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獣狼族の森
再度戦います
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無論呪文の効果まで見抜かれたわけではないが、現状アカネとルカの身体能力が劇的に強化されているのは魔人自身がその身で感じているはずだ。
ホイムがここまで疲弊しているのは、青年が口にした高速多重詠唱の影響である。
多重詠唱は同一呪文を幾つも重ねがけして効果を上昇させる詠唱法であるが、一つ一つ呪文を唱える必要があるので発動までに時間がかかるし、何度も繰り返し呪文を呟くので正直かっこわるい。
その詠唱を一瞬で行う詠唱法が高速多重詠唱であり、熟練した術者なら使用できるものは少なくない。
多重詠唱の利点は初級魔法の攻撃呪文や回復呪文しか使えない者でも、幾重にも呪文を重ねることで中級魔法、更には上級魔法クラスの効果を発揮することができる点である。
しかし、魔力消費効率が悪いという重大な欠点がある。
初級魔法を二回唱えて使うより、中級魔法を一回唱えた方が威力、魔力消費量共に優れているのだ。
上級魔法の高速多重詠唱ならば必殺の呪文として成り立つが、初級魔法の高速多重詠唱など、自分は強い呪文を扱えない下手くそですと喧伝しているものであると、術者の間では言われている。
しかし。
ホイムのキュアならば話は別である。
攻撃力、防御力、速さなどを上昇させる魔法は個別に存在しているが、ホイムのキュア【強化】はそれらの効果を一つの強化魔法として発現するよう集約されている。
これにより他の術者が使う強化魔法より段違いに効率が良く、多重詠唱による消費魔力もかなり節減できているのだ。
とはいえ、その強化を二人にそれぞれ十回。合計二十のキュアを一度に放ったことになる。それによる精神力の消費は激しかった。
しかしそうでもしなければ魔人に対抗する力は得られないと感じ、二人の体が耐えられるであろうギリギリまで強化を施した。
これで対抗できなければ……。
顔を上げたホイムが見たのは、振り下ろされた拳の一撃で作られた大地の窪みの中央に伏すルカと、蹴り飛ばされて森の木々を何本も薙ぎ倒す吹き飛ばされたアカネの姿だった。
「……僕の一撃に耐えてくれる人間がいるなんて、感極まって泣いちゃうよ。素晴らしいよ君たちは」
魔人の青年は言葉通りに涙を一筋流して見せてから、スタスタとホイムの方へと近付いてきた。
「二人が……一撃?」
現実を受け入れられず、二人の身を案じて呆けるホイムだったがすぐに気を取り直した。
こうなったら自分に強化をかけ、相打ち覚悟で必殺の効果を持つ呪文を打ち込んで二人を助けなければ。
「クッ!」
ホイムが自分の身に手を当てたところで、魔人は足を止めた。
「おっと! 君にはこれ以上近付くのは止しておこうかな。どんなトリックを使ってるのか分からないからね」
魔人のスピードなら詠唱で生じる隙をついて攻撃することも可能だろうが、安直にそうしない慎重さも兼ね備えているようだった。
やっていることは大胆だが極力隙を見せてこない。
「君のこと教えてくれないかなぁ? 普通の回復呪文じゃないよね、興味深いねぇ」
それに加えて個人的な興味を抱いている様子。このまま魔人の興味を引いていれば、二人が体勢を整える時間が稼げるだろうか。
考えるホイムをよそに、青年は手を打って楽しそうに話す。
「そうだこうしよう! 今から実験するんで、それを止められるか試してみよう!」
そう言うと魔人は大地に手をついた。
それをきっかけにして、地面が光り輝く……いや闇に染まる……否、両方の変化が起きていく。
「な……一体、何をした!」
「言ったろう? 実験さ、実験。この魔法陣とドラゴンの死骸を使ってね」
魔法陣と言われてホイムはハッと気付いた。
地面を奔る光と闇はドラゴンの亡骸を囲むような巨大な円となり、互いに激しく反応しあい呪文を形成していく。
「君なら止めれるかなぁって思うけど。止められたら僕以外皆ハッピー、止められなかったら……僕以外皆消えちゃうかもねえ」
完全に遊んでいる。
何をしでかすつもりかまだ分からないが、相手がこちらを侮っている今が、チャンスでもあったかもしれない。
「止めてやる……お前の思い通りにさせてたまるか!」
「おいおい誤解。僕はどっちでもいいんだって……ま、止めてくれない方が手間がかからなくていいんだけど、止めてくれたら君の実力が少しは見えるし……おや? 止められちゃっても僕もハッピーだったかな?」
笑う男の背後に、鬼人の如き形相の二人が飛びかかっていた。
後ろ手で攻撃を受け止める魔人がゆっくりと背後を振り返る。
「貴様の息の根を止めてやる……!」
「お前、嫌い! 大嫌い!」
「寝てて良かったのにねぇ……じゃあ僕はこの子達と遊んでるから。まったねえ」
ひょいと跳んで魔法陣の外に出た魔人が指を曲げてアカネとルカを誘っていた。
「二人とも……無事だったの!」
「申し訳ありません。折角授かった力、どうも上手く制御できず」
「でも、慣れてきた!」
自身の感覚と実際に発揮される力の間に生じた齟齬。それが徐々に馴染んできているようだった。
「無茶だけはしないで。僕がこれを何とかするから、それまでは!」
