異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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獣狼族の森

集落に来ました

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 キャンプ地に残していた荷物や装備を回収した後、ホイムとアカネはルカの案内に従って森の中を歩いていた。

「ルカの集落はもうすぐ。いつも元気、でも今は暗い。夫なのにもてなせない……」
「いや……気にしなくっていいから、本当に」
「ホイム優しい! 夫で良かった!」

 ホイムの気遣いに嬉しくなるルカとは正反対に、ついて歩く二人の間にどんよりとした空気が流れていた。

「ホイム様……」
「なあに……?」
「こんなことになるとはアカネの失態……申し訳ありません」
「気にしなくっていいよ……本当に」

 平身低頭し謝ってくるアカネを諌めながら、身の丈にぴったりと合う服を着たホイムは訊ねる。

「アカネさんはドラゴンと戦ったことって?」
「流石にありません……ホイム様は?」
「僕はほら、後衛だし」

 お互い戦った経験のないモンスター。初体験の相手。
 一般的には巨大な体躯で空を飛ぶ羽の生えた生物であるが、もしかしたら今回のドラゴンは小柄かもしれないと希望的観測を抱きつつ、肩を落として二人は歩いた。

「ルカの里もうすぐ。着いたらすぐ仇を」

 そこまで言われたところでホイムとアカネはぴたりと足を止めた。

「アカネさん」
「ホイム様はお下がりください」

 少年を背中に庇うようにする少女。
 二人は向けられるいくつもの殺気を鋭敏に感じ取っていた。それもかなり強烈なものだ。もう一歩動いていたら攻撃されていたかもしれない。
 警戒を厳にする二人をよそに、ルカは大声で辺りに呼びかけた。

「カラ! カル! マーナ! ソナリ! 出てこい!」

 それは名前だったのか、呼びかけた直後に周囲の木々や茂みの奥から影が四つ、ホイムとアカネを囲むように飛び出してきた。
 獣耳にふさふさの尻尾。間違いなくルカと同じ獣狼族である。
 四肢を獣に変えて戦闘形態をとる平服を着た子ども四名。
 剥き出しの敵意を受けて背中合わせに立つホイムとアカネの表情は対象的だった。

「参ったな……何か怒らせてるみたいだ」
「ご安心を。獣族の子どもなどに遅れを取ることはありえません」

 困り顔のホイムに、今にも切り結びそうなアカネ。
 二人を差し置いていち早く動き、現れた四人の子どもの頭をポカポカと叩いていくのはルカだった。

「コラ!」

 ルカの叱責が飛ぶ。
 ゲンコツを食らった子ども達は頭を押さえてうずくまっていた。
 ホイムとアカネが呆気にとられていると、四人の中の二人が声を揃えて顔を上げた。

「だって」
「だって」

 同じ顔をした二人の獣狼族の少年。ホイムよりも……ホイムの外見よりも更に若い本当の少年である。

「ルカが裸で歩いてきて」
「捕まってると思ったもん」

 確かに二人の言う通り、ルカは自分の体毛で局部を隠しているだけである。それもホイムがそうしてとお願いしたからだ。
 四人の子どもはしっかりと上着やズボンを身に着けている。

「それは……裸で飛び出していったルカが悪かった」

 二人の子どもに責められて、ルカは素直に謝った。

「本当に悪いと思ってるの?」

 顔を上げた別の子どもがルカに詰め寄っていった。その女の子にぴったり引っついて、最後の一人も何も言わずにルカの側にいく。

「思ってる! だからちゃんと戻ってきた!」
「族長たちが亡くなってみんな不安なの。ルカまでいなくなったら、私たち……」

 その子の後ろに引っついていた女の子は今にも、というか既に涙を堪えきれずにいた。ポロポロと大粒の涙が溢れている。

「ごめん……マーナ、ソマリ。カラもカルも」

 女の子二人を屈んで抱きしめるルカに少年たちも近付いてギュッと抱きついていた。

「みんなルカみたいに強くない」
「みんなルカと同じくらい悲しい」
「仇を討ちたくて飛び出したのは分かるけど、今は駄目だよ……」
「……ルカ姉」

 しんみりとした空気に包まれる五人の獣狼族を見て、アカネは警戒を解いてホイムと顔を見合わせた。
 ホイムは黙って頷いて、アカネもそれにならって静かに様子を見守った。

「やれやれ……やっと戻ったかお転婆め」

 その時、森の奥からしわがれた老人の声がした。
 二人が顔を向けると、そこには杖をついた白毛の獣狼族の老人がいた。

「ロム爺! ……イタッ」

 名前を呼んだルカの頭に杖の先端がポコリと振り下ろされた。

「心配しとったのはその子らだけじゃ済まんぞ。勿論大人も含めみーんな心配しとったわい」
「……反省」

 ルカはすっかり大人しくなっていた。

「それはそうと……」

 そこでようやく老人の目が二人の人間に向けられた。その眼光は老いてなお鋭く輝くようであり、特にアカネはうなじの辺りがちりっとざわつくようであった。

「ほっほっほ。そちらのご夫婦は旅の方かね?」

 アカネはホイムの手を取った。

「素敵なご老人に違いありません!」
「あはは……そうかもね」

 アカネさんって単純にチョロいだけなんじゃ。
 とホイムは思うのだった。
 しかしながらルカが更に勘違いの爆弾をぶっこんでいく。

「こっちはアカネ! ホイムの妻! こっちはホイム! アカネの夫! ルカはホイムの妻になった! みんなで仇討ちにいく!」
「おやまあなんと……」

 ロム爺は驚いたように目を丸くし、子ども達はざわざわしはじめる。

「ルカが妻?」
「ルカが人妻?」
「人間の夫婦の妻……?」
「ルカ姉……?」

 誤解が広がりはじめるのを察知したホイムは言葉を正そうとした。

「いえ! あのですね僕らは」
「私が第一夫人です!」
「アカネさーん!?」

 どえらいことを言い始めた。

「ご安心ください。私とルカ殿の立場はしっかりと明確にしておきますので」
「違うでしょー! 僕ら結婚してないでしょー! どうして誤解広めるの!?」
「……いずれは」
「いずれ!? うんいずれはね僕は構わないけどね! 今は違うよね!?」

 ホイムの言葉にアカネは頬を染めてくねくねしだした。
 駄目だ今の彼女はポンコツ化している!
 ホイムが周囲を見た時には何故かルカは子ども達に胴上げされていた。

「おめでとう!」
「おめでた!」
「寂しかったんだね……!」
「ルカ姉……」

 誰か冷静に話を聞いてくれる人はいないのか……!
 ホイムが膨らみ続ける誤解に恐れ慄いているところに、ロム爺さんがそっと近付いてきた。

「ひとまず話を聞かせてくれんかね?」
「あ、はい。僕も聞きたいことがありますから」

 ホイムの心中を察してくれたのか、ロム爺さんは彼の肩に手を置いた。
 良かったこの人はしっかりと話を聞いてくれると安堵していると、親指を立てて告げてきた。

「獣族は一夫多妻オッケーじゃぞ」
「この人もポンコツかぁ~!!」

 ホイムは崩れ落ちた。
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