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パルメティの街

戦いました

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 アカネとルカが百合百合しい雰囲気になりそうもない頃、ホイムとエミリアも男女の雰囲気にななりそうもなかった。
 一体どこまで歩けばいいのか判然としない中で、ホイムは少し気になったことを口にした。

「そういえばエミリアさんの頬の傷……」
「これがどうした?」

 足を止めずに振り返るエミリアの左頬にある古傷を見ながら、ホイムは続けた。

「さっきキュアをかけた時、治りませんでしたね」
「治るものなのか?」
「僕の魔法は古傷の痕も治します。アカネさんもそうでしたから」
「ふむ。傷の治癒か……」

 エミリアは少し考えてから、笑ってホイムに伝えた。

「ならばこれは治ることはないな」
「何故ですか?」
「私はこれを傷とは思ってはいない」

 その言葉を疑問に思うホイムだったが、続く言葉に納得させられた。

「これは姫様を守る時についたもの……守護する騎士としては勲章、誉れだ」
「……理解しました」

 彼女にとっての古傷はアカネのものとは違い誇らしいものであるのだ。それを消してしまうのは、彼女にとってありえないことであった。

「おかげで騎士団を辞めた後の嫁の貰い手もなさそうだが」

 そう言いながらも気にしていないと剛気に笑うエミリアに、ホイムも愛想笑いを浮かべるしかなかった。

(美人なんだけどなあ……)

 胸中でそう言ったのは、今口にしても真剣には受け取られないかと感じたからであった。
 エミリアとホイムは先程から上り坂となった通路を進んでいた。
 上に向かっているということは、落ちてきた地点に少しは近づいているのかもしれない。
 と、二人は同時に足を止めた。

「気付いたか?」
「ええ」

 二人は通路の先をキッと見据えた。

「前から来ている」
「後ろから来てます」
「……」
「……」

 挟み撃ちであった。

「何故後ろから来る!?」
「分かりませんよ!」

 エミリアは盾を、ホイムは腰を落として身構えた。
 彼女の言う通り前方から敵が来るならば分かるが、後方は確かに不可解であった。骨の廃棄場からここまで一本道であったはずだが、隠し通路の見落としなどあったのであろうか。
 疑問に対する答えは、姿を現した魔物を見てはっきりとした。
 カタカタと軽いものが擦れ合う不気味な音。淡い光球が照らす範囲に踏み込んできたのは、歩く人骨であった。

「スケルトンか!」

 さっきまでいた骨の山にあったモノの中に、魔物が息を潜めて機会を伺っていたに違いない。

「ああ。正面もだ」

 エミリアが相対しているのもスケルトンの群れである。ただし前後の集団で違いがあるのは、ホイムが対する後方の魔物は朽ち果てた装備品しか纏っていないのに対し、エミリアが迎え撃つ前方の魔物は比較的上等な槍や防具を装備する上級種であった。

「そちらは任せても!?」
「問題ない。さっさと片付けて君を手伝おう」
「それには及びませんよ!」

 二人はそれぞれ眼前の集団へ向かっていった。
 ホイムが相手にする魔物の群れは数以外に驚異はなかった。そしてこの広くはない一本道の通路なら、一瞬で決めてしまえる呪文があった。

「キュア【聖光】!」

 両手を重ねて唱えた呪文は文字通り聖なる光を放つ魔法。
 二人の頭上に浮かぶ光球とは光の性質が全く異なっている。
 周囲を明るく照らす光ではなく、白い閃光と称せる眩き光の波動である。ホイム達が通ってきた道を遡り、骨捨場まで届く程の強烈な光の奔流が襲いかかる。
 光を浴びたスケルトン達は灰となった遺骨のようにさらさらと、塵と化して消えてゆく。
 攻め入らんとする大群に手も足も骨も出させぬ、まさに先手必勝の一撃であった。
 系統としては神聖魔法に属し魔力をそれなりに消費してしまうホーリーライトの呪文になるが、ホイムの手にかかれば初級の回復魔法であるキュア一発分の魔力で済むのであった。
 ものの数秒で決着をつけたホイムは、すぐさま後ろを振り向いた。
 どうですか言った通り手伝いには及びませんでしたよと少し得意気な表情でエミリアを見やったが、すぐさま驚いたような呆れ果てたような顔へと変貌してしまった。

「はぁッ! たあッ!」

 剣を使わぬエミリアは、スケルトンを一体ずつ、盾で壁に圧殺していた。一歩進む毎に一体のスケルトンが潰されている。
 ボキバキベキと骨と防具を諸共に潰して進んでいく様は、止まることのない重戦車のような迫力をホイムに見せつけていた。
 敵を倒すと同時に進路を切り開くエミリアの後ろをとことことついていくホイム。やがてエミリアが一息つくと、

「これで終い、だ」

 最後の一体に向けて盾を振り下ろし、地面にバラバラに砕けたスケルトンの遺骨ができあがった。

「……お見事」

 パチパチと手を鳴らすホイムは、結構先へと進めていることに気付いていた。上り坂が終わっていたのだ。
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