異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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最初の町

食べて診ました

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 微睡んでいると部屋の扉がノックされる音で意識がはっきりとした。

「失礼します」

 扉の向こうから女性の小さな声がした。

「どうぞ」

 返事をしたら、扉が開いた。
 姿を見せたのは若い女性だった。一階で見た料理を運ぶ奥さんではない。年齢的に娘のようだった。

「お食事を……お持ちしました……」

 コホコホと咳混じりの台詞にホイムは訝しく思った。

「テーブルに置いておきます……食べ終わったら部屋の外に置いていてもらえれば……回収しますので」

 顔色も悪く元気もない。風邪かなにかだろうか。

「ごゆっくり……」

 そう言ってゆっくりと頭を下げた女性が出ていった。
 あの子の様子は気になったが、届けられた料理を前にしてすぐさま理性と眠気は吹っ飛ぶようだった。
 手を合わせるといただきますの言葉も忘れ、届いた料理にがっついた。
 お盆に乗せて運ばれてきた大皿一枚。中央に鎮座する大きな肉塊はフォークを刺せば肉汁が吹き出し、ナイフで切ればその肉厚さを前にすんなりとは切れないボリュームを持っていた。
 口に含めばなかなか噛み切れぬ肉からじゅわっと染み出す汁の旨味が口いっぱいに広がり、慌てるホイムはそのままごくんと呑み込み喉がつっかえそうになった。
 コップに入った水で流し込んだ後は添えられたポテトサラダを口にして、口内にしっかりと満ちた肉の風味を一旦和らげ、続いて色とりどりの野菜と絡むパスタをフォークに巻きつけ、一口でぺろり。

「――!?」

 体が子どもになったせいか味覚までもお子様になっていたらしく、しっかりと火の通った野菜から滲む苦味があっという間に舌に広がった。
 しかし次いで訪れる香辛料の鮮烈な刺激が口の中を真っ白に染め上げた後、甘辛な餡と絡んだパスタの甘みが全てを包み込んでいく。
 そしてまた肉を頬張り、水を飲み、お腹を満たし、肉を頬張り、肉を口にしたまま……ホイムは声を殺して咽び泣いた。
 自分やパーティのことを考えて力を隠したはずだった。それがいつしか役立たずのレッテルを貼られ、誰にも相談できず、お荷物や無能と揶揄され、いつしか心を閉ざしていった。
 やがてパーティの中にいながらにして、既に自分はそこに存在していなかった。心は凍てつき、何も表現しなくなり、極稀に何かされてもヘラヘラ笑って取り繕うか刺激しないよう黙ってやり過ごすだけの日々だった。
 クールぶったおっさんを演じてきたつもりが、孤独になり、子どもになり、心にゆとりができてしまったせいでこれまで抑え込んでいた感情の箍が外れてしまったのだった。

「今僕は……生きてる……生きてるんだ……!」

 美味しい肉と自分の生を噛み締めながら、ホイムは塩味の効いた料理を平らげた。



 料理を運んでしばらく経ったが、未だに部屋の外に食器類が出てこないことを妙に思った宿屋の娘・リナは、ホイムのいる部屋の扉をノックした。

「どうぞ」

 運んだ時と同じ返事がし、リナはそっと扉を開けた。

「お食事は……済みましたか……?」
「はい。とても美味しかったです」

 父親の料理が褒められることは素直に嬉しかったが、うまくそれを表情に出せないのは体調が優れないせいであった。

「やはり具合が悪いようですね」

 止まらぬ咳のせいでお客様に心配されてしまった。

「申し訳ありません」

 すぐさま頭を下げるリナに、ホイムはそっと声をかけた。

「少し診させてもらえませんか? ベッドに座ってください」
「え? でも……」

 突然の申し出に警戒したのか、または子どもだと侮って不安なのかはっきりはしないが、ホイムは彼女を安心させるものを見せた。

「これでもブロンズの冒険者です。多少は医学の心得もありますので」

 冒険者ギルドのギルドカード、それもブロンズ級となれば一般人からすればかなりの手練という認識になる。
 今度は驚きの表情を見せたリナだったが、ギルドカードという印籠が効いたのか、おずおずとホイムに近づいてすぐ傍のベッドに腰かけた。

「……ではお願い……します」
「はい。リラックスしてくださいね。お名前聞いていいですか?」
「リナです」
「僕はホイム。いつ頃から調子が悪く?」
「ここ数日……」
「何か変なものを口にしたとか、触ったとかは?」
「特に……思い当たるものは……」

 ふむと唸るホイムは、失礼しますと言って両手をリナの顔に伸ばした。

「んっ……」

 頬にそっと触れ、首筋を触る仕草を行う。
 触診しているようでもあるが、無論医学の心得などないホイムはそれっぽい仕草をでっちあげているだけである。

「分かりました」

 分かってない。

「この水を飲んでください」

 そう言うとホイムはコップをリナに手渡した。それは彼女が運んできた料理と一緒に運ばれてきたこの店のコップである。
 中には透明の液体。ただの水にしか見えないそれを、リナは不思議そうに窺っていた。
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