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39 西くんの部屋 沙耶視点
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とうとう優斗が警察に捕まって私は一気に気が抜けてしまった。
もう付きまとわれることはない。
外に出ても大丈夫。
心の底でくすぶっていた優斗にフラれた嫌な記憶をやっと消去できたような感覚だった。
私は久々に散歩にでかけた。
富裕層が暮らす上品な住宅街。おしゃれで品のいい店や歴史ある老舗が軒を連ねる。
何だかふわふわした気分だった。
足が地面についてないみたい。
でも、いいや。
私は気の向くまま歩き続けた。
「沙耶さん」
しばらく歩いた後、児童公園の前で声をかけられた。
振り向くと西くんだった。
西くんだ。
どうしてこんなところにいるの?
西くん。
優斗の協力、者──
ズン、と一気に頭と体が重くなった。
逃げ、な、きゃ──……
一歩走り出したとたん、ふらついた私は、そのまま倒れて気を失ってしまった。
目を覚ますと私はベッドに寝かされていた。
頭が熱い。
ガンガンする。
「う……」
「まだ無理しないでください」
起きようとした私の耳元で西くんの声がした。
「え!!!!」
氷枕を取り替えてくれていた西くんが私を心配そうに見ていた。ここは西くんの部屋のようだった。
「私、どうして──!??」
混乱している私に西くんが説明をしてくれた。
「沙耶さん、さっき突然倒れたんです。頭がすごく熱くて。高熱が出てるみたいだったから、嫌かもしれないけど、とりあえず僕の部屋に運びました」
私が返事に困っていると、
「何もしないんで安心してください。いつでもマンションまで送ります」
と言うとキッチンに行って料理をし始めた。
「沙耶さん、今日ご飯食べました?」
「え、と」
そういえば、朝ごはんもお昼ご飯も食べてなかった。水も一滴も飲んでない。優斗のことでそれどころじゃなかったんだ。
「食べてなかったみたい」
と私が答えると西くんは、
「おかゆ作りますね。男の料理で申し訳ないですけど」
と言ってあっという間におかゆを作ってくれた。
さっきまで何も喉元を通らない気分だったのに、出汁のいい香りで私はおかゆを全部たいらげていた。
「おいしかった……ありがとう。料理上手なんだね」
「手の込んだものは作れないですけど、なるべく自炊してるんで。役に立ってよかったです。それと水分とってください。熱が早く下がりますから」
西くんはペットボトルの水を私に渡してくれた。私が硬いキャップをなかなか開けられないでいると西くんが代わりに開けて、
「はい、どうぞ」
と渡してくれた。私は西くんの笑顔につい微笑み返してしまった。
はっ!
油断しちゃだめ。
優斗が協力者だって西くんのこと言ってたじゃない。
言ってたはず、なんだけど……
西くんと会話をしていると、心が落ち着いてあったかくなって、そんなの何かの間違いなんじゃないかって思えてきた。
こんなに優しい人なのに。
それでも。
完全には信用できない。
「迷惑かけてごめん。助けてくれてありがとう。私、帰るね」
「大丈夫ですか? もう少し休んでいっても」
西くんがそう言ってくれたけど私は断って帰ることにした。西くんはそれ以上私を引き止めなかった。
部屋を歩いてわかったけど、整然と整えられた綺麗な部屋だった。
西くんらしい。
きちんとしてる。
玄関に向かう途中、奥の部屋の扉が少し開いていて隙間から部屋の様子が見えた。
パソコンルーム??
