魔女学校の理科教師 — 魔素と恋の臨界点 —

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第16話 心の共鳴

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夜の廊下は冷え切っていた。
灯りはほとんど消され、所々にある魔法のランプだけが青白い光を灯している。

その廊下の片隅に、カイが座り込んでいた。
背を壁に預け、乱れた髪を指でぐしゃぐしゃと掻き回している。

「……なんで俺が、こんな……」

低く掠れた声が落ちた。

自分はずっと、人を突き放してきた。
皮肉を吐いて、誰とも近づかず、心の奥を知られないように。

(なのに……)

胸の奥で、何かがちくりと痛む。

頭を抱え込んでいたそのとき、そっと足音が近づいた。

「カイ……?」

声がして顔を上げると、そこにはティナが立っていた。

光の下で、その髪は淡く輝き、透き通るような肌に影を作っていた。

「……なんだよ」

「ずっと探してたんです。あなたが最近、一人でどこかに消えるから」

カイは舌打ちをした。

「別にお前に探される筋合いは――」

言い終わる前に、ティナがしゃがみ込み、そっとその手を取った。

「……なにしてんだ」

「カイの心が苦しい音を立ててるから、放っておけません」

「ふざけんなよ。俺の心がどうなってるかなんて、お前に分かるかよ……!」

カイはそう言いながらも、その手を振り払うことができなかった。

ティナはそっと微笑み、小さく首を傾げる。

「分かりますよ。私はそういう魔法だから。
人の心の音を、あなたより少しだけ強く感じ取れるだけ」

「……そんなの、勝手に覗くな」

「覗いたんじゃないです。カイの方から、泣いてたんです。
私を呼ぶみたいに」

カイの指が小さく震えた。

ティナはその震える手を両手で包み込み、ぎゅっと抱き寄せた。

「やめろ……っ」

「嫌です。だってカイ、寂しいんでしょう?」

「……っ、黙れ……」

「大丈夫ですよ。私がいますから」

カイは俯き、唇を噛んでいた。

それでもティナの手からは逃げずに、ただ静かに肩を震わせる。

やがて、かすれた声が漏れた。

「……お前、俺に……どうしてそこまで……」

「簡単ですよ。カイだからです」

「……意味分かんねぇよ」

「ふふ……分からなくてもいいです。いつかちゃんと教えてあげますから」

ティナの手がそっとカイの頬に触れた。

カイはその温かさに抗えず、瞳を閉じる。

ほんの少し、弱い自分を晒すのが怖かった。

けれど、その怖さを誰かに抱き締められることが、これほどまでに安心するなんて。

(……もう少しだけ、この温度に甘えてもいいか)

カイは心の中でそっと呟いた。

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