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7 エイドリアンの心変わり
学園では、狩場での王太子暗殺事件と、ミレナが刺客を弓で成敗した話でもちきりだった。ヴィクトールは大事をとって学園を休んでいた。
「王太子殿下を救って陛下に感謝されたらしいわよ」
「弓の名人だなんて、本当に普通の令嬢なの?昔のミレナからじゃ想像もできないわよね」
視線が痛い……。
ミレナは普段会話を交わさないような生徒からも次々と挨拶をされ、教室にたどり着くまでしばらく時間がかかった。
「ねえ、ミレナ。今度一緒に弓の練習をしないか?」
令息たちが声をかけてくる。
「あ、あの」
困った……。
どこで習ったとか、いつから始めたとか、あれこれ詮索されたらボロが出てしまうかもしれない。
ミレナが戸惑っていると、ちょうどエイドリアンが教室にやってきた。
「君たちどきたまえ。僕の婚約者に馴れ馴れしいぞ」
「あ!エイドリアン殿下」
さあっと令息たちがミレナから離れた。
あら?
いつも一緒のサリーはいないの?
ミレナが怪訝な目を向けているとエイドリアンが、ごほん、とひとつ咳払いをした。
「い、今から一緒に……茶でも飲もう。学園のカフェテラスで」
え?
私のこと嫌いだったんじゃないの??
「本当、ですか?」
意外すぎてミレナは困惑し、思わず聞き返した。
「本当だ。君は僕の婚約者だしな」
「そう……ですが、でも」
誰かが「学園デートのお誘いね」と囁くのが聞こえた。
「なぜ私と?サリーはいいのですか?」
ミレナが疑問をぶつけるとエイドリアンは「あれはいいのだ」と言ってミレナの手をぐいと握った。
「きゃあ」と令嬢たちの小さな恥じらいの声があちこちから生まれた。
何なの、これ──!
ミレナは途中、すれ違いざま驚きながら振り返りこちらを見て囁き合う生徒たちの間を進みながら、エイドリアンに手を引かれカフェテラスへ到着した。
ミレナを椅子に座らせてから、ようやくエイドリアンはミレナから手を離した。
手、手汗をかいてしまった……。
ミレナは困惑を隠せないまま、どうすればいいか分からずテーブルに目を落としていた。
ついこの間まで私に冷たくしてたのに、この変わりようはなんなの?
王族ってみんなこうなのかしら。
釈然としない気持ちがミレナに広がった。
「どの紅茶が好みかな?」
押し黙っているミレナの気持ちにも気づかず、エイドリアンはメニューを見せながら好みを聞いてきた。
「……フルーツ系の紅茶が好きですわ」
「そうか。では、マスカットティーはどうかな?」
「……ええ、そちらで」
店でも高級なマスカットティーを置いている所は珍しく、さすが王族も通う学園だった。
妙なことになってしまったわ。
なんだかヴィクトール殿下に悪い気がしてしまう……。
ミレナはエイドリアンと向かい合って紅茶を飲みながら、寂しげなヴィクトールの顔がよぎった。
「あれはミレナとエイドリアン殿下……!?どうしてあの二人が!?」
その時、サリーが目を見開き、遠くからミレナたちを見ていた。
「エイドリアン殿下!」
ミレナとお茶を楽しんだ後、護衛と廊下を歩いていたエイドリアンをサリーが呼び止めた。
「なぜあんな女とご一緒にいらしたのです?何度も申し上げましたわよね、あの女が私にしてきた悪行の数々を……!」
「確かにそうだったな」
「では!」
サリーはエイドリアンが思い直してくれたと希望に満ちた目を向けた。
「だがよく考えてみたら、証拠がないではないか」
「え」
「ミレナがやったという証拠が一つもないではないか」
「そっ、そんな!殿下は私のことを信じてくださらないのですか!?あの女は、婚約者のエイドリアン殿下がいらっしゃるのに、殿下を軽んじて他の令息たちと風紀を乱すような行為を──!」
くるりとエイドリアンがサリーに向き直り、真っ直ぐにサリーを見た。一瞬、サリーはひるんだ。
「もし君が言うようにミレナが王族までも軽視していたのであれば、命の危険を冒してまで刺客から王族である兄を助けることなどしないだろう?」
「く──それはっ」
サリーはそれ以上言葉が出てこなかった。自分に絶対の信頼を寄せていると思っていたエイドリアンが自分を疑っている。
「ではな。サリー」
エイドリアンはサリーに背を向け、護衛と去っていった。
「私はミレナに負けたの……?あの何もできなかった女に。この私が……?」
始業のチャイムが無情に鳴った。呆然としたままサリーはその場に立ち尽くしていた。
「王太子殿下を救って陛下に感謝されたらしいわよ」
「弓の名人だなんて、本当に普通の令嬢なの?昔のミレナからじゃ想像もできないわよね」
視線が痛い……。
ミレナは普段会話を交わさないような生徒からも次々と挨拶をされ、教室にたどり着くまでしばらく時間がかかった。
「ねえ、ミレナ。今度一緒に弓の練習をしないか?」
令息たちが声をかけてくる。
「あ、あの」
困った……。
どこで習ったとか、いつから始めたとか、あれこれ詮索されたらボロが出てしまうかもしれない。
ミレナが戸惑っていると、ちょうどエイドリアンが教室にやってきた。
「君たちどきたまえ。僕の婚約者に馴れ馴れしいぞ」
「あ!エイドリアン殿下」
さあっと令息たちがミレナから離れた。
あら?
