39 / 42
土の匂い
しおりを挟む来るな、来るな、来るな。
心臓が大きく暴れる。今にも爆発しそうだ。俺は視線を下げて地面に伏す。少しでもアレに見つからないようにと願いながら体を低く、低く突っ伏した。
ドクンドクンドクンドクン。
心臓の音が体から漏れているのではないか。地面に反響したその音が俺の耳に響く。収まれ収まれ収まれ。
何をしても心臓の鼓動が止まらない。それどころか更に大きく広がっていく。地面に突っ伏し目を瞑る。瞼の中の暗闇の中、その鼓動だけが在った。
アレに捕まった人間達の末路、その叫びがリフレインする。人として死ぬことは出来ない。安物のおもちゃのようにバラバラに引き裂かれ、殺される。
怖い、ただ怖い。しぬのがこわいのか。アレに殺されるのがこわいのか。ここにいたくない。何で俺がこんな目に合わないといけないんだ。
どれほどたった? アレは今どこにいる?
俺は茂みの中で薄めを開け、顔を前に向けた。
「ひっ…!」
いる。俺のいる茂みのすぐ前にそれはいる。茂みの隙間から地面にうつ伏せ寝転がり、その耳をべったりと土に付けている。どきりと心臓が跳ねる、ソレの耳もびくりと跳ねた。
地面に耳を当ててまるで耳を澄ませているようだ。何を聞いている?
ソレから目が離せない。体を小さく震わせながら地面に寝転がるソレはやがてゆっくりと立ち上がり、こちらを見ていた。俺のいる茂みの方を向きじぃと立ち尽くしている。
(見るな、見るな、こっちを見るな…)
目がないはずのソレは茂みを見下ろす。茂みの中の俺を見つめているようだった。
呼吸が更に薄くなる。肺が多量の空気を要求する為に必然、薄い呼吸の回数が一気に増え息が切れた。
ソレが茂みに手を触れる。
バレてる、終わった。無意識にカーゴパンツのポケットに手を入れ、その中に放っている宝石に手を触れる。残念ながらは何の熱も感じないし、光輝くことも無い。
茂みの隙間から壊された二人の死体が見える。一体、二人の恐怖はどれほどだったのだろうか?
どうせ隠れ切ることができなかったのなら、いっそのこと彼らが襲われていた時にこの茂みから飛び出していたら? 北嶋が応戦した時に加勢していたのなら? 何かが変わったのだろうか。
俺はそんな今更どうしようもない、もしもについて考えを巡らせ、ある種の諦めと共にホルスターに手をかけた。
どうせ死ぬのなら。震える手が上手く斧を取り出すことが出来ない。頭の中では闘わなくてはならないと思っていても心と体は正直だった。
無力感、恐怖、土の匂い、焦り。これが死ぬということなのか。
ガサっガサガサ。
ソレが茂みを掻き分ける。深い茂みが割られる。俺を見下ろすその耳の体は所々犠牲者の返り血で赤く染まっていた。
「I found it」
耳の穴から音が流れ出る。今のは俺にもわかったぞ。見つかってしまった。
うつ伏せのままソレを見上げる。震え続ける手が斧を掴むことはなく、そしてソレが俺に手を伸ばす。
ソレの穴と目が合う。
はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、
呼吸が荒い。
ダメだ、怖い。目を瞑ろうとしてしまった瞬間。
ソレの体がブレた。と思った瞬間遅れてパァン、乾いた破裂音が響いた。
銃声?
たたらを踏みソレが俺から目を離し、音のした方角を向いた。一体何が起きた?
「こっちだ!! 化け物!」
投げ捨てられ、ひっくり返った車両。それに寄りかかりながら銃口から硝煙が流れる銃を構えた屈強な迷彩の男。
頭から血を流した田村が耳の化け物に向けて吼える。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる