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9 苛立ち
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3ヶ月ほどがたった。
シアラはかなり神術を操れるようになっていた。
「よくがんばったな」
ディオはシアラの頑張りに感心していた。
本当はもっと神術のパワーを出せるのだが、ディオのキスによってある程度力が封じられていることを、シアラはまだ知らない。
「封印を解かなくていいの?」
こっそりと、ボーがディオに聞いてきた。
「まだ解かなくていいだろう。万が一の保険だ」
「ディオはシアラの保護者みたいだね」
「保護者だと!?」
「じゃあ、それ以上?」
「──っ」
ボーの指摘に、そっぽを向くディオ。
耳が赤くなっている。
「あれ?赤くなった?」
「うるさい!!」
シアラのことになるとどうも調子が狂う。
ディオは魔界での王子生活が窮屈で、逃げ出すように人間界に来ていたのだが、シアラが来て以来、心が浮き立つような楽しさを感じていた。
ただ、もうすぐシアラは復讐のために、ここを出ていくだろう。
そう思っただけで、ディオの胸は痛むのだった。
からかうボーを追いかけ回すディオを見て、自分のことを話題にされているとも知らず、「よく二人で何を話しているんだろう?」と、シアラは不思議に思っているだけだった。
ちょっとお話いいかしら」
シアラが霊木の下で眠りかけていると、ソレイヴィアが姿を現した。
「恋人でも何でもないと言いましたけど」
シアラは面倒ごとは御免だというかのように、ソレイヴィアを牽制した。
「あなたはその気がないようだけれど、ディオは違うようなの」
「そんなに気になるのなら、ディオに告白したらどうですか?」
「はあ!?」
シアラにズバリと言われ、ソレイヴィアは声を荒げた。
「あなたはすごく綺麗だし、きっと高貴な身分なんでしょう?ディオと釣り合うし、彼を幸せにできますよね?」
そう言ってシアラは透き通った目でシアラを見た。
何、この子。
本心から言ってるの?
「ディオはいい人だから幸せになってほしいんです。いつまでも復讐に狂った私なんかに構ってないで、あなたみたいなディオを大切に思ってくれる人と一緒になってほしい」
「──!」
その言葉は偽りには思えなかった。
「あなた、本当にそれでいいの?」
思わずソレイヴィアは問いただした。
「私のことはどうでもいいんです。復讐さえ遂げられれば、いつ死んだっていい」
この子は自暴自棄になっている。復讐とやらに取り憑かれて、自分の気持ちも、命すら軽視している。
「気分を削がれましたわ。もう行きますわね」
ソレイヴィアは心が揺らぎそうになるのを振り払うかのように、その場を去った。
ソレイヴィアがディオの館に入ると、ディオは台所でアフタヌーンティー用のお菓子作りの真っ最中だった。
「来てたのか」
ちら、とこちらを見ると、すぐにお菓子の生地に視線を戻してこね始めた。シアラは止められないが、せめてシアラの好物のレモンサブレを作ってやろうと思いついたのだ。
ソレイヴィアは無性にいらついてきた。
能天気にお菓子作りなんかして。
あの子の苦しみをわかっているの?
シアラはライバルであるはずなのにソレイヴィアは、
「ちょっと、もっとしっかりしてくださる!?」
と、ディオを叱りつけるようにその腰を思いっきりぶった。
「痛った!」
ディオがびっくりして振り返る。
「なんで!??」
まったくわかっていない。
「もお、バカなんだから」
「???」
頭にクエスチョンが浮かんだままのディオに呆れる。ソレイヴィアは嘆息した。
それでも引き裂かなければならないの。
それが私の役目なのよ。
ソレイヴィアは食卓に置かれたディオとシアラのそろいのマグカップに目を落とし、一瞬生まれたシアラへの同情を消した。
「私、明日、王宮に行くわ」
ついにその日が来た。
ディオはとたんに胸がぎゅっと苦しくなった。
「そうか、行くのか……もう、会えないのか」
ディオが消え入りそうな声でそう言った時、シアラはきょとんとしてこう言った。
「ん?会えるわよ。王宮に住むわけじゃないんだから」
「ほんとか!!」
ディオの勢いにシアラは呆気に取られている。
ボーはそんなディオを見てニヤニヤしている。
「あの、基本的にはここに住みたいんだけど。ここから王宮に通う感じで。いいかな、まだ私ここにいて。もし迷惑だったら遠慮なく──」
「迷惑だなんて!──お、俺はそんなに心が狭くないぞ」
「ありがとう。助かるわ、ディオ」
「──っ!」
日に日に強くなるこの気持ちはなんだろう。
名前を呼ばれるだけで、心がつかまれるのはなぜだろう。
シアラ。
復讐なんてやめて、ずっとここに……
そんなこと言えるわけはなかったが、シアラを引き止めたい、ディオはそんな衝動に駆られるのだった。
その夜。
またいつものようにシアラがディオの横に寝そべってきた。
「シアラ」
ディオは眠ったまま涙を流すシアラの髪をただなでてやる。
王宮に行けば、シアラは仇の元婚約者に会うのか。
苛立ちがディオを襲う。
いっそ俺がこの手でそいつを殺してやろうか。
シアラの大事な家族を殺したというその男を。
魔族が人間を殺すなど、いとも簡単なことである。
だが、それはできない。復讐が今のシアラを支えている。
「シアラ。復讐なんてやめて、俺とずっとここにいよう」
眠っているシアラには本心が言えた。
ふいにシアラの手がディオの胸元をつかんだ。
手が震えている。怖い夢でも見ているのだろうか。
ディオはたまらなくなって、シアラを初めて抱きしめた。キングサイズのベッドがわずかに軋んだ音を立てた。
明け方またシアラは夢遊病のように自分のベッドに帰っていくだろう。
それまでの間だけでもいい。こうしていたかった。
シアラの柔らかい前髪がディオの口元をくすぐる。
ディオはシアラの体温を感じながら、バクバクと鳴る自分の心音を聞いていた。
「すまない、シアラ。これだけ許して」
ディオは我慢できなくなって、そっとシアラの頬に唇を触れさせた。
するとシアラがうっすらと半目をあけた。
やばい!!
嫌われる!!!
ディオが焦ってわたわたしていると、シアラは眠そうにまた目を閉じて、ディオの胸に体をすりよせ、すーっと寝入ってしまった。
かわいい!
なんだこれ、かわいいかわいい!!
ディオは無意識に甘えてくるシアラに、体の芯から突き上がるようなときめきを覚えていた。
シアラはかなり神術を操れるようになっていた。
「よくがんばったな」
ディオはシアラの頑張りに感心していた。
本当はもっと神術のパワーを出せるのだが、ディオのキスによってある程度力が封じられていることを、シアラはまだ知らない。
「封印を解かなくていいの?」
こっそりと、ボーがディオに聞いてきた。
「まだ解かなくていいだろう。万が一の保険だ」
「ディオはシアラの保護者みたいだね」
「保護者だと!?」
「じゃあ、それ以上?」
「──っ」
ボーの指摘に、そっぽを向くディオ。
耳が赤くなっている。
「あれ?赤くなった?」
「うるさい!!」
シアラのことになるとどうも調子が狂う。
ディオは魔界での王子生活が窮屈で、逃げ出すように人間界に来ていたのだが、シアラが来て以来、心が浮き立つような楽しさを感じていた。
ただ、もうすぐシアラは復讐のために、ここを出ていくだろう。
そう思っただけで、ディオの胸は痛むのだった。
からかうボーを追いかけ回すディオを見て、自分のことを話題にされているとも知らず、「よく二人で何を話しているんだろう?」と、シアラは不思議に思っているだけだった。
ちょっとお話いいかしら」
シアラが霊木の下で眠りかけていると、ソレイヴィアが姿を現した。
「恋人でも何でもないと言いましたけど」
シアラは面倒ごとは御免だというかのように、ソレイヴィアを牽制した。
「あなたはその気がないようだけれど、ディオは違うようなの」
「そんなに気になるのなら、ディオに告白したらどうですか?」
「はあ!?」
シアラにズバリと言われ、ソレイヴィアは声を荒げた。
「あなたはすごく綺麗だし、きっと高貴な身分なんでしょう?ディオと釣り合うし、彼を幸せにできますよね?」
そう言ってシアラは透き通った目でシアラを見た。
何、この子。
本心から言ってるの?
「ディオはいい人だから幸せになってほしいんです。いつまでも復讐に狂った私なんかに構ってないで、あなたみたいなディオを大切に思ってくれる人と一緒になってほしい」
「──!」
その言葉は偽りには思えなかった。
「あなた、本当にそれでいいの?」
思わずソレイヴィアは問いただした。
「私のことはどうでもいいんです。復讐さえ遂げられれば、いつ死んだっていい」
この子は自暴自棄になっている。復讐とやらに取り憑かれて、自分の気持ちも、命すら軽視している。
「気分を削がれましたわ。もう行きますわね」
ソレイヴィアは心が揺らぎそうになるのを振り払うかのように、その場を去った。
ソレイヴィアがディオの館に入ると、ディオは台所でアフタヌーンティー用のお菓子作りの真っ最中だった。
「来てたのか」
ちら、とこちらを見ると、すぐにお菓子の生地に視線を戻してこね始めた。シアラは止められないが、せめてシアラの好物のレモンサブレを作ってやろうと思いついたのだ。
ソレイヴィアは無性にいらついてきた。
能天気にお菓子作りなんかして。
あの子の苦しみをわかっているの?
シアラはライバルであるはずなのにソレイヴィアは、
「ちょっと、もっとしっかりしてくださる!?」
と、ディオを叱りつけるようにその腰を思いっきりぶった。
「痛った!」
ディオがびっくりして振り返る。
「なんで!??」
まったくわかっていない。
「もお、バカなんだから」
「???」
頭にクエスチョンが浮かんだままのディオに呆れる。ソレイヴィアは嘆息した。
それでも引き裂かなければならないの。
それが私の役目なのよ。
ソレイヴィアは食卓に置かれたディオとシアラのそろいのマグカップに目を落とし、一瞬生まれたシアラへの同情を消した。
「私、明日、王宮に行くわ」
ついにその日が来た。
ディオはとたんに胸がぎゅっと苦しくなった。
「そうか、行くのか……もう、会えないのか」
ディオが消え入りそうな声でそう言った時、シアラはきょとんとしてこう言った。
「ん?会えるわよ。王宮に住むわけじゃないんだから」
「ほんとか!!」
ディオの勢いにシアラは呆気に取られている。
ボーはそんなディオを見てニヤニヤしている。
「あの、基本的にはここに住みたいんだけど。ここから王宮に通う感じで。いいかな、まだ私ここにいて。もし迷惑だったら遠慮なく──」
「迷惑だなんて!──お、俺はそんなに心が狭くないぞ」
「ありがとう。助かるわ、ディオ」
「──っ!」
日に日に強くなるこの気持ちはなんだろう。
名前を呼ばれるだけで、心がつかまれるのはなぜだろう。
シアラ。
復讐なんてやめて、ずっとここに……
そんなこと言えるわけはなかったが、シアラを引き止めたい、ディオはそんな衝動に駆られるのだった。
その夜。
またいつものようにシアラがディオの横に寝そべってきた。
「シアラ」
ディオは眠ったまま涙を流すシアラの髪をただなでてやる。
王宮に行けば、シアラは仇の元婚約者に会うのか。
苛立ちがディオを襲う。
いっそ俺がこの手でそいつを殺してやろうか。
シアラの大事な家族を殺したというその男を。
魔族が人間を殺すなど、いとも簡単なことである。
だが、それはできない。復讐が今のシアラを支えている。
「シアラ。復讐なんてやめて、俺とずっとここにいよう」
眠っているシアラには本心が言えた。
ふいにシアラの手がディオの胸元をつかんだ。
手が震えている。怖い夢でも見ているのだろうか。
ディオはたまらなくなって、シアラを初めて抱きしめた。キングサイズのベッドがわずかに軋んだ音を立てた。
明け方またシアラは夢遊病のように自分のベッドに帰っていくだろう。
それまでの間だけでもいい。こうしていたかった。
シアラの柔らかい前髪がディオの口元をくすぐる。
ディオはシアラの体温を感じながら、バクバクと鳴る自分の心音を聞いていた。
「すまない、シアラ。これだけ許して」
ディオは我慢できなくなって、そっとシアラの頬に唇を触れさせた。
するとシアラがうっすらと半目をあけた。
やばい!!
嫌われる!!!
ディオが焦ってわたわたしていると、シアラは眠そうにまた目を閉じて、ディオの胸に体をすりよせ、すーっと寝入ってしまった。
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