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5 礼
暗殺事件を受け、ヴィクトールを護衛の壁で守りながら、全員王宮へと帰還した。
ミレナとヴィクトールは王の間に呼ばれていた。
「大事ないようで本当によかった。ヴィクトール」
「はい。大丈夫です。怪我一つありません。父上、ご心配おかけしました」
「しかし、刺客が紛れ込んでいたとは。以後もっと用心せねばならんな……」
陛下の顔が曇った。
「ミレナが暗殺者の肩を矢で射抜いてくれたんです」
「ほう!それはすごいな。ミレナがそんな弓の名手だとは知らなかったぞ。私からも礼を言う。ありがとう、ミレナよ」
陛下はミレナの手を取り、何度も礼を言った。
「もったいないお言葉でございます、陛下」
「兄上、留学先で何か恨まれるようなことをしたのでは?」
後ろにいたエイドリアンが横槍を入れた。
「こら。ヴィクトールはそんな男ではないぞ。真面目で自慢の後継だ」
陛下は成績がよく温厚で素行もいいヴィクトールに期待を寄せていた。
ふん。
兄上ばっかり褒めて。
エイドリアンは面白くなかった。自分は努力しないくせに成績のいい兄のことをひがんでいた。
母上だけが僕の味方だ。
母上は僕が一番だっていつも言ってくださる。
「無事で何よりでした。ヴィクトール」
遅れて奥から出て来た側妃のカロリーヌが声をかけて来た。
「側妃様。ご心配おかけしました」
ふん。
悪運の強い子。
カロリーヌは内心舌打ちをした。彼女は王の側妃でエイドリアンの産みの母だった。ヴィクトールにとってエイドリアンは腹違いの弟にあたる。
少しは痛い目をみればよかったのに。
暗殺者を誰が仕向けたのかは知らなかったが、何でもできる兄の困った顔を見たいとエイドリアンは密かに思っていた。
それに。
ミレナがヴィクトールのそばにいるのも気に食わなかった。ミレナは狩場に集合したときに挨拶に来たがそれ以降はエイドリアンの近くに寄っても来なかった。
僕は婚約者だぞ?
普段自分がしている仕打ちを棚に上げ、ヴィクトールとミレナが一緒に話している様子にエイドリアンはむかむかしてきた。
なんで、婚約者の僕より、兄上のそばに行くんだ?
「ミレナ、ティールームで茶を飲もう。東方より取り寄せた珍しい紅茶もあるんだよ」
「お疲れでは?狩りから帰還されたばかりですのに、よろしいのですか?」
「もちろんだ。さっきの礼も兼ねて。エイドリアンもどうだ?」
じとっとこちらを見ているエイドリアンの視線に気づき、ヴィクトールが声をかけた。
「なっ、なぜ僕が!いりませんよ。喉も乾いてないし」
「そうか。では行こう、ミレナ」
「はい、殿下」
婚約者のいるミレナを誘うのはあまり外聞はよくないが、命を助けてもらった礼としてなら面目が立つ。
ヴィクトールは内心心が弾んでいた。
ああっ。
一方エイドリアンは本当はミレナと一緒に茶を飲みたいと思った。だが意地を張って本心が言えなかった。
ふん!
僕にはサリーがいる。
サリーで十分だ!
負け惜しみだった。エイドリアンはティールームに向かう二人を振り返って、しばらく彼らの背中を見送っていた。
ミレナとヴィクトールは王の間に呼ばれていた。
「大事ないようで本当によかった。ヴィクトール」
「はい。大丈夫です。怪我一つありません。父上、ご心配おかけしました」
「しかし、刺客が紛れ込んでいたとは。以後もっと用心せねばならんな……」
陛下の顔が曇った。
「ミレナが暗殺者の肩を矢で射抜いてくれたんです」
「ほう!それはすごいな。ミレナがそんな弓の名手だとは知らなかったぞ。私からも礼を言う。ありがとう、ミレナよ」
陛下はミレナの手を取り、何度も礼を言った。
「もったいないお言葉でございます、陛下」
「兄上、留学先で何か恨まれるようなことをしたのでは?」
後ろにいたエイドリアンが横槍を入れた。
「こら。ヴィクトールはそんな男ではないぞ。真面目で自慢の後継だ」
陛下は成績がよく温厚で素行もいいヴィクトールに期待を寄せていた。
ふん。
兄上ばっかり褒めて。
エイドリアンは面白くなかった。自分は努力しないくせに成績のいい兄のことをひがんでいた。
母上だけが僕の味方だ。
母上は僕が一番だっていつも言ってくださる。
「無事で何よりでした。ヴィクトール」
遅れて奥から出て来た側妃のカロリーヌが声をかけて来た。
「側妃様。ご心配おかけしました」
ふん。
悪運の強い子。
カロリーヌは内心舌打ちをした。彼女は王の側妃でエイドリアンの産みの母だった。ヴィクトールにとってエイドリアンは腹違いの弟にあたる。
少しは痛い目をみればよかったのに。
暗殺者を誰が仕向けたのかは知らなかったが、何でもできる兄の困った顔を見たいとエイドリアンは密かに思っていた。
それに。
ミレナがヴィクトールのそばにいるのも気に食わなかった。ミレナは狩場に集合したときに挨拶に来たがそれ以降はエイドリアンの近くに寄っても来なかった。
僕は婚約者だぞ?
普段自分がしている仕打ちを棚に上げ、ヴィクトールとミレナが一緒に話している様子にエイドリアンはむかむかしてきた。
なんで、婚約者の僕より、兄上のそばに行くんだ?
「ミレナ、ティールームで茶を飲もう。東方より取り寄せた珍しい紅茶もあるんだよ」
「お疲れでは?狩りから帰還されたばかりですのに、よろしいのですか?」
「もちろんだ。さっきの礼も兼ねて。エイドリアンもどうだ?」
じとっとこちらを見ているエイドリアンの視線に気づき、ヴィクトールが声をかけた。
「なっ、なぜ僕が!いりませんよ。喉も乾いてないし」
「そうか。では行こう、ミレナ」
「はい、殿下」
婚約者のいるミレナを誘うのはあまり外聞はよくないが、命を助けてもらった礼としてなら面目が立つ。
ヴィクトールは内心心が弾んでいた。
ああっ。
一方エイドリアンは本当はミレナと一緒に茶を飲みたいと思った。だが意地を張って本心が言えなかった。
ふん!
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