異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

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獣狼族の森

弄ばれました

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 詠唱と魔法陣の役割はほとんど同じである。魔法を発動するプロセスにおいて、呪文を口頭で唱えるか式を描くか程度の差である。
 なので魔術に精通している者ならば、魔人が魔法陣でどんな魔法を行ったのかを解析することは難しくはない。
 しかし一度発動された魔法を止める術を持つ者は多くない。魔法を使わせないのなら発動する前に止める必要がある。詠唱ならば口を封じ、魔法陣なら描き出す前に止めるくらいしか手段がない。
 事前に、もしくは瞬時にその対抗策を打ち出さねばほとんど止めることはできない。発動してしまった魔法そのものの効果を打ち消せるのは、それこそ勇者や賢者、魔王といった選ばれし力を持つ者だけである。
 そして、ホイムは発動した魔法そのものを打ち消す手段をまだ獲得していない。発動された魔法に反対の属性や効果を持つ魔法をぶつければ帳消しにすることはできるが、それはあくまで相殺であり、魔法そのものを打ち消した、と言うことはできない。
 しかしながら、この魔法陣はその巨大さ故にまだ魔法を発動できていない。ならばホイムには止める手段があった。
 回復術を創造できるスキル。彼が唯一使える呪文であるキュアに様々な効果を与えるために使っているスキルだが、自分で効果を作って与えるだけでなく、既存の魔法の効果を解析してキュアに変換することもできる。
 ホイムは今、その解析能力で魔法陣を見破ろうとしていた。

「やっぱり二つ、魔法を使ってるな!」

 魔法陣に手をついて意識を集中するホイムの脳裏に、魔人が光と闇という相反して見える二つの陣を一つとして描き出した姿が蘇る。

「一つは……デスか」

 即死魔法。この呪文は、既にホイムが【絶命】として所持している。解析の必要はない。
 もう一つの魔法陣が描き出す呪文が見えてきた。

「……リザレクション」

 神聖魔法において最上級に位置する蘇生魔法。
 ホイムは【蘇生】を創造していないし触れたこともない。初めて触れる魔法である。
 ゼロから効果を創造する場合は、その効果が高ければ高いほど時間がかかるが、元になる魔法を解析してからの創造ならば時間を必要としない。
 ホイムが集中できていれば、だが。

「なんでこんな相反する呪文を……」

 生と死を混ぜ合わせた魔法陣がきちんと起動するのか、ホイムには分からない。これがドラゴンの亡骸を利用した実験ということなのか。
 余計な考えがホイムの集中を乱す。今は蘇生呪文の解析を急がなければと、大地についた両手に意識を傾ける。
 だがホイムの集中を乱すのはそれだけではない。
 視界の隅で懸命に戦っている二人と、嘲笑うように二人を弄ぶ魔人の姿に、どうしても視線が奪われてしまう。

「男の子を守るために戦う女の子、仇討ちを果たそうとする女の子、どっちもいいねぇ。愉しいよ……」

 恍惚とした表情を浮かべる魔人はアカネの斬撃を紙一重で避け、ルカの打突を片手でいなす。

「そうれ!」

 無防備になったルカの背に魔人の回し蹴りが直撃する。
 吐血し吹き飛ぶルカは、体の芯を折られるほどの威力を食らいながらも身を反転させ地面を足で捉える。

「風切!」

 魔人から離れた間合いでアカネが振るった忍刀から、カマイタチのような無数の風の斬撃が襲いかかっていく。
 【強化】によって格段に威力の増した風の刃は鋼鉄を裂き、金剛石すら欠くことができるだろう。

「心地いいそよ風だ。涼しいねぇ!」

 しかし風は魔人の肌を撫で掠り傷を追わせる程度にしかならなかった。
 反撃の拳がアカネを襲い、咄嗟に立てた忍刀で真正面から拳を受ける。
 刃が拳を斬り裂くこともなく、押し返された刀の峰がアカネの体に食い込んだ。

「ぐああッ!」

 忍刀は折れ、アカネの体は吹き飛ばされて転がった。

「儚く脆いね、人族は」

 憐れむような魔人の背後に、苦痛で顔を歪めながらも両手を振り上げ渾身の一撃を放つルカの姿が現れた。

「潰れちゃえ!」

 振り下ろした両手が地面に大穴を穿った。魔人はルカの隣に立ち、彼女の頭に手を置いていた。

「危ないなあ。当たってたら君の細腕が潰れてたよ?」

 そのままルカの頭で地面を砕き、地を滑らすように倒れるアカネのもとに投げつけた。
 地面に擦り下ろされた痛々しい顔を、ホイムはもう見ていられなかった。

「ルカ……まだいけるだろう?」
「心配ない、ルカは戦士……なんてことない!」

 まだ立ち上がろうとする二人に、魔人は人差し指を向け、その先に極小の魔法陣が描き出された。

「バァン!」

 同時に空気を切り裂く雷光がアカネとルカの体を貫き、ついに二人は膝から崩れ落ちてしまうのだった。
 交わる毎に傷を刻まれていくその姿を見ていることなど、もうできなくなっていた。

「やめろ……!」

 とうとうホイムは魔法陣から手を離した。すぐにでも二人の元へ行き、その身を治療するために駆け出そうとした。
 そこでホイムの体は硬直した。

「……」

 ゆっくりと横に視線を向けると、いつの間にか、そこには青年とは別の魔族が立っていたのだ。
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