかなかったんだ。
「連絡くださってたんですね、気づかなくてごめんなさい」
そう言った私の手を専務がそっと握った。
「!?」
私がびっくりして見上げると、専務はすごく優しい顔でこう言った。
「大丈夫かい?かわいそうに、震えて。すごく怖かっただろう」
私は優しい言葉をかけられて、急に涙が溢れてきた。
私にハンカチを差し出した後、泣いている間、専務はずっと私のそばにいてくれた。
「警察に行こう。三橋くんは確か沙耶さんの元彼だよね。たぶん彼はストーカーになってる」
専務の言葉に一瞬そうしようと思ったけど、私の脳裏に優斗の赤ちゃんが浮かんだ。
まだ小さくて、か弱い存在。
父親が警察に呼ばれるなんて、赤ちゃんがかわいそうかもしれない。
「警察は待ってください。まだ事を荒立てたくなくて。すみません、心配してくださったのに」
「いや、君がそれでいいのなら。もし何か困ったら遠慮なく僕に連絡してもらっていいからね」
専務は穏やかに私に言った。
352
あなたにおすすめの小説
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
忖度令嬢、忖度やめて最強になる
ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。
5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。
週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。
そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り――
忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。
そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。
中世風異世界でのお話です。
2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。
もう、今更です
ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。
やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる