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8 ジュエリー店で
次の満月の夜、王宮で舞踏会が開かれることになった。
ミレナは新調したドレスに合わせて宝石を買いにメイドと街の高級ジュエリー店に出かけた。
「いらっしゃいませ。ようこそミレナお嬢様。お待ち申し上げておりました」
店長と店員たちがずらりと並び深々とミレナに礼をする。リズモンド侯爵家はこの店の上客だった。ミレナは店の一角にある上客用のソファー席に案内された。出された紅茶も香り高い一級品でさすが高級店だった。
店長が漆黒のビロードが張られたジュエリートレイをテーブルに運んできた。
「ブルーのドレスに合わせるには、やはりこちらがよろしいかと」
そう言って潔白の綿手袋をはめた手で、ミレナの目の前に慎重にサファイヤの首飾りを掲げた。新調したドレスの色を濃縮したかのような大つぶのサファイアだ。最高級のプラチナ台座に支えられ、随所に小粒のダイヤモンドが添えられたその宝石は高貴な輝きを放ち、まるでミレナを呼んでいるようだった。
「こちらなら、ミレナお嬢様の透き通った青い瞳にもよくお似合いになります」
ミレナはため息をついた。
「素敵ね……」
しかし、いったいいくらするのか。きっと目が飛び出るほどの高額なのだろう。ミレナが躊躇していると、気持ちを察したメイドが代弁するように言った。
「こちらをいただきましょう。ミレナお嬢様、よろしいでしょうか?」
「え!いいの!?」
ミレナは驚いてメイドに聞き返していた。
「もちろんでございます。ミレナお嬢様の身の回りのお品物にはいくらかけてもかまわないと、旦那様からお墨付きをいただいております」
すご……。
ミレナは呆気に取られていた。リズモンド侯爵家は鉱山や不動産開発でかなりの財を築いていた。
「承知いたしました。お包みして、後ほどお屋敷までお届けいたします」
店長がうやうやしく首を垂れた。
うちの家、すごいのね。
確かに屋敷も豪勢なわけだわ。
ミレナがあらためて感心していると、入り口からサリーが入店してきた。サリーは店の一角にいるミレナに気づかないまま、注文していた宝石を眺めている。
「ご予算からしますと、こちらがよろしいかと」
店員がジュエリートレイを示した。控えめに輝く、真紅のガーネットのペンダントだった。
「こっちはどうなの?」
サリーは赤い光を放つルビーのペンダントを指差した。
「ルビーですと、少々ご予算的に難しいかと……ガーネットは紅色のドレスにとてもよく合うと思いますよ。本当はこちらも少々予算オーバーなのですが、サービスさせていただきますよ」
「そう……」
残念そうにサリーが諦めの声を出した時、目の端にミレナの姿が入った。
「ミレナ!」
「ごきげんよう、サリー」
サリーは上客用のソファー席から出てきた店員が持つジュエリートレイを素早く盗み見た。そこにあったのは、とうてい男爵家では手が届かないような高価なサファイヤのネックレスだった。
ミレナはあんなに高額なネックレスを!?
それに比べて私は──
買おうとしていた自分のネックレスがひどくみすぼらしく見えた。
恥ずかしい。
サリーはあまりの羞恥心で血の気が引いていった。
うちにはお金がないのに、なんでこの女にはあるの!?
何にもできない甘ったれた令嬢のくせに、どうしていつも私よりいい思いをするの!!