モニターが何台もあってトレーダーかプログラマーの部屋みたいだった。私も投資でモニター使うけど、それにしても本格的に見えた。
私が奥の部屋の方を見ているのに気づいた西くんが急に私の前に立ちはだかった。
「奥は散らかってるんで。趣味なんです、パソコンいじるの」
妙に慌ててる気がして気になったけどパソコン好きの男性なんてたくさんいる。私は「そうなんだね」とだけ返事をした。
「この前言ってた一条専務のこと、今度あらためて話させてください」
西くんがちょっと深刻な顔で最後に声をかけてきたがまだ熱があった私はそれ以上頭が回らずそのまま西くんの部屋を去った。
もう付きまとわれることはない。
外に出ても大丈夫。
心の底でくすぶっていた優斗にフラれた嫌な記憶をやっと消去できたような感覚だった。
私は久々に散歩にでかけた。
富裕層が暮らす上品な住宅街。おしゃれで品のいい店や歴史ある老舗が軒を連ねる。
何だかふわふわした気分だった。
足が地面についてないみたい。
でも、いいや。
私は気の向くまま歩き続けた。
「沙耶さん」
しばらく歩いた後、児童公園の前で声をかけられた。
振り向くと西くんだった。
西くんだ。
どうしてこんなところにいるの?
西くん。
優斗の協力、者──
ズン、と一気に頭と体が重くなった。
逃げ、な、きゃ──……
一歩走り出したとたん、ふらついた私は、そのまま倒れて気を失ってしまった。
目を覚ますと私はベッドに寝かされていた。
頭が熱い。
ガンガンする。
「う……」
「まだ無理しないでください」
起きようとした私の耳元で西くんの声がした。
「え!!!!」
氷枕を取り替えてくれていた西くんが私を心配そうに見ていた。ここは西くんの部屋のようだった。
「私、どうして──!??」
混乱している私に西くんが説明をしてくれた。
「沙耶さん、さっき突然倒れたんです。頭がすごく熱くて。高熱が出てるみたいだったから、嫌かもしれないけど、とりあえず僕の部屋に運びました」
私が返事に困っていると、
「何もしないんで安心してください。いつでもマンションまで送ります」
と言うとキッチンに行って料理をし始めた。
「沙耶さん、今日ご飯食べました?」
「え、と」
そういえば、朝ごはんもお昼ご飯も食べてなかった。水も一滴も飲んでない。優斗のことでそれどころじゃなかったんだ。
「食べてなかったみたい」
と私が答えると西くんは、
「おかゆ作りますね。男の料理で申し訳ないですけど」
と言ってあっという間におかゆを作ってくれた。
さっきまで何も喉元を通らない気分だったのに、出汁のいい香りで私はおかゆを全部たいらげていた。
「おいしかった……ありがとう。料理上手なんだね」
「手の込んだものは作れないですけど、なるべく自炊してるんで。役に立ってよかったです。それと水分とってください。熱が早く下がりますから」
西くんはペットボトルの水を私に渡してくれた。私が硬いキャップをなかなか開けられないでいると西くんが代わりに開けて、
「はい、どうぞ」
と渡してくれた。私は西くんの笑顔につい微笑み返してしまった。
はっ!
油断しちゃだめ。
優斗が協力者だって西くんのこと言ってたじゃない。
言ってたはず、なんだけど……
西くんと会話をしていると、心が落ち着いてあったかくなって、そんなの何かの間違いなんじゃないかって思えてきた。
こんなに優しい人なのに。
それでも。
完全には信用できない。
「迷惑かけてごめん。助けてくれてありがとう。私、帰るね」
「大丈夫ですか? もう少し休んでいっても」
西くんがそう言ってくれたけど私は断って帰ることにした。西くんはそれ以上私を引き止めなかった。
部屋を歩いてわかったけど、整然と整えられた綺麗な部屋だった。
西くんらしい。
きちんとしてる。
玄関に向かう途中、奥の部屋の扉が少し開いていて隙間から部屋の様子が見えた。
パソコンルーム??
モニターが何台もあってトレーダーかプログラマーの部屋みたいだった。私も投資でモニター使うけど、それにしても本格的に見えた。
私が奥の部屋の方を見ているのに気づいた西くんが急に私の前に立ちはだかった。
「奥は散らかってるんで。趣味なんです、パソコンいじるの」
妙に慌ててる気がして気になったけどパソコン好きの男性なんてたくさんいる。私は「そうなんだね」とだけ返事をした。
「この前言ってた一条専務のこと、今度あらためて話させてください」
西くんがちょっと深刻な顔で最後に声をかけてきたがまだ熱があった私はそれ以上頭が回らずそのまま西くんの部屋を去った。
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