星降る森で、猫と過ごす癒しのスローライフ

第6話 森の朝と小さな約束

星猫の夜が明けた森は、嘘のように静かだった。

昨日までと変わらぬ木々が揺れ、小鳥が枝を渡る音がやわらかく響く。
あの光に包まれた夜が本当にあったのか、少し不安になるほど。

けれど少女は、額にそっと触れて微笑んだ。

「……夢じゃない」

そこには何の印も残っていない。
けれどあの夜、ルチルと額を重ねたときに胸に落ちた温度は、今も消えずに残っている。

森の小道を歩くと、葉の影からルチルがひょっこりと顔を出した。
少女の顔を見るなり、小さく鳴いて駆け寄ってくる。

「ルチル……」

しゃがみ込むと、ルチルは当然のように胸に飛び込んできた。
柔らかな毛並みに顔を埋めると、微かに森の匂いがする。

ずっと怖かった。
誰かと触れることも、近づくことも。
自分が何かを壊してしまうのではないかと怯えていた。

けれどこの森では、それが当たり前のように叶えられる。

「また……一緒に歩いてくれる？」

そう囁くと、ルチルは小さく尻尾を揺らした。
返事をするように、彼女の掌に額をそっと押し当てる。

それだけの仕草で、胸の奥に静かな光が広がった。
あの夜に見た星たちと同じ、柔らかい光。

少女はそっとルチルを抱き上げ、森の奥へ歩き出す。
何も変わらないように見えるこの森が、今日からは少しだけ違って見える。

「ありがとう、ルチル」

その言葉に、ルチルは小さく鳴き返した。