サリーの脳裏に、先日目撃したエイドリアンとミレナが紅茶を楽しんでいる景色がよぎった。
サリーは羞恥心と怒りで、沸騰しそうなほど体の奥から熱い怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「────っ!!」
「あっ!お嬢様!?」
店員の声も無視したまま、サリーは店を飛び出していった。
「サリー!」
サリーの様子が妙に気になったミレナは急いで店の入り口から外を見た。ちょうどサリーが馬車に乗り込み、出発するところだった。
ちゃんとした御者ではなく、下顎の出た下男らしき男が不器用そうに鞭を打ち、馬車を出発させた。馬車は手入れが行き届かないのか、ところどころ塗料がはげ落ちマダラ模様を描いていた。
タイミングが悪かった気がする。
私が悪いわけではないのだけど。
ミレナは硬い表情で店を去ったサリーに、一日中、不穏な気持ちを拭えないまま過ごした。
ミレナは新調したドレスに合わせて宝石を買いにメイドと街の高級ジュエリー店に出かけた。
「いらっしゃいませ。ようこそミレナお嬢様。お待ち申し上げておりました」
店長と店員たちがずらりと並び深々とミレナに礼をする。リズモンド侯爵家はこの店の上客だった。ミレナは店の一角にある上客用のソファー席に案内された。出された紅茶も香り高い一級品でさすが高級店だった。
店長が漆黒のビロードが張られたジュエリートレイをテーブルに運んできた。
「ブルーのドレスに合わせるには、やはりこちらがよろしいかと」
そう言って潔白の綿手袋をはめた手で、ミレナの目の前に慎重にサファイヤの首飾りを掲げた。新調したドレスの色を濃縮したかのような大つぶのサファイアだ。最高級のプラチナ台座に支えられ、随所に小粒のダイヤモンドが添えられたその宝石は高貴な輝きを放ち、まるでミレナを呼んでいるようだった。
「こちらなら、ミレナお嬢様の透き通った青い瞳にもよくお似合いになります」
ミレナはため息をついた。
「素敵ね……」
しかし、いったいいくらするのか。きっと目が飛び出るほどの高額なのだろう。ミレナが躊躇していると、気持ちを察したメイドが代弁するように言った。
「こちらをいただきましょう。ミレナお嬢様、よろしいでしょうか?」
「え!いいの!?」
ミレナは驚いてメイドに聞き返していた。
「もちろんでございます。ミレナお嬢様の身の回りのお品物にはいくらかけてもかまわないと、旦那様からお墨付きをいただいております」
すご……。
ミレナは呆気に取られていた。リズモンド侯爵家は鉱山や不動産開発でかなりの財を築いていた。
「承知いたしました。お包みして、後ほどお屋敷までお届けいたします」
店長がうやうやしく首を垂れた。
うちの家、すごいのね。
確かに屋敷も豪勢なわけだわ。
ミレナがあらためて感心していると、入り口からサリーが入店してきた。サリーは店の一角にいるミレナに気づかないまま、注文していた宝石を眺めている。
「ご予算からしますと、こちらがよろしいかと」
店員がジュエリートレイを示した。控えめに輝く、真紅のガーネットのペンダントだった。
「こっちはどうなの?」
サリーは赤い光を放つルビーのペンダントを指差した。
「ルビーですと、少々ご予算的に難しいかと……ガーネットは紅色のドレスにとてもよく合うと思いますよ。本当はこちらも少々予算オーバーなのですが、サービスさせていただきますよ」
「そう……」
残念そうにサリーが諦めの声を出した時、目の端にミレナの姿が入った。
「ミレナ!」
「ごきげんよう、サリー」
サリーは上客用のソファー席から出てきた店員が持つジュエリートレイを素早く盗み見た。そこにあったのは、とうてい男爵家では手が届かないような高価なサファイヤのネックレスだった。
ミレナはあんなに高額なネックレスを!?
それに比べて私は──
買おうとしていた自分のネックレスがひどくみすぼらしく見えた。
恥ずかしい。
サリーはあまりの羞恥心で血の気が引いていった。
うちにはお金がないのに、なんでこの女にはあるの!?
何にもできない甘ったれた令嬢のくせに、どうしていつも私よりいい思いをするの!!
サリーの脳裏に、先日目撃したエイドリアンとミレナが紅茶を楽しんでいる景色がよぎった。
サリーは羞恥心と怒りで、沸騰しそうなほど体の奥から熱い怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「────っ!!」
「あっ!お嬢様!?」
店員の声も無視したまま、サリーは店を飛び出していった。
「サリー!」
サリーの様子が妙に気になったミレナは急いで店の入り口から外を見た。ちょうどサリーが馬車に乗り込み、出発するところだった。
ちゃんとした御者ではなく、下顎の出た下男らしき男が不器用そうに鞭を打ち、馬車を出発させた。馬車は手入れが行き届かないのか、ところどころ塗料がはげ落ちマダラ模様を描いていた。
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