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王都フラシュ
消し飛ばしました
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「ホイム様。敵が来ます」
ここへ至ってようやく相手方が動き出したようだ。いち早く異変を察知したアカネが城の方を指差している。
「あちらから邪気が無数に押し寄せています」
「そうですか……」
ふらりと立ち上がったホイムはアカネの示す方を一瞥した。
「アカネさんはすぐに東へ向かってください。残されている騎士団の方が心配です」
「この場は?」
「三人で充分です。行ってください」
「承知しました」
主の言いつけを聞いて手筈通りアカネが地下へ続く場所へと向かう前に、ホイムはてくてくと近付いて思いっきり胸に顔を埋めた。
突然の出来事にアカネは一瞬驚いたが、力強く抱きついたホイムは彼女が平静さを取り戻すより早く離れた。
「……少し冷静になりました」
そう告げるホイムの瞳には、まだ怒りに燃える炎が燻っているようであったが、先刻までより気持ちは大分落ち着いていた。
「お役に立てて光栄です……が、ここは怒りに任せて敵を蹴散らしても良いのではないですか?」
彼女の言う事も尤もである。しかし、である。
「それは僕の役目じゃないですから」
その言葉で全てを察したアカネは主の気遣いに感心しながら、敵襲が到来する前に急ぎ自分の役を果たすために動き出した。
「気を付けてください」
「ホイム様も……ルカもどうかご無事で」
闇に紛れるように姿を消したアカネの気配を見届けた後、ホイムはルカに声を掛ける。
「ルカは広場から離れないように戦って。この人たちの傍には僕がいるから」
「分かった!」
拳をガンガン撃ち合わせて気合を入れる彼女の容姿が半人半獣の戦闘形態へと変化していく。美しい銀毛が四肢と秘部を覆い、耳をピコピコ尻尾をブンブン振り回す。
「エミリアさん」
高台の上から呼びかける。俯き加減だった彼女の顔がかすかに動いた。
前髪の合間から僅かに覗くその瞳にホイムは息を呑んだ。
怒りという言葉だけでは表すことのできない激しい感情が渦巻く眼光は、目が合うだけで竦んでしまいそうであった。
「……城の方から多数の魔物が向かってきてるそうです。広場に雪崩込まれると厄介かもしれません」
「分かった」
たった一言返事をしたエミリアは広場の北へ進み城へ続く薄暗い大路を前にして抜剣した。
広場を護るように立ちはだかる彼女の背中に頼もしさを覚えるホイムは、同時に不安でもあった。
「エミリア辛そう」
彼の傍らで同じくエミリアの背を目にするルカは、その胸中の清濁併せ呑む感情の渦を感じとりそう評した。
「そうだね。だからまずはこの子たちを守り抜こう」
女性騎士たちの容態を見守りながら呟くホイムは、更に付け加える。
「それと、彼女の溜め込んだモノを今は思い切り吐き出してもらわないと……」
大通りの向こうからざわざわと地鳴りのような音が聞こえてくる。アカネが警告していった通り、数多の魔獣や魔物の類が石畳を埋め尽くすようにうじゃうじゃと波打ち押し寄せてくる。
それを前にたった一人で立ち塞がるエミリアは右手に備えた聖なる剣を天高く掲げる。
雷鳴。
魔物が奏でる地上の騒音を掻き消す轟音が大気を震わせ、暗雲を切り裂く雷光がエミリアの剣へ降り注ぐ。
「いッ!」
「うるさい!」
ホイムは耳を塞ぎ、聴力の勝るルカに至っては雷様からへそを守る子どものように丸まって音を遮ろうとする。
薄暗かった王都に広場を中心とした真っ白な光が溢れる。
それは人を温かく包む日光や静かに見守る月明かりとは全く違う、凄絶にして鮮烈に輝き叫ぶ、力強い光であった。
「――」
バリバリと雷音が弾ける中でエミリアは何事かを呟いた。誰にも聞こえぬ怒りの言葉、恨み辛み、そして雄叫び。
大通り目がけ、長大な稲妻を纏った剣が振り下ろされる。
王都への侵入者が広場で凄惨な光景を目にしたところで魔人の指示で城から放たれ、大通りに溢れかえっていた魔物の大多数は頭上から迫る雷槌が最後に目にした光景であった。
光が到達した刹那には、道を埋め尽くしていた邪な命の数々は消し炭と化していた。
「ハア……ハア……!」
感情に任せて必殺の一撃を放ったエミリアは呼吸を大きく乱していた。その威力から消耗の大きい技であることも確かであろうが、痛めつけられた仲間の姿を目にしたことに因る感情のブレが必要以上に力ませてしまった面もあった。
そして疲弊は隙になる。
空から聞こえる怪鳥音が肩を喘がせるエミリアへと強襲してくる。
雷撃から逃れた無数の手練、その中でも背に生えた羽根で空を自在に飛ぶ人型の魔物ガーゴイルが三体、構えをとっていないエミリア目がけて襲いかかる。
「くっ!」
盾を体の前に、剣を横に構えて迎え撃たんとするエミリアの目の前で、三体のガーゴイルはまとめて首を蹴り飛ばされて明後日の方向へと墜落していった。
「エミリア凄い。ルカは驚いた」
雷鳴のショックから立ち直ったルカである。
雷が止んで顔を上げたところでエミリアが危ないと見るやいなや、一足飛びに飛び出して空中で三度の蹴りを同時に放ってガーゴイル達をまとめて始末したのだった。
ここへ至ってようやく相手方が動き出したようだ。いち早く異変を察知したアカネが城の方を指差している。
「あちらから邪気が無数に押し寄せています」
「そうですか……」
ふらりと立ち上がったホイムはアカネの示す方を一瞥した。
「アカネさんはすぐに東へ向かってください。残されている騎士団の方が心配です」
「この場は?」
「三人で充分です。行ってください」
「承知しました」
主の言いつけを聞いて手筈通りアカネが地下へ続く場所へと向かう前に、ホイムはてくてくと近付いて思いっきり胸に顔を埋めた。
突然の出来事にアカネは一瞬驚いたが、力強く抱きついたホイムは彼女が平静さを取り戻すより早く離れた。
「……少し冷静になりました」
そう告げるホイムの瞳には、まだ怒りに燃える炎が燻っているようであったが、先刻までより気持ちは大分落ち着いていた。
「お役に立てて光栄です……が、ここは怒りに任せて敵を蹴散らしても良いのではないですか?」
彼女の言う事も尤もである。しかし、である。
「それは僕の役目じゃないですから」
その言葉で全てを察したアカネは主の気遣いに感心しながら、敵襲が到来する前に急ぎ自分の役を果たすために動き出した。
「気を付けてください」
「ホイム様も……ルカもどうかご無事で」
闇に紛れるように姿を消したアカネの気配を見届けた後、ホイムはルカに声を掛ける。
「ルカは広場から離れないように戦って。この人たちの傍には僕がいるから」
「分かった!」
拳をガンガン撃ち合わせて気合を入れる彼女の容姿が半人半獣の戦闘形態へと変化していく。美しい銀毛が四肢と秘部を覆い、耳をピコピコ尻尾をブンブン振り回す。
「エミリアさん」
高台の上から呼びかける。俯き加減だった彼女の顔がかすかに動いた。
前髪の合間から僅かに覗くその瞳にホイムは息を呑んだ。
怒りという言葉だけでは表すことのできない激しい感情が渦巻く眼光は、目が合うだけで竦んでしまいそうであった。
「……城の方から多数の魔物が向かってきてるそうです。広場に雪崩込まれると厄介かもしれません」
「分かった」
たった一言返事をしたエミリアは広場の北へ進み城へ続く薄暗い大路を前にして抜剣した。
広場を護るように立ちはだかる彼女の背中に頼もしさを覚えるホイムは、同時に不安でもあった。
「エミリア辛そう」
彼の傍らで同じくエミリアの背を目にするルカは、その胸中の清濁併せ呑む感情の渦を感じとりそう評した。
「そうだね。だからまずはこの子たちを守り抜こう」
女性騎士たちの容態を見守りながら呟くホイムは、更に付け加える。
「それと、彼女の溜め込んだモノを今は思い切り吐き出してもらわないと……」
大通りの向こうからざわざわと地鳴りのような音が聞こえてくる。アカネが警告していった通り、数多の魔獣や魔物の類が石畳を埋め尽くすようにうじゃうじゃと波打ち押し寄せてくる。
それを前にたった一人で立ち塞がるエミリアは右手に備えた聖なる剣を天高く掲げる。
雷鳴。
魔物が奏でる地上の騒音を掻き消す轟音が大気を震わせ、暗雲を切り裂く雷光がエミリアの剣へ降り注ぐ。
「いッ!」
「うるさい!」
ホイムは耳を塞ぎ、聴力の勝るルカに至っては雷様からへそを守る子どものように丸まって音を遮ろうとする。
薄暗かった王都に広場を中心とした真っ白な光が溢れる。
それは人を温かく包む日光や静かに見守る月明かりとは全く違う、凄絶にして鮮烈に輝き叫ぶ、力強い光であった。
「――」
バリバリと雷音が弾ける中でエミリアは何事かを呟いた。誰にも聞こえぬ怒りの言葉、恨み辛み、そして雄叫び。
大通り目がけ、長大な稲妻を纏った剣が振り下ろされる。
王都への侵入者が広場で凄惨な光景を目にしたところで魔人の指示で城から放たれ、大通りに溢れかえっていた魔物の大多数は頭上から迫る雷槌が最後に目にした光景であった。
光が到達した刹那には、道を埋め尽くしていた邪な命の数々は消し炭と化していた。
「ハア……ハア……!」
感情に任せて必殺の一撃を放ったエミリアは呼吸を大きく乱していた。その威力から消耗の大きい技であることも確かであろうが、痛めつけられた仲間の姿を目にしたことに因る感情のブレが必要以上に力ませてしまった面もあった。
そして疲弊は隙になる。
空から聞こえる怪鳥音が肩を喘がせるエミリアへと強襲してくる。
雷撃から逃れた無数の手練、その中でも背に生えた羽根で空を自在に飛ぶ人型の魔物ガーゴイルが三体、構えをとっていないエミリア目がけて襲いかかる。
「くっ!」
盾を体の前に、剣を横に構えて迎え撃たんとするエミリアの目の前で、三体のガーゴイルはまとめて首を蹴り飛ばされて明後日の方向へと墜落していった。
「エミリア凄い。ルカは驚いた」
雷鳴のショックから立ち直ったルカである。
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