29 / 42
反撃の時
しおりを挟むTIPS
それは一族の始まりに先祖が大森林から見出したもの。予言の試練に立ち向かう為の秘宝。一族を襲う"大敵"と対峙する時のみ、目覚めるものです。
滅びた灰ゴブリンの一族の精霊士 ウィルの言葉
目の前の地面が隆起する。ひび割れたその地面からまたうねうねと蠢く新しい木の根が生まれる。
気付けば俺の背中から圧力が消えていた。すぐに俺は飛び上がり、後ろの灰トカゲと向き合う。
「うお」
まただ。立ち上がった俺の足元の周りから地面を突き破り木の根が生える。
生き物のようにそれは伸びていき、俺の頭と同じぐらいまで伸びきるとうねり、その先端をぐっと曲げる。その先端の行き先は、俺の敵である灰トカゲだ。
同じようにまた地面に穴が空き、木の根が生える。合計5本の木の根が俺の足元から生えて複雑に成長しながら灰トカゲと相対する。
俺はこの光景を知っている、意思を持つ木の根、生きた木材で出来た住居。
灰ゴブリン。灰色の荒地を住処とする謎の多い怪物種。ヤツらの生きる為の力。先程命がけで殺し尽くしたヤツらが操る特別な力。
「なんで、急に」
理由は分からない。だが1つはっきりしているのはこの木の根は俺を害するものではない。うねりながらも5本の木の根の尖った先端は灰トカゲに向いている。
「熱!」
ポケットからまた火のような熱を感じる。すぐに中を弄ると、熱の原因はやはりこれだ。
「宝石…!」
最後に殺した灰ゴブリンが後生大事に持っていた緑の宝石。それがまた光輝きはじめた。不思議なことに手のひらに乗せると途端にその熱は治る。
まるでポケットに入れられているのを嫌がるかのような。まさかな。
俺はその宝石を左手で握りしめて、斧を構える。命拾いはしたが、状況はあまり変わっていない。
まずはこの灰トカゲを切り抜ける。
しかし斧を構えるも、足のスタンスが取れない。この縛られた足首をどうにかしなければ。
一閃。
ブチィ。
「え?」
俺が縛られた足首に注意を向けた瞬間だった。俺を囲むように生えていた木の根が1つがすごい勢いでしなったかと思うと、俺の足首を縛っていたそれを容易に貫き、両断した。
あなた一体なんの樹の根っこなの? 世界樹か何か?
あまりの出来事に言葉を失うが、すぐに気を取り直す。俺にとって一番大事なのは今回はこの木の根が味方らしいことだ。
「…ナイス。」
木の根に声をかけると、しなった木の根はまるで返事をするようにブルルと震え、またうねうねしながら灰トカゲへその切っ先を向ける。
こいつらもしかして、俺がある程度操れるのか?
灰トカゲは先程から甲高い唸り声と夥しい涎を垂らしこちらを威嚇し続けている。だがよく見るとじり、じりと後退しているのが分かる。
爬虫類の表情はよくわからないが、こいつ。
「お前、ビビってるな?」
恐らくそうだろう。食欲と狩猟本能のかたまりのこいつらが獲物を前に二の足を踏むのならそれは、危険を感じていることの他にないはずだ。
斧を構える。今度は本来の構えだ。
左足を前に出し、肩幅ほど右足を下げる。体を斜めに傾け斧を握る右腕は力を抜きぶらりと下げ、宝石を握る左拳を灰トカゲに向けて突き出す。
来い。
「シュュュュウ」
慎重な個体なのか、完全にビビっているのか。ヤツは一向に襲いかかっては来ない。一瞬このまま逃げる事も考えたが、灰トカゲの動くものに惹きつけられる習性を考えると得策とは言えない。
何より、ダンジョン酔いにより茹る脳が俺に囁く。
殺せと。
ヤツに殺されかけた。食われかけた。痛めつけられた。報いを、と。
灰トカゲに踏みつけられた時の恐怖と痛み、そして怒りが俺の脳内にスープのように混ざり満ちる。
そして決定的だったのは何故か、以前の仲間の顔も脳裏に浮かんだ事だ。坂田の顔をよく見ればあの鋭い目は眼前の灰トカゲに似ている気もしない事もない。
「決まりだな。」
俺の中で逃走ではなく、殺し合いが選ばれる。それはいとも簡単に。
灰トカゲとにらみ合う。ヤツは俺か揺らめく木の根か狙いをつけきれていないようだ。表情の変わらない顔面をキョロキョロと目まぐるしく動かす。
そして、不意にこちらから完全に目をそらした。それが合図となった。
俺が踏み込もうとしたその時だった。俺の足より先に動いたのは5本の木の根。
それが全て同時に灰トカゲへ槍のような勢いで伸びた。
しなるしなる。それは槍の鋭さと、鞭のしなやかさを持つ凶器だ。
灰トカゲは自らに襲い来る木の根から逃げるためその場を飛びのく。
一本目が躱される。空振り地面に突き刺さる。二本目の木の根が横から伸びて、跳んでいる最中の灰トカゲの胴を真横から貫いた。
「じゅアアアア」
悲鳴。空中に縫われたように木の根に貫かれた灰トカゲは悲鳴をあげながら逃れようと必死に手足をばたつかせる。それは虚しく空気を掻くばかりだ。
三本目と四本目が動けない灰トカゲにとどめとばかりに突き刺さる。上から胴体を、下からは喉元を。最後に五本目の木の根は叫びをあげるその口に突き刺さり、文字通り灰トカゲを串刺しにした。
時間にして2秒ほど。恐ろしい人類の捕食者はその命を絶たれた。戦いではなく一方的な狩りだった。
木の根から緑の血が伝う。その度に木の根はドクドクと胎動する。うわ、血を吸ってんのか?
割とショックの強い光景を見にしながら、俺はふと思った。
もし、あの時。灰ゴブリンの幼体と特異な個体と相対したあの時。ヤツらが混乱せずに闘っていたらどうなっていたのだろう。
強い幼体と、木の根を操る特異な個体の事を思い出しそれから空中に縫い付けられた灰トカゲに近づく。
その目はすでに白みがかかり、命が消えていた。
一歩間違えれば、あの灰ゴブリンの集落で俺もこうなっていたかも知れない。木の根に追い詰められ、抉られ、切り刻まれる。よくて即死。悪くて生きたまま食われただろう。
「恐ろしいな。これは」
これだけ騒いでほかの個体が出てこないと言うことはここは群れを作るタイプの個体ではなく、番いで暮らすタイプだったらしい。
灰トカゲの脅威は消えた、残りはアレだ。そして俺は巨岩の上にいるあの大きな耳そのものの化け物を睨みつける。
ソレもこちらを見下ろしている。俺もソレを見上げる。木の根が串刺しにしていた灰トカゲの体から一斉に抜け落ちて、掃除機のコンセントの自動巻き取りのような勢いで俺の足元に戻る。
手のひらの宝石がまた熱くなる。俺はその熱から逃げるのではなく強く握りしめる。
耳が巨岩から降り立った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる