異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし

文字の大きさ
92 / 131
パルメティの街

保留しました

しおりを挟む
「わ、私は冷静だ!」
「ほら。大声出して感情的じゃないですか?」
「んぐっ……」
「今は初めての経験が続いて、気持ちが昂ぶってるんですよ。それに二人っきりだし……吊り橋効果ってやつですね」

 実際に肌を重ねた後なのだから吊橋もクソもない気がするが、とにかくエミリアを宥めるべくホイムはあれこれペラペラ言葉を紡いだ。

「……私の気持ちが勘違いだと?」

 ようやく語りかけた効果があり、エミリアも自分の気持ちが一時的な気の迷いなのではないかと疑義を抱いてくれたようだ。
 だがホイムは彼女の抱いた気持ちを否定することは言わない。それが真実であるかもしれないからだ。

「それを確かめるには時間が必要だと思います。僕もエミリアさんも少し間を開けて、それでも好きって気持ちが消えなかったら……本当に好きなんじゃないですかね?」
「今僕もって言った?」
「あれ? 言いました?」

 ホイムは自覚していなかった様子である。知らず知らず本音が漏れてしまったのかと思い、照れたように顔を背けた。

「……分かった。君の言うことに従おう」

 そんなホイムを見たからなのか、エミリアは今回の件について一旦引き下がる事を口にした。

「これ以上は君も困るようだし……今は早くパルメティに戻らないといけないから」
「そ、そうですね! アリアスさんも心配ですし!」

 いつまでも惚れた腫れたに固執していては帰路も進まない。

「ああ。今回の騒動に片がつくまで、君の返事は訊かないようにしておこう」

 裏を返せばその時までにエミリアの気持ちが変わらないならばホイムも誠心誠意の答えをしなくてはならない。

「分かりました」

 彼女が本気なら、彼も本気だ。どういう答えを返すかにしろ、真剣に考えておかないととホイムは頷くのだった。

「体を洗いましょっか。昨日の夜に外に置いてた桶が」

 今は止んだ雨水がいくらか貯まっていることだろう。ホイムは先んじてテントから出ようとしたが、

「ちょっと待て」

 とエミリアに呼び止められたので振り返った。

「ほにょッ?」

 すると片手で両頬を押さえられ、ひょっとこのような口になったところへ有無も言わさず吸い付かれたのだった。

「…………ぷはっ」

 しばらく無言で唇を重ねてから解放され、突然の行為にドギマギするホイムに対して、

「私の体を初めて弄んだのは君だからな。忘れるなよ?」

 といたずらっぽく微笑んだエミリアは立ち上がる。

「先に浴びさせてもらおう」

 そう言ってホイムを置いてテントから出ていくのだった。
 残されたホイムは微動だにできず、外へ行くエミリアの後ろ姿とお尻をしっかりと目に焼き付けることしかできなかった。

「…………惚れそう」

 エミリアの魅力に惹かれそうになるホイムは紅くなる顔を手で覆い、体の一部だけぴょこんと動かしながら彼女の水浴びする音を耳を澄ませてじっと聞くのだった。



 すっかり調子を取り戻したエミリアと共にパルメティへの帰路を急ぐホイム。しかしながら昨日までとは別の緊張感に似た空気が二人の間に流れてしまっていたので、少しだけギクシャクした帰り道になってしまっていた。
 自然と急ぎ足になっていたせいか、想定していたより早く二人はパルメティへと辿り着くことができた。
 時刻は正午過ぎ。天高く太陽が輝く頃合いである。
 番兵へギルド依頼のモンスター討伐から戻った旨を伝えると挨拶もそこそこに、二人は急ぎホイムがこの街で活動の拠点としている宿屋へと向かった。

「連れの仲間なら部屋で待ってるぞ」

 宿屋の主人が一階にある食堂のカウンターからそう告げてきた。その表情が怪訝そうなのは、二人が担ぎ込んだ女性のことを知っているからであろう。

「ご迷惑をおかけします」

 ホイムとエミリアは頭を下げて謝罪と感謝をしつつ、二階の宿泊部屋へと向かった。
 アカネとルカの泊まる一室に駆け込んだホイムが見たのは、二つあるベッドの一つに横たわるアリアス、すぐ脇に立つアカネと足を開いて椅子に座るルカの姿だった。

「戻りました!」
「遅くなった」

 遅れて街に戻ってきたホイムとエミリアに、

「お帰りなさいませ」
「待ってた!」

 アカネとルカも応じるがすぐにエミリアはアリアスの寝るベッドへと駆け寄った。
 すやすやと静かに寝息を立てるアリアスに大声をかけることをせず、じっと様子を窺っている。

「宿屋の主人の計らいで医師の方に診ていただきましたが、特に以上はないとのことです。極度の疲労から深い眠りについているので、自然に目覚めるのを待つほかないと」
「そうか……」

 しばらくアリアスの顔を覗き込んでいたエミリアは、安堵からかフラフラと隣のベッドに近付きギシッと腰を下ろした。

「一先ずアリアスさんは無事ってことで、一安心ですね」
「ああ……ああ」

 エミリアはそのまま項垂れるように深々と頭を下げた。

「改めて礼を言う。三人共……ありがとう。私の頼みを聞いてくれて」

 三人は顔を見合わせて笑みを浮かべた。こうしてエミリアに助けとなりアリアスを救えたことを喜ばしく思ったのだ。
しおりを挟む
感想 180

あなたにおすすめの小説

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳
ファンタジー
庭付き一戸建て住宅ごと召喚されたせいで、召喚に失敗。いったん、天界に転送されたジュンは、これからどうしたいかと神に問われた。 「なろう」さまにも、以前、投稿させていただいたお話です。 ペンネームもタイトルも違うし、かなり書き直したので、別のお話のようなものですけれど。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...