「分かっております!」
「ぶっ飛ばす!」
アカネとルカは再度魔人へと斬りかかっていった。
ホイムは二人の後ろ姿から視線を振り切り、自分が行うべき魔法陣の解析へと着手した。
ホイムがここまで疲弊しているのは、青年が口にした高速多重詠唱の影響である。
多重詠唱は同一呪文を幾つも重ねがけして効果を上昇させる詠唱法であるが、一つ一つ呪文を唱える必要があるので発動までに時間がかかるし、何度も繰り返し呪文を呟くので正直かっこわるい。
その詠唱を一瞬で行う詠唱法が高速多重詠唱であり、熟練した術者なら使用できるものは少なくない。
多重詠唱の利点は初級魔法の攻撃呪文や回復呪文しか使えない者でも、幾重にも呪文を重ねることで中級魔法、更には上級魔法クラスの効果を発揮することができる点である。
しかし、魔力消費効率が悪いという重大な欠点がある。
初級魔法を二回唱えて使うより、中級魔法を一回唱えた方が威力、魔力消費量共に優れているのだ。
上級魔法の高速多重詠唱ならば必殺の呪文として成り立つが、初級魔法の高速多重詠唱など、自分は強い呪文を扱えない下手くそですと喧伝しているものであると、術者の間では言われている。
しかし。
ホイムのキュアならば話は別である。
攻撃力、防御力、速さなどを上昇させる魔法は個別に存在しているが、ホイムのキュア【強化】はそれらの効果を一つの強化魔法として発現するよう集約されている。
これにより他の術者が使う強化魔法より段違いに効率が良く、多重詠唱による消費魔力もかなり節減できているのだ。
とはいえ、その強化を二人にそれぞれ十回。合計二十のキュアを一度に放ったことになる。それによる精神力の消費は激しかった。
しかしそうでもしなければ魔人に対抗する力は得られないと感じ、二人の体が耐えられるであろうギリギリまで強化を施した。
これで対抗できなければ……。
顔を上げたホイムが見たのは、振り下ろされた拳の一撃で作られた大地の窪みの中央に伏すルカと、蹴り飛ばされて森の木々を何本も薙ぎ倒す吹き飛ばされたアカネの姿だった。
「……僕の一撃に耐えてくれる人間がいるなんて、感極まって泣いちゃうよ。素晴らしいよ君たちは」
魔人の青年は言葉通りに涙を一筋流して見せてから、スタスタとホイムの方へと近付いてきた。
「二人が……一撃?」
現実を受け入れられず、二人の身を案じて呆けるホイムだったがすぐに気を取り直した。
こうなったら自分に強化をかけ、相打ち覚悟で必殺の効果を持つ呪文を打ち込んで二人を助けなければ。
「クッ!」
ホイムが自分の身に手を当てたところで、魔人は足を止めた。
「おっと! 君にはこれ以上近付くのは止しておこうかな。どんなトリックを使ってるのか分からないからね」
魔人のスピードなら詠唱で生じる隙をついて攻撃することも可能だろうが、安直にそうしない慎重さも兼ね備えているようだった。
やっていることは大胆だが極力隙を見せてこない。
「君のこと教えてくれないかなぁ? 普通の回復呪文じゃないよね、興味深いねぇ」
それに加えて個人的な興味を抱いている様子。このまま魔人の興味を引いていれば、二人が体勢を整える時間が稼げるだろうか。
考えるホイムをよそに、青年は手を打って楽しそうに話す。
「そうだこうしよう! 今から実験するんで、それを止められるか試してみよう!」
そう言うと魔人は大地に手をついた。
それをきっかけにして、地面が光り輝く……いや闇に染まる……否、両方の変化が起きていく。
「な……一体、何をした!」
「言ったろう? 実験さ、実験。この魔法陣とドラゴンの死骸を使ってね」
魔法陣と言われてホイムはハッと気付いた。
地面を奔る光と闇はドラゴンの亡骸を囲むような巨大な円となり、互いに激しく反応しあい呪文を形成していく。
「君なら止めれるかなぁって思うけど。止められたら僕以外皆ハッピー、止められなかったら……僕以外皆消えちゃうかもねえ」
完全に遊んでいる。
何をしでかすつもりかまだ分からないが、相手がこちらを侮っている今が、チャンスでもあったかもしれない。
「止めてやる……お前の思い通りにさせてたまるか!」
「おいおい誤解。僕はどっちでもいいんだって……ま、止めてくれない方が手間がかからなくていいんだけど、止めてくれたら君の実力が少しは見えるし……おや? 止められちゃっても僕もハッピーだったかな?」
笑う男の背後に、鬼人の如き形相の二人が飛びかかっていた。
後ろ手で攻撃を受け止める魔人がゆっくりと背後を振り返る。
「貴様の息の根を止めてやる……!」
「お前、嫌い! 大嫌い!」
「寝てて良かったのにねぇ……じゃあ僕はこの子達と遊んでるから。まったねえ」
ひょいと跳んで魔法陣の外に出た魔人が指を曲げてアカネとルカを誘っていた。
「二人とも……無事だったの!」
「申し訳ありません。折角授かった力、どうも上手く制御できず」
「でも、慣れてきた!」
自身の感覚と実際に発揮される力の間に生じた齟齬。それが徐々に馴染んできているようだった。
「無茶だけはしないで。僕がこれを何とかするから、それまでは!」
「分かっております!」
「ぶっ飛ばす!」
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