いつも一緒のサリーはいないの?
ミレナが怪訝な目を向けているとエイドリアンが、ごほん、とひとつ咳払いをした。
「い、今から一緒に……茶でも飲もう。学園のカフェテラスで」
え?
私のこと嫌いだったんじゃないの??
「本当、ですか?」
意外すぎてミレナは困惑し、思わず聞き返した。
「本当だ。君は僕の婚約者だしな」
「そう……ですが、でも」
誰かが「学園デートのお誘いね」と囁くのが聞こえた。
「なぜ私と?サリーはいいのですか?」
ミレナが疑問をぶつけるとエイドリアンは「あれはいいのだ」と言ってミレナの手をぐいと握った。
「きゃあ」と令嬢たちの小さな恥じらいの声があちこちから生まれた。
何なの、これ──!
ミレナは途中、すれ違いざま驚きながら振り返りこちらを見て囁き合う生徒たちの間を進みながら、エイドリアンに手を引かれカフェテラスへ到着した。
ミレナを椅子に座らせてから、ようやくエイドリアンはミレナから手を離した。
手、手汗をかいてしまった……。
ミレナは困惑を隠せないまま、どうすればいいか分からずテーブルに目を落としていた。
ついこの間まで私に冷たくしてたのに、この変わりようはなんなの?
王族ってみんなこうなのかしら。
釈然としない気持ちがミレナに広がった。
「どの紅茶が好みかな?」
押し黙っているミレナの気持ちにも気づかず、エイドリアンはメニューを見せながら好みを聞いてきた。
「……フルーツ系の紅茶が好きですわ」
「そうか。では、マスカットティーはどうかな?」
「……ええ、そちらで」
店でも高級なマスカットティーを置いている所は珍しく、さすが王族も通う学園だった。
妙なことになってしまったわ。
なんだかヴィクトール殿下に悪い気がしてしまう……。
ミレナはエイドリアンと向かい合って紅茶を飲みながら、寂しげなヴィクトールの顔がよぎった。
「あれはミレナとエイドリアン殿下……!?どうしてあの二人が!?」
その時、サリーが目を見開き、遠くからミレナたちを見ていた。
「エイドリアン殿下!」
ミレナとお茶を楽しんだ後、護衛と廊下を歩いていたエイドリアンをサリーが呼び止めた。
「なぜあんな女とご一緒にいらしたのです?何度も申し上げましたわよね、あの女が私にしてきた悪行の数々を……!」
「確かにそうだったな」
「では!」
サリーはエイドリアンが思い直してくれたと希望に満ちた目を向けた。
「だがよく考えてみたら、証拠がないではないか」
「え」
「ミレナがやったという証拠が一つもないではないか」
「そっ、そんな!殿下は私のことを信じてくださらないのですか!?あの女は、婚約者のエイドリアン殿下がいらっしゃるのに、殿下を軽んじて他の令息たちと風紀を乱すような行為を──!」
くるりとエイドリアンがサリーに向き直り、真っ直ぐにサリーを見た。一瞬、サリーはひるんだ。
「もし君が言うようにミレナが王族までも軽視していたのであれば、命の危険を冒してまで刺客から王族である兄を助けることなどしないだろう?」
「く──それはっ」
サリーはそれ以上言葉が出てこなかった。自分に絶対の信頼を寄せていると思っていたエイドリアンが自分を疑っている。
「ではな。サリー」
エイドリアンはサリーに背を向け、護衛と去っていった。
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