星典 魔の章

カズミ

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優美の章

ある船の中で

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 ある夜に、船でパーティが行われていた。静かに流れるオーケストラの音。それに合わせるように、楽器を弾く動作をする人物がいた。しかし、彼女の手には何の楽器も無い。エア楽器というやつだ。だが、一目見れば誰もが見惚れるほどの美貌によって、その演奏は非常に様になっていた。が、おかしな部分が幾つかある。それは、この船に乗っている全員が、まるで彼女を認識できていないようなのだ。まるでそこにいないように、しかし人にぶつかられることもなく彼女とオーケストラの演奏は続く。
 曲が中盤に差し掛かった頃、突然大きな揺れが起きた。と、同時に侵入者を告げる放送が船内に響き渡る。流石に続けられないのか、彼女も演奏を止める。
「傍迷惑なお客さんね。」
と、その美貌に非常によく合う声で告げる。
「ちょっと、呼び込めって言ったのはそっちでしょ?」
と彼女にだけ聞こえる声が告げた。
「いいじゃない、少しは遊び心があった方が仕事も捗るわよ?」
「相変わらず。ま、ヘマしなければそれでいいや。取り敢えず時間通りにいるね。」
気だるげに話す声、これは通信魔法によるものだ。ただ、ジャックされないようにとても精巧な魔力操作で行われている。
「そっちも相変わらずね?大陸でも30人程度しか確認されてないような技術力は。」
「褒めても何も出やしないよ?」
そう会話する二人。しかし、軽い雰囲気とは裏腹に警戒自体は一切緩んでいない。
「取り敢えず集合だ。そこから正面左の扉を通って広間に出たら今度は正面右の扉を通過する。そこに居るから早めに来てね。」
「分かった、すぐ行くわ。」
そうやりとりすると散歩にでも行くような足取りで移動する。通路を通って広間に出て正面右の扉へ向かう。と、その時だった
「あら、随分としたお出迎えね。」
そういう彼女に殺気を向けているのは人の姿はしているものの、おおよそ人ではないとハッキリ分かる異形の存在だった。
「ほんと、神秘の眷属は何かと変な連中ばかりね。ま、いいわ。すぐに終わらせてあげる。だって…。」
そう言って腰に下げた武器に触れる。
「だって、あの人の計画にないものなんて、どうなってもいいもの!」
そう言って拳銃を抜いて異形の存在たちの額に向けて打ち込んだ。そして異形の存在たちが怯んだ隙を突いてその首を刈り取る。しかし、一人だけかろうじて生き延びたようで死ぬならばと特攻してくる。と、その時、空間に不思議な穴が空いたと思えば、生き延びた異形はどこかへと消えた。
「キュラソー、同僚の撃ち漏らしの片づけは私の仕事じゃないんだけど。」
「いいじゃない、アテネ。あなたの腕が落ちてないか、試したかったのよ。」
「そ、まあいいや。じゃあ任務再開といこうか。」
と、アテネという少女は言った。
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