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パルメティの街
一旦別れました
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だが、すぐにホイムは表情を引き締めた。
「けれどこれで終わりじゃありません」
その言葉にエミリアは顔を上げ、アカネとルカは表情を固くした。
「フラシュへ行き、魔人バルバドを討たなくちゃならない。それでようやく黒幕の討伐になります」
エミリアの依頼はアリアスの救出だけでなく、黒幕の討伐も含まれていた。ホイムは律儀にそれも守るつもりであるし、エミリアを独りで行かせはしないと事前に意思表明していた。
「ああ、もうしばらく迷惑をかける」
「いいえ、迷惑なんかじゃありません」
そして視線を交わすホイムとエミリア。ほんの少し親密さの増したようなやり取り。
ムムム。
アカネの目の黒いうちはそういうことは見逃さないぞ。
「だがアリアスをここへ独り残すわけにもいくまい」
「そうですね。だから」
ホイムはアカネとルカへと視線を向けた。昨日別れる直前に二人へ告げていたことが思い出される。
「二人はここへ残ってアリアスさんの面倒を見てもらえますか?」
アカネとルカは目を閉じてその言葉の意味を受け入れているようであった。
魔人バルバドと対峙した時の二人の様子はホイムも目にしていた。
戦意を抱けず挫けそうになっていた二人を魔人が待ち構える地へと連れて行っていいものかどうか、ホイムは判断しかねていた。
だから彼女らが共に来れない時は、ここでアリアスの世話をしていてもらおう……部屋を借りている彼女たちが一緒なら宿屋の主人も承諾してくれるだろうとの考えもあった。
やがて二人は顔を見合わせて頷いた。意志を決めたのだろう……はたまたそれは始めから決まっていたのかもしれない。
「もちろんそれは」
「断る!」
「私たちも共に行きます」
「あいつ悪い奴。許せない」
そう答えが返ってくることをホイムは分かっていたのか、彼女らの決心を汲み取ったからなのか、同行を拒絶する真似はしなかった。
「じゃあ一緒に行きましょう」
「ええ」
「うん!」
だが口を挟んだのはエミリアであった。
「しかし大丈夫なのか? 戦えなければ……いや、戦えたとしてもお前たちを守るだけの余裕はおそらくないぞ?」
二人が前回戦えなかったことはエミリアも承知している。そして彼女は特に意識して口にしたわけではないが、あくまで二人を守る対象として認識していた。
それは仕方のないことだったろう。そして二人も重々承知していた。
栄えある聖華騎士団筆頭騎士にとっては、彼女らは肩を並べて戦うだけの実力者と見なしてはなかったのである。
下手をすればプライドを傷つけられ怒りを買いかねない発言であったかもしれないが、その言を受けて尚アカネとルカの二人は不敵に笑うのであった。
「どうしたの……?」
心配になったホイムが声をかけると、自信に満ちた二人の言葉が返ってきた。
「ご心配なく」
「心配いらない!」
「我々には秘策があります故」
「秘策あり!」
「ほう? それは頼もしいな」
エミリアは感心した。決して彼女たちを侮っているわけではないので、その二人が自信満々に言うということは信じるに値する策があるのだろうと納得していた。
だが、ホイムは二人の視線を一身に受けて背筋がぞくりとするのであった。
「…………で、でもそうするとアリアスさんのことはどうしましょうか」
感じた怖気を振り払うように話題を変える。
実際、アリアスを看る者がこれでいなくなってしまうのだ。彼女だけここに残していくのも忍びないし不安である。
「それについては私にいい考えがある」
まるで頼りになる司令官のような発言をしてくれたのはエミリアである。
「一日時間をくれないか? 急ぎフラシュへ発ちたいのは山々だが、少し時間が必要なんだ」
「分かりました。その間に僕らは出立の手はずを整えておきます」
「では明日の朝、この宿で会おう」
腰を上げたエミリアはホイム達を残して一人別行動を取ることになった。
「一体どのような考えでしょうか?」
「それは分かりませんが、信じて待ちましょう」
ホイムはアカネとルカに目配せし、これからのことを相談した。
「じゃあ僕らも準備を……と言っても、特にやることはないですかね?」
「食材や薬品の調達くらいでしょうか」
「休む!」
「はいはい休むのも大切ですがルカは私と一緒に買い出しに行くんですよ」
「初耳!」
「今言いましたから」
「なら僕も」
ルカを連れて行くアカネに付き添おうとするホイムに向け、彼女は小さく傅いた。
「いいえ二人で大丈夫です。ホイム様は昨晩からお疲れでしょう? しっかりとお休みになられていてください」
その言葉にホイムはギクッとしてしまう。
何故昨日の晩などと時間を指定して言ってきたのか。まるで何をしていたかを知っているかのような口ぶりである。
「それでは」
困惑するホイムをよそに、平然とした様子のアカネはルカと共に部屋を後にした。
しばし立ち尽くしていたホイムであったが、やがてアリアスの様子も問題ないと判断するともやもやした思いを抱きながらも自身の借る一室へと戻り休むことにするのだった。
「けれどこれで終わりじゃありません」
その言葉にエミリアは顔を上げ、アカネとルカは表情を固くした。
「フラシュへ行き、魔人バルバドを討たなくちゃならない。それでようやく黒幕の討伐になります」
エミリアの依頼はアリアスの救出だけでなく、黒幕の討伐も含まれていた。ホイムは律儀にそれも守るつもりであるし、エミリアを独りで行かせはしないと事前に意思表明していた。
「ああ、もうしばらく迷惑をかける」
「いいえ、迷惑なんかじゃありません」
そして視線を交わすホイムとエミリア。ほんの少し親密さの増したようなやり取り。
ムムム。
アカネの目の黒いうちはそういうことは見逃さないぞ。
「だがアリアスをここへ独り残すわけにもいくまい」
「そうですね。だから」
ホイムはアカネとルカへと視線を向けた。昨日別れる直前に二人へ告げていたことが思い出される。
「二人はここへ残ってアリアスさんの面倒を見てもらえますか?」
アカネとルカは目を閉じてその言葉の意味を受け入れているようであった。
魔人バルバドと対峙した時の二人の様子はホイムも目にしていた。
戦意を抱けず挫けそうになっていた二人を魔人が待ち構える地へと連れて行っていいものかどうか、ホイムは判断しかねていた。
だから彼女らが共に来れない時は、ここでアリアスの世話をしていてもらおう……部屋を借りている彼女たちが一緒なら宿屋の主人も承諾してくれるだろうとの考えもあった。
やがて二人は顔を見合わせて頷いた。意志を決めたのだろう……はたまたそれは始めから決まっていたのかもしれない。
「もちろんそれは」
「断る!」
「私たちも共に行きます」
「あいつ悪い奴。許せない」
そう答えが返ってくることをホイムは分かっていたのか、彼女らの決心を汲み取ったからなのか、同行を拒絶する真似はしなかった。
「じゃあ一緒に行きましょう」
「ええ」
「うん!」
だが口を挟んだのはエミリアであった。
「しかし大丈夫なのか? 戦えなければ……いや、戦えたとしてもお前たちを守るだけの余裕はおそらくないぞ?」
二人が前回戦えなかったことはエミリアも承知している。そして彼女は特に意識して口にしたわけではないが、あくまで二人を守る対象として認識していた。
それは仕方のないことだったろう。そして二人も重々承知していた。
栄えある聖華騎士団筆頭騎士にとっては、彼女らは肩を並べて戦うだけの実力者と見なしてはなかったのである。
下手をすればプライドを傷つけられ怒りを買いかねない発言であったかもしれないが、その言を受けて尚アカネとルカの二人は不敵に笑うのであった。
「どうしたの……?」
心配になったホイムが声をかけると、自信に満ちた二人の言葉が返ってきた。
「ご心配なく」
「心配いらない!」
「我々には秘策があります故」
「秘策あり!」
「ほう? それは頼もしいな」
エミリアは感心した。決して彼女たちを侮っているわけではないので、その二人が自信満々に言うということは信じるに値する策があるのだろうと納得していた。
だが、ホイムは二人の視線を一身に受けて背筋がぞくりとするのであった。
「…………で、でもそうするとアリアスさんのことはどうしましょうか」
感じた怖気を振り払うように話題を変える。
実際、アリアスを看る者がこれでいなくなってしまうのだ。彼女だけここに残していくのも忍びないし不安である。
「それについては私にいい考えがある」
まるで頼りになる司令官のような発言をしてくれたのはエミリアである。
「一日時間をくれないか? 急ぎフラシュへ発ちたいのは山々だが、少し時間が必要なんだ」
「分かりました。その間に僕らは出立の手はずを整えておきます」
「では明日の朝、この宿で会おう」
腰を上げたエミリアはホイム達を残して一人別行動を取ることになった。
「一体どのような考えでしょうか?」
「それは分かりませんが、信じて待ちましょう」
ホイムはアカネとルカに目配せし、これからのことを相談した。
「じゃあ僕らも準備を……と言っても、特にやることはないですかね?」
「食材や薬品の調達くらいでしょうか」
「休む!」
「はいはい休むのも大切ですがルカは私と一緒に買い出しに行くんですよ」
「初耳!」
「今言いましたから」
「なら僕も」
ルカを連れて行くアカネに付き添おうとするホイムに向け、彼女は小さく傅いた。
「いいえ二人で大丈夫です。ホイム様は昨晩からお疲れでしょう? しっかりとお休みになられていてください」
その言葉にホイムはギクッとしてしまう。
何故昨日の晩などと時間を指定して言ってきたのか。まるで何をしていたかを知っているかのような口ぶりである。
「それでは」
困惑するホイムをよそに、平然とした様子のアカネはルカと共に部屋を後にした。
しばし立ち尽くしていたホイムであったが、やがてアリアスの様子も問題ないと判断するともやもやした思いを抱きながらも自身の借る一室へと戻り休むことにするのだった。
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