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6 弟
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クリューガー王家の王太子である弟は生まれた時から病弱だった。肺病のため何度生死を彷徨ったかわからない。
そんな弟を救うため、父は肺病を治癒する薬を求めた。だが父を満足させるような薬は市場には見当たらなかった。
それでも父は諦めず、とうとう自領で薬の研究所を立ち上げた。莫大な資金投入により、新薬が誕生した。弟が毎日その薬を飲むうちに、少しずつではあるが肺に改善の兆しが現れた。
薬はどれもレアで非常に高価な薬草や材料でできており、作り続けるにも資金がいる。
そこで父は、支配した王領の鉱山採掘を積極的に進め、ダイヤモンドと金鉱脈の発見に成功したのだ。宝石が出ずハズレだと思った鉱山からも石炭が出て、神は父に幸運を授けた。
さらには開発途中で生まれた薬を市場で売ることで、巨額の利益を得た。
クリューガー王家の金庫は膨れるばかりだったが、「稼ぎ続けなければ金は消えるもの」と、シビアな父はそれでも資金を増やす方法を考え続けた。
”王子を産め。そうすれば王との約定でその子は王太子となる”
この私の任務の先に、実はもう一つの任務が待っている。
それは、王太子を産んだ生母の特権で、嫁ぎ先のレンバッハ王国領にある手付かずの鉱山開発を進めることだった。万が一のことを考え、資産を生み出すスペアを作れ、ということだ。財布が複数あれば、一方がダメでも他方でまかなうことができる。
名家であるゆえにあぐらをかいてきたレンバッハ家には思いもよらぬことだろう。私が王太子を産む──それはこの王家乗っ取りの第一手でもあるのだ。
”お前が男なら私は迷わずお前を王太子にした。だがお前は女だ。それも幸運なのだ。なぜなら、婚姻により他国に行きその国を支配する力を得ることができるからだ”
私からすれば、尊敬する父からの褒め言葉だった。
でも、私にできるのだろうか…
あまりの重責に父の言葉を思い起こすたび、底知れぬ不安が込み上げる。
”あねうえ”
「コンラッド…」
そんな時はくるくると愛らしい目で私を見上げる3歳の弟コンラッドの瞳を思い出す。
「イーリス、しっかりなさい」
可愛い弟のため自分に喝を入れ直し、長い廊下を歩き始める。
ほどなくして、向こうからすれ違うオリヴァー殿下が挨拶をしてくれた。
殿下の笑顔がお戻りになってよかった。
私が微笑みで返し通り過ぎると、今度は柱の陰からロビン殿下の姿が現れた。
「──っ」
私は先日の無礼を思い出し、身を固くした。すぐにエヴァが私の前で守るように立った。
「つれないなあ」
「御用は?」
私は手短に問うた。
「君の顔を見たくなったから。父上の好みじゃないけど、僕の好みだから」
「な──!」
何という品のない言葉か。
「無礼ですわ」
私は不快感を隠すことなく、顔を背けた。
「怒らないで。ごめん」
何よ、急にしおらしく。
よくわからない人。
本気で落ち込んで見えるから厄介だ。
「もっと仲良くなろうよ」
ロビン殿下は無理難題を突きつけてくる。
「無理ですわ。私は陛下の妃です。必要以上に殿下のお相手はできませんわ」
私の拒絶の言葉に怒るかと思ったが、ロビン殿下はなぜか目をキラキラさせている。
「いいねえ…いいねえ、君!はっきり物を言う!僕から逃げもせず!!」
じっと凝視してくる目がはじめて温度を得たように見えた。どうやら私はロビン殿下に気に入られてしまったようだ。
私とエヴァの周りを囲むように何周かしたあと、ロビン殿下は「じゃね」と言って去って行った。
そんな弟を救うため、父は肺病を治癒する薬を求めた。だが父を満足させるような薬は市場には見当たらなかった。
それでも父は諦めず、とうとう自領で薬の研究所を立ち上げた。莫大な資金投入により、新薬が誕生した。弟が毎日その薬を飲むうちに、少しずつではあるが肺に改善の兆しが現れた。
薬はどれもレアで非常に高価な薬草や材料でできており、作り続けるにも資金がいる。
そこで父は、支配した王領の鉱山採掘を積極的に進め、ダイヤモンドと金鉱脈の発見に成功したのだ。宝石が出ずハズレだと思った鉱山からも石炭が出て、神は父に幸運を授けた。
さらには開発途中で生まれた薬を市場で売ることで、巨額の利益を得た。
クリューガー王家の金庫は膨れるばかりだったが、「稼ぎ続けなければ金は消えるもの」と、シビアな父はそれでも資金を増やす方法を考え続けた。
”王子を産め。そうすれば王との約定でその子は王太子となる”
この私の任務の先に、実はもう一つの任務が待っている。
それは、王太子を産んだ生母の特権で、嫁ぎ先のレンバッハ王国領にある手付かずの鉱山開発を進めることだった。万が一のことを考え、資産を生み出すスペアを作れ、ということだ。財布が複数あれば、一方がダメでも他方でまかなうことができる。
名家であるゆえにあぐらをかいてきたレンバッハ家には思いもよらぬことだろう。私が王太子を産む──それはこの王家乗っ取りの第一手でもあるのだ。
”お前が男なら私は迷わずお前を王太子にした。だがお前は女だ。それも幸運なのだ。なぜなら、婚姻により他国に行きその国を支配する力を得ることができるからだ”
私からすれば、尊敬する父からの褒め言葉だった。
でも、私にできるのだろうか…
あまりの重責に父の言葉を思い起こすたび、底知れぬ不安が込み上げる。
”あねうえ”
「コンラッド…」
そんな時はくるくると愛らしい目で私を見上げる3歳の弟コンラッドの瞳を思い出す。
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ほどなくして、向こうからすれ違うオリヴァー殿下が挨拶をしてくれた。
殿下の笑顔がお戻りになってよかった。
私が微笑みで返し通り過ぎると、今度は柱の陰からロビン殿下の姿が現れた。
「──っ」
私は先日の無礼を思い出し、身を固くした。すぐにエヴァが私の前で守るように立った。
「つれないなあ」
「御用は?」
私は手短に問うた。
「君の顔を見たくなったから。父上の好みじゃないけど、僕の好みだから」
「な──!」
何という品のない言葉か。
「無礼ですわ」
私は不快感を隠すことなく、顔を背けた。
「怒らないで。ごめん」
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私の拒絶の言葉に怒るかと思ったが、ロビン殿下はなぜか目をキラキラさせている。
「いいねえ…いいねえ、君!はっきり物を言う!僕から逃げもせず!!」
じっと凝視してくる目がはじめて温度を得たように見えた。どうやら私はロビン殿下に気に入られてしまったようだ。
私とエヴァの周りを囲むように何周かしたあと、ロビン殿下は「じゃね」と言って去って行った。
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