フッてくれてありがとう

nanahi

文字の大きさ
47 / 49

47 専務の部屋2 沙耶視点

しおりを挟む
「専務……私、今日ここに泊まってもいいですか……?」

専務は目を見開いて私の肩を抱こうとした。私はするっと専務の腕からすり抜けた。

「ごめんなさい!いきなり困らせちゃいましたよね。おわびにお茶入れますね。キッチンちょっと借ります」

と茶目っ気たっぷりに言って、私はキッチンへと小走りで向かった。
専務は目尻を下げて嬉しそうにソファーに座り、「じゃあ、お願いしようかな」と答えた。


大丈夫。
うまくいってる。


私は自分を落ち着かせながら、震える手でティーカップにアールグレイを注いだ。

緊迫感で背中に脂汗が流れていく。
いつもならアールグレイの香りを楽しむけど、今はそんな余裕もなかった。

私は眠り薬をポケットから取り出し、こっそり専務のティーカップに混ぜた。

ソファーにいる専務に紅茶を出したけど、専務は私の髪を触り始めて、なかなか飲んでくれなかった。

気持ちばかりが焦る。専務は私の首筋に指を這わせると、とうとう私の顎に手をかけた。


PCにUSBを差し込まないと。冤罪の西くんを助けないと──


私は覚悟を決めた。

「専務。せっかく入れたのに紅茶冷めちゃう」

そう言って私は自ら口に紅茶を含み、専務の頬に手を添え口付けをした。専務は拒まなかった。

私はそのまま紅茶を専務の口に流し込んだ。


ごくん。


専務が紅茶を飲み込んだ。

「まだ足りませんよね?」

私は誘惑する目で専務を見てから、再度紅茶を口移しで専務に飲ませた。
専務はうっとりとした表情をしていた。


「!」

私は突然ソファーに押し倒された。

「沙耶……ずっと君が欲しかったんだ」

専務はとろんとした目で私を見つめ、頬をなでる。


早く薬効いて……!!


私は心の中で叫んでいた。
専務が私の服のボタンに手をかけはじめた。


お願い、効いて!
西くん、西くん!!


心臓が痛いほど早鐘を打つ。
私は涙目になりながら心の中で西くんの名を呼び、目をつむって必死に願った。




こてん。


体の上に重みを感じ、目を開けると、専務が私の胸の上で寝息を立てて眠っていた。


薬が効いてくれた!!!


私はそっと体を外し、専務をソファーに寝かせた。


今のうちに──!


私は専務の会社PCに西くんのプログラムが仕込まれたUSBを差し込んだ──





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

もう、今更です

ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。 やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...