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凡人ソロ探索者と灰ゴブリン その4
しおりを挟むTIPS
バルタンは用法用量を正しく守り、小さいお子様の手の届かない所で保管して下さい。
バルタン 説明書より
ダンジョン用バルタンを無許可で所持した場合、探索者規定によりその者の探索者免許を剥奪する。
探索者組合からのお知らせより
ティピー式の住居の隙間から筋のような白い煙が漏れ初めている。
残っている住居の内、全ての扉が開かれる。
俺があれだけ苦労してこじ開けた木の扉が地面に吸い込まれるようにして開いて行く。
白い煙が逃げ場を見つけたかのように住居から漏れ出てきた。
すげえな。バルタン。
まるで質量を持った雲のようだ。あの煙はたっぷりの科学物質、要するに毒が練りこまれている。
俺は今更ながら少しだけヤツらに同情した。
「ロクなもん入ってないんだろうな、あれ」
その煙の中に黒い影が飛び出してきた。
巣の中に隠れていた灰ゴブリンだ。まるで炎に包まれた家屋から飛び出してくるかのような勢いでそいつは煙を突っ切る。
だが煙から出てきた瞬間に足をもつれさせすぐに転んだ。
きちんと成分がまわっているようだ。オーケーオーケー。
3メートルほどの距離を縮める為俺は斧を構えてゆっくりとそいつに近づく。
「ア、ギゥ、ガァ…」
うつ伏せに倒れたそいつの唸り声が聞こえる。
威嚇…ではなさそうだな。これだけ近づいているのに俺にまだ気付いていない。それどころではないのだろう。
俺はそいつを見下ろす。ボロの腰蓑にだいたい1メートル程の身長。腰回りにヤツらが好んで使う鉈は見受けられない。
鼻はこの位置からは見えないが耳が小さい。さっき殺した連中と比べると体色も白よりの灰色と薄いな。
幼体だ。巣に隠れていたやつだ。
俺に気付いたのだろう。痺れがまわっている体を両腕を使い起こし、立ち上がろうとして尻餅をついた。
そいつの茶色の瞳を見下ろす。
涙が固まり。やにまみれになっている。
「ア、ア、ギゥ、アイ」
物凄い勢いで、瞼が上下する。
ギョロギョロとした目が隠れる場所を探しているように俺には見えた。
「ははっ、すげえ瞼の動き」
足を地面に押し付けながら尻餅をついたまま後ずさりを始めるが、うまく足が動かないみたいだな。
俺は一歩ずつ近づいていく。
そいつはわめきながら、足と腕をばたつかせて後ずさる。
後ろを振り向き、一際大きくギャァギャァと鳴く。
まだ仲間がいるみたいだな。
ならあまり遊んでいる余裕もない。
一息にそいつとの距離を詰める。斧を翻すように持ち上げ、脳天に視線を集中させた。
振り上げた斧が、降り始める瞬間にそいつは気付いたようだ。瞬きを繰り返しながら自分を守るように顔の前で腕をクロスさせる。
違う、そこじゃない。もっと上だ。
俺の左足がそいつの右足を踏み潰す。柔らかいものを潰す感覚がブーツの底越しに広がり、今まで一番大きな悲鳴が耳に届く。
犬のうんこ踏んだ時に似てるな。
左足で踏み込み、生まれた体重を意識しながら振り上げた斧を、ただ単純にそいつの脳天目掛けて振り下ろした。
チドっ、と斧がそいつの頭にぶつかると簡単にそいつの頭は真っ二つになった。
追加で刃を押し込むことなく首はおろか胸の部分にまで斧はスッと入り込んだ。
豆腐に包丁を入れたようにすんなりと。
骨も柔らかいみたいだ。特別斧が引っかかる事もなく、そいつの体から斧を引き抜く。
十字に組んだ腕は何の役にも立たなかったな。
そいつの左右の瞳は泣き別れてもなお、しばらくパチリ、パチリと開いたり閉じたりしていたが、やがて動かなくなった。
雄か雌かの区別まではつかなかったが、かなり体の弱い個体だったな。
先程同じように脳天に斧を食らわせた成体の事を思い出した。
あいつの頭は固かったな。斧を新調しておいてよかった。
俺は青い血や、肉片がこびりついている斧を見つめる。
さて、残りは何匹いるんだ。
苦しいだろう?、その中。
早く出てこいよ。
心臓が鼓動している。全力疾走をした後よりも早く。
だが息苦しさなど微塵も感じることはない。
さあ、まだまだいるんだろう?
薄汚ない怪物どもが。
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