全てを奪われた公爵令嬢は第二王子と女男爵を破滅に導く

nanahi

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10 シュライン王太子

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朝になった。

シアラは貴族の令息の服をディオに用意してもらった。
さらにシアラはディオにお願いをして、体が男になる魔術をかけてもらった。

「男の人に変化したんだろうけど、かわいいというか、きれいというか、可憐というか」

ボーが褒め言葉を並べ立てている。

確かに胸は平たくなって少し小柄ですらっとした少年のようになったが、内側から放たれるシアラ本来の美しさを隠すことはできなかった。

「誘惑するの?」
「こら、ボー!シアラにバカなこと言うな!!」

またしてもシアラに見惚れていたディオが、ボーの言葉に目が覚めたように怒っている。

「それも、ありかな」
「え」

シアラが予想外のことをつぶやいた。

「え、嘘。まさか。だって、仇だろう?」

妙にしどろもどろにディオが問いただす。

「では、行ってきます」

ディオの問いには答えずに、シアラは王宮へ出かけて行ってしまった。

何だかショックを受けて呆然としているディオをやれやれという顔でボーが眺めていた。


シアラが出かけて一時間が経過した。
ディオは、昨夜のシアラとのことを思い出し赤くなっては、王宮に行った彼女が急に心配になり青くなっている。

「よし。仕方がないから、見に行ってやるか」
「やっぱり」

ボーはディオがシアラを放っておけるはずないとわかっていた。
ディオはいそいそと王宮へと向かった。




「まったく、レイモンドはとんだ不祥事を起こしてくれたものだ」

王の執務室で憤慨しているのは、キーファー王国の王太子シュライン・ルイ・キーファー。レイモンドの兄だ。

ダーティブロンドの髪はレイモンドと同じだが、瞳は理知的な淡いグリーン。
兄のシュラインは弟とは別人のように実直で誠実、人望も厚かった。

王は随分前から病気がちで自室にこもり、ほぼ引退状態であった。一昨年、王妃が病没してからは、失意からかさらにぼんやりと意識が定まらない日が増えている。

そんな王の代わりに実権を握っているのがシュライン王太子だ。特別に王の執務室を使う許可も得ている。

「父上があいつを甘やかすから」
「側妃であられたお母上が早くに亡くなったために、陛下も気の毒だったのでしょうな」

老齢なムール宰相が相槌をうつ。
歳70にもなるが、陛下からの信が厚く、ムールは長らく宰相の座にいる。まだ若い王太子のよき指南役でもある。

「シアラ嬢に密通疑惑があったとレイモンドは言っていたが本当か?」
「いえ。そのような話は全く」

ムール宰相が首を横にふる。

「私に断りもなしにクアンタ家との婚約を破談にするなど!あってはならんことだ。どれほどクアンタ家が王国にとって重要な家門なのか、あいつも知らないわけではないだろうに」

品のないあの女男爵よりも、シアラの方がよほど妃として適任だったのに。

王太子の怒りは収まらない。

「陛下はときおり、記憶が朦朧とされる時があります。そのタイミングを狙って、レイモンド殿下が婚約破棄の王命に陛下の署名を得たようです」
「姑息なことを」

美麗だが精悍さも併せ持つ王太子が顔を歪ませる。

「殿下、クアンタ家が惨殺された件ですが」

ムール宰相の言葉に、一瞬、王太子は押し黙った。
酷い事件だった。
調査では、夜盗が強盗目的で屋敷に押し入り、屋敷の者を一人残らず殺してしまったとのことだった。その中にはまだ幼い後継も含まれていたという。

「クアンタ家の実印が盗まれ、財産もすべて別の者の手に渡ったようです」
「誰なのだ、それは?」

人とは思えない所業をしたものは。

「それが、名前が一向に浮上しないのです。クアンタ家の遠縁にいったん財が贈与されたあと、ある口座に移された形跡はあるのですが、直後に口座が解約されています。その口座は偽名でした」
「ダミー口座に移して引き出したということか」
「おそらく」
「そんなことが可能なのか?クアンタ家の遠縁は何と言っている」
「まったく覚えがないと」

王太子はうなった。

「このような迂回経路で金を移動させる方法ができるのは、裏社会のよほどの大物か、大富豪か。金に物を言わせ、関係者に口をつぐませている可能性もあります」

王室にとって最重要といえるクアンタ家を断絶へと追い込んだ悪党。
王太子は事件以来、薄気味悪さを感じていた。

「ところでシアラ嬢は行方不明と聞いたたが」

屋敷にはシアラの遺体はなかった。

「生きてらっしゃったとしても、最悪、闇市で奴隷か娼婦として売られた可能性も」
「もういい!気の毒で聞いておれん。王立警察を動員し、引き続き調べよ」
「承知しました」

王太子はシアラと面識があった。
弟の婚約者として挨拶に来た時に、一度だけ面会したことがある。

金と銀が混ざり合った珍しい髪がシアラの紺碧の瞳を際立たせ、聖職者のような雰囲気をかもしだしていたのを覚えている。

どこにいる、シアラ。
生きていれば助けを求めよ。

王室を長年支えてくれたクアンタ家からの巨額の納税が途絶えてしまうことは王室にとって最大の痛手であったが、王太子は、か細いシアラがどこかで泣いているのではないかと、ふと切なく思いをはせた